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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
71/100

カクテル

  宴会場の前の廊下を

 南 亜紀は目の前を歩く夫の背中を見ながら歩いていた。

 

 そして抱きかかえられているので、

 彼の肩に手を回して、自分の方を申し訳なさそうに見る小山内 愛に

 苦笑いしながら手を振る。


「 愛ちゃん、何があったか私たちに教えてよ。

  私も貴方も二度と島に戻れない同士なんだし…いくらでも相談に乗るわよ 」


 それは柔らかい口調だった。

 さっきの感情の爆発の様な愛の行為から、そこには重い何かを感じたからだ。

 きっと、苦しい日々を生きてきたんだなぁと

 亜紀は再開の最初のような咎める感情はもう無かった。


「 久しぶりだなぁ…中学以来か。

  愛ちゃんが爆発して体を壊してこうやって背負うのはさぁ 」


「 …だね 」

 愛は、久しぶりに感じる人の体のぬくもりに少し気持ちが楽になっていた。


「 ま、高校からは旦那の和夫が代わりに… 」


「 もう、旦那じゃないよ 」


 愛の言葉に、ゆっくり歩いていた孝之の歩みが一瞬止まったが、直ぐに歩き出した。


「 そっか… 」


 孝之は、自分の胸に感じる愛の少し激しくなった鼓動と、

 肩に顔をうずめた愛を感じてそれ以上は言葉を繋げなかった。


「 今日は、私たちの部屋に泊まりなさいよ… 」


 背中に何か刺さるような衝撃を感じた亜紀は、

 更に腰のあたりでじゃれついている娘を少し抱き寄せた。


「 10年は長いもんね 」


 ぼそっと呟いて亜紀は古い記憶が頭に浮かんだ。


 自分の娘と愛とそして和夫の幼馴染の沙紀が仲良く

 学生寮の坂道を降りて行く光景を思い出した。


 無垢で、将来が薔薇色に開いているような幻想を抱いて歩いている姿…

 そして、その背中を見るたびに

 将来は荒波しかないのよと、腰に手を当てて思っていた自分を。

    








 「 おいおい、大丈夫かよ? 」


 隣でカクテル作ってるリンドの手元を見て渋い顔で

 もう一人の”限界知らず”の従業員の神が驚く。

 バー・スプーンじゃないただのマドラーでステアするのも驚きだが、

 適当すぎる計量はもっと怖い…


 「 ジントニックやろ?これでいいじゃん… 」


 ボトンと、ステアしたタンブラーを置きながらリンドは答える。


 「 あのさ、合わせりゃいいってもんじゃないんだけど 」

 

 神がひきつった顔でそういう中、リンドは澄ました顔で計量しだす。


 「 別にいいじゃん。ジ~~~~~ン トニック んでポチャ 」


 掛け声に合わせて

 本来、25パーセント程度のドライジンの分量が75パーセントで注がれて

 逆にトニックが25パーセント

 炭酸の泡もパッと浮いてすぐ消えていく様な高濃度のアルコールに

 無造作に、ライムを落とし込む。


 「 あ~あ…それ、焼酎ストレートよりアルコール度高いんだけど

   誰が好き好んで飲むんだよ… 」

 

 どうせ、そんなの突き返されると思って神は両手を広げて肩をすくめる。


 「 あんさ、神さん。

   好き好んで飲んでもらう訳じゃないのよ…飲ませるのよ無理やりに 」


 既にラウンジの隅で、ギーちゃんの高速ビール注ぎで脱落した男たちを一瞥し

 更に、接客しているギーディアムやナディアに絡みつく商店街の店主たち

 及び、同じ町内で旦那とも仲がいいのに酒の勢いで

 恥知らずにもその奥さんを口説きにかかっている年配者にため息をついた。


 「 ほいほい 」


 リンドが、適当にタオルでタンブラーを軽くふいて手招きをすると

 背の高い清美が

 「 こんなのしかないが… 」

 と、衣裳部屋から取り出したパンツも見えそうな黒いミニに

 赤いタンクトップを着て、

 楽しそうな笑顔でスキップしながらカウンターに来る。

 スレンダーな体形で脚が長いので凄く似合う格好で、

 さっきまでの見てくれや姉ちゃん口調とは違い

 意外とそんな恰好や接客を楽しんでるように見える。


 「 こいつが、あの糞爺どもの盆な。

   間違っても、あそこのおば様や兄ちゃん達には出すなよ 」


 リンドがきつい口調で今作ったジントニックの乗った盆を指さす。


 「 おまえさ、50そこそこじゃあ糞爺って言うわけにもいかんだろが

   梶たちみたいなエロ親父はさっき潰したんだし 」


 泡がすっかりと無くなって、

 ドライジンのきつい香りを漂わせているグラスが並んだお盆を見て

 清美が呆れたように呟いた。


 「 それに、こんなにすげ~匂いしてちゃあさ、飲むわけねえし 」


 顔を近づけて思わず嫌な顔をした清美が不満そうにリンドに話す。


 「 そうか…じゃあお前の能力+その胸と尻で何とかして飲ませりゃいいだろ?

   面倒なんだよ爺の相手なんかさぁ 」


 顎で、商店街の中高年店主たちを示すと、


 「 僕もそんなに変わらないんだけど… 」


 と、神が呟くと顔を向けないままリンドが当たり前にような口調で答える。


 「 顔が渋いし、腹も出てないし、受け答えが紳士じゃん。

   そう言うのは、爺じゃなくて小父様って言うの。

   あっちは、なんも取り柄のないおやじ連中だし爺でいいんだよ 」


 「 そうかねえ、爺って言ってもうちらから見たら子供じゃんか 」


  清美はそう言いながらも強烈なジントニックの乗ったお盆をしっかりと取って

  片肘をカウンターについた。

  後ろから見ると、少しお尻を突き出した格好になるので

  若くて丸みのあるお尻に異様に集まってくる視線を感じて清美が乾いた笑いを浮かべる。


 「 なら、お前が相手しなよ 」


 「 あほか…なんで私が大体さ、客で出来たんだぞ…なんでそんな事まで 」


 「 しょうがないだろ、礼二には世話になってるし

   あいつがバイト代出すっていうならさぁ…魅力的だろがぁ 」


 「 バイト代ね~、あの豆腐みたいな顔の若女将が許すかしらん 」


 「 愛人の呪いかけられるのが怖いからだすでしょ?

   あたしは既婚者だからいかんけど、ナディアの名前出したら折れるって 」


 「 そうか~礼二だったら私でもなっていいかな愛人。

   あの豆腐女将からしたら10億の宝くじ当たるより幸運だったからなぁ

   礼二との結婚てのは…

   ま、長い事独り身の私に取っちゃあ羨ましい限りだわ 」



 「 いいじゃんか…男は結構いたんだし 」



 「 結婚とは違うよ…恋愛なんてのはさ 」


 そういいながら、再びラウンジの中でしきりに口説こうとしている男たちに目を向ける


 「 まあいいよ、配ってくるわ 」


 そういうと少し口元を動かして、ジントニックの上で手を2.3回振った。


 それまでの強烈なアルコールの匂いがなくなり、ライムに匂いだけとなった。



 「 あ、お前さ既婚者なんだから男には手を出すなよ 」


 清美の言葉に、リンドは笑ってそれに答えずまともなカクテルを作り始めたいた。


 
















 


 


 




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