地獄酒場
ねむ…ねむ…ねむ~い
私は目をこすりながら、それでも仕事だから必死に目を開けて
凄い勢いで接客する清美さんの横をうっつらうっつらとお酒を運んでいる。
猫の平均睡眠時間は16時間で、人間とは比べ物にならない。
おまけに、一緒になった”みけ”ちゃんも結構なおねむさんで、きっちり8時間寝る子
なんで、今は10時間寝ない日は殆どない。
獣じゃないんで浅い眠りが重要じゃないんで結構、短くても大丈夫にはなったが、
それ以上は無理!
という訳で夜中…8時に洗濯物外に干してばたんきゅ~の私に
夜9時の接客なんてできるわけないじゃん!
もう、始まる前には9時には店が終わるって話が次々お客来るし~勘弁して…
え、計算が合わない?寝てるのよ学校とバスの中でさ
目を開けたまま寝てるに決まってるじゃん。
ましてやお酒に酔ったおじさん達しつこく色々聞いてくるし…
ご近所で昔からお買い物でよく知ってるから、
それ以上は理性が働くから一応紳士的な物言いの商店街の人はまだいいけど
南先生の旦那様の同僚のおじさん達は
目がキモイ
発情期のオス猫みたいな匂いもするし…怖いわ!
一回り違いはもっと大人になればあるだろうけど、
高校生の私の上限は精々、上のお兄ちゃん程度だよ?勘弁してほしい。
そんなに私ぐらいのが欲しけりゃ、高校時代にがんばりゃよかったんじゃないの?
もう大人しくさぁ…
その年で相手いないなら結婚相談所でも行けばいいじゃん
30過ぎたおばさんなんか、若くて定職ついてるだけで飛びつくって聞いてるよ?
と、刺激的な事を考えて必死に目を閉じるのを我慢していると
「 みけ、もう帰れや 」
後ろから、大ジョッキを6つも持ったギーちゃんがつんつん背中をつついた。
ギーちゃんの格好は、152センチと小柄な彼女だけど
流石に大人の女性だから、大人っぽい赤いドレスを着ている…
まあ、学芸会の衣装みたいで似合わないけどね。
「 アレが、飲み始めたからなぁ…被害多くなるだろうし。
ここは地獄になるぞ…
瞳には携帯で伝えているから、智ちゃん連れて退避しなよ… 」
ギーちゃんが顎を動かした先を見ると、私の恩人のジャニスさんが
旅館の浴衣をはだけさせ
真っ黒なタンクトップにスパッツが丸見えになりながら、大ジョッキを片手に
巨体を振り回し、近くの若い(注 28.9)男を引き寄せながら
何やらわめいてるのが見える。
「 あいつさ、酒はいると陽気になるのはいいけど男欲しくなるんだよなあ 」
「 は? 」
確か、ジャニスさん処女のはずだけど…私は、長い付き合いだからよく知ってる。
「 言っとくが、抱き寄せて構いまくるってことだからな。
猫かなんかを可愛がるようなもんだ…
いくら美人でも怪獣の様な力で振り回されれば、エッチな気分にならんって
命の危険の方が大きいからな 」
「 あ… 」
私が声を上げたのは、並々と注がれていたビールをジャニスさんが
先ほどの男の人を大きな胸と大蛇の様な腕でヘッドロックしながら
2リットルぐらい入りそうな大ジョッキのビールを
無理やり飲ませて、キャキャと笑っているところを見たからだ。
「 死んだな…あの子も」
その言葉の通り、へなへなと男の人はソファーに力なく崩れた。
酸欠と大量のアルコールで気を失ったんだろう…
その様子に、その傍からゆっくりと腰を上げて逃げようとする男も
長い手で捕まえて自分の方へ抱き寄せる。
メキメキと音が聞こえそうなほど浴衣の裾に皺が寄って
スリーパーホールドのように締め付けられて苦しそうな顔で手足をバタつかせたが、
直ぐに諦めてなすが儘になる。
巨大な胸に頭が埋まって
水割りを立て続けに3杯飲まされてさっきの人のようにソファーに寝転がる。
「 にゃははは! 」
ソファーの上でジャニスさんが立ち上がると、スキップしながら隣のソファーに
ダイブすると、その場の数人が反動で跳ね上がる。
勿論逃げる間もなく捕まって、更に犠牲者を増やしだす。
「 しょうがないなぁ、ちょっと手伝ってくれや 」
神さんが、傍にいた若い男の人に声をかけて、
ソファーに倒れた二人を引きづって部屋の隅でギーちゃんに酔い潰された人たちの所へと
運び出している。
その一方で
「 おいおい、この酒少し濃くねえか? 」
少し離れた席から清美さんが持ってきたお酒に文句を言うおじさん達が見える。
商店街の人たちの中でも年長の部類の人たちだ。
「 そうかい、御免ねぇ…リンドが馬鹿やってさぁ分量間違えたんだよ。
ま、これで薄めればいいじゃん 」
清美さんは近くにあったコーラをコクコクと注いでほんの少しだけ入れて
コークハイのようにして
「 ま、その分サービスしてやるよ 」
と、おじさんたちの輪の中に入っていってその酒を片手に
スレンダーな体がくねくねとおじさんに密着して(なんかいやらしい)
形のいい乳房をおじさんの肩に押し付けて
「 飲めるよね~~ 」
と、最後になんか唇が動いたように見えたけど、
既にだらしなくなっている顔が更にだらしなくなっておじさんが口を開ける
そこに酒を注ぎこんでいく
その様子を逃げもせず羨ましそうに見ているおじさん達。
更に、順番を待つかのようにお酒注がれてるおじさんの後ろに行儀よく並ぶ
頭をかしげたくなる光景だが現実の光景だった。
「 か…帰ろうかな 」
私は鼻がいいのもあって、ラウンジに充満するアルコールの匂いで少しくらくらしてきた。
さっきまでと違って、
明らかに空間に漂うアルコールの量が変わってくるのが分る。
眠いのも相まって、少し吐き気がしてところでテーブルにお盆を置いて
そのままの体制でその場で動けなくなってしまった。
「 大丈夫か? 」
私は、背中を優しく摩る智彦君を拒否することもなく受け入れた。
普段なら飛びのくところだけど、そんな元気もない…
「 はよ、帰れ… 智彦さ~くれぐれも変な気を起こすなよ 」
ギーちゃんのその声はふわっとした意識の中でかすかに聞こえたが、
急に腰が抜けて
その場に崩れ落ちる感覚を最後に何も考えることができなくなった。




