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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
68/100

処女の猫

  南先生のパンツ事件も旦那さんの一言で落ち着いて、

 しばらくすると、宴会後に一度お風呂に入ってきた人たちも合流してきて、

 お客さんがさらに増えて店の中は忙しくなってきた。

更にはジャニスを見て敬遠した孝之の友達たちもギーちゃんたちを見かけて

 すっかりめかしこんで訪れて

 そこそこ広い”限界知らず”の店の中もいっぱいになってくる。


  「 お客なんだから、何も手伝わなくていいからね 」

 先生にそうは言われたけど、

 先生一人だと手が回らないようだし、神さんは鬼の形相でカクテル作ってるし…


 それに、商店街のおじさんたちはほとんど知り合いの私としては、


 「 ”みけ”ちゃん、ビール 」


 って、当たり前のように言われたら運ばないわけにはいかないし

 

 「 一緒に歌おう 」


 って言われたら、よくわかんない歌でも音を拾いながら付き合ったりするしかないじゃん。

 

 毎日のように夕方買い物に行ってるし、私の家庭の事情とかも知ってるから

 自分の娘の様に優しい目で見てくる商店街のおじさんたちは結構好きなんだよね。

 でも、

 「 あって困るもんじゃないから 」

 って、飲み屋かなんかのノリで裸で1000円札渡すのはやめてほしいけど…


 

 「 まあ、手伝ってくれるんはいいけど…その恰好じゃあなぁ 」


 ってことで、途中からおとなしめのドレスとパンプスを借りて殆ど従業員?って感じ。


 「 これ、内緒な… で、向こうの島にはいかないように 」


 向こうの島?って先生の指の先を見ると…南先生の旦那さんの友達たちがこっちを見てる。

 中には先生のほうを呆けた顔で見ている人もいる。


 「 あいつら、お前ぐらいまで狙えば落とせるって思ってる馬鹿たちだから相手するなよ 」


 私は背筋が寒くなった。

 孝之さんは、10歳の子持ちって見たら若いし、かっこいいし落ち着いてるけど

 30ぐらいって私から見たらお父さん?って感じだから。

 同級生のお父さんにも35歳って人もいるし…


 で、少し観察してみる。”うん、無理!”って答えしか思いつかない。


 「 先生…1万円も… 」


 って言いかけたら唇に指をあてられた。


 「 金が絡むと法律違反だって、あくまでも知り合いの手伝いってことにしてくれ

   だから内緒なんだ 」


  まあ、それはわかるけど…今日はバイトするより儲かるわ。

 おじさんたちに8千円に先生から1万円か…時給6000円!すごいね。


 

 やがて時間も経って少し店が落ち着いてきた。

 今さっきギーちゃんが、下手くそな歌を歌いすぎて、喉を潤そうとビールを立て続けに飲んで

 真っ青な顔でお花を摘みに出かけたんで余計に静かになった店の中に


 「 はあ… 」

 

 と、ため息が聞こえた。

 やっと泉さんから解放された智彦君が、珠ちゃんの隣で天井を見ながらついたため息だった。

 なんだか心底疲れてるよう…

 ま、泉さんの前にナディアさんに絡まれてたらしいから無理ないけどね…

 

 私の方はやっと仕事が落ち着いて、その様子を見ながら向かいのソファーに座る。


 智彦君は、最初は瞳の隣に逃げてきたんだけど、

 瞳が、専務さんに呼ばれて席を立った際(10分ぐらい前かな)

 おばちゃんたちとギーちゃん達をチラッと見た後、

 一瞬私の顔を見たけど、思いっきり首を横に振って(なんでだろう)

 珠ちゃんに智彦君の面倒を頼んで出ていった。

 

 まあ、珠ちゃんは智彦君とはここでしか接点が無いが、

 流石に隣で泥の様にソファーに沈まれたら、

 やんちゃな珠ちゃんでも優しい言葉の一つや二つかけるし頭だって撫でる。


 その様子を横目で見ながら少し手の空いた先生が面白くも無いって顔で

 私の横に座って大きくため息をついた…


 しかし…今日はよくため息をつくなあ皆さん。


 で、いきなり少し腐った魚の様な目で先生に睨まれた。


 「 ”みけ”ってさ…付き合ってる人っているの? 」


 えっと…同級生じゃないんだから…


 「 いません…いるわけないじゃないですかぁ。まだ16の子供だし… 」

 

 あるわけないじゃん。


 オスだよ…普段は澄ました顔してナンパに来るカッコいいお兄ちゃん猫たちも、

 発情期には、鼻を膨らませて目が血走って怖いし、

 普段はスリスリしてくる挨拶程度なのに、

 子供作らなきゃって使命感に燃えると、いきなりお尻を嗅ぎに来たりさ、

 手足をピンと伸ばしてブロック塀の上をにやにや笑いながらアピールしたりさぁ、

 ヤラセテくださいって土下座しまくるオスだよ!

  

 いや、お前だって発情期あったろ?って思うだろうから説明するけど、


 猫の発情期は年3回ぐらいだから…1年で死んだ私は2回しか経験ない事になるよね。


 私も獣だったから、発情期には狂いそうなぐらいムラムラとは来たけどさ、

 何故かアレの経験は無いんだよね。

 きっと、さっき言ったオスの情けない行動にマジか?って冷めてたんだと思う…

 更に言うと、

 別に私の事が好きとか嫌いって事じゃなく、本能で種付けに来るのが更に嫌って思ってた。

 だって…凄いよ本能って

 競争相手がいたら殆ど殺し合いみたいな戦いするし、折角勝ってもメスを取れるわけじゃない。

 選定の権利は常にメスにあるから、

 もうホント…情けないぐらい低姿勢で産んで産んで…僕の子供産んでのお願い凄い。

 でも、勝つのって大体強面、重量級のブタ

 勿論断るよねぇ…で、人生オワタって感じでそいつはトボトボ住処に帰っていくのよね。

 そのくせ普段は縄張り絡むと私にだって喧嘩売るし…平気で牙むき出し。

 いくら本能って言ったところでゴミじゃんオスってと思たのもある。


 あんなのの子供産むんかい!って思ったら火照る体も、

 フェロモン出まくって頭が可笑しくなりそうな神様の仕打ちも我慢できた。


 まあ、そんな風に頭で考えて本能に勝てる珍しい猫だったから生まれ変われたんだけどね。


  「 変わった猫さんですわね…1年近く生きて処女の猫なんて。

  まあ、その方がこの子も経験ないから適合性が高いんですけどもね 」


 って私のアレをマジマジ見て言ったジャニスさんの顔を思い出す。

 

 メスは発情期にしか興奮しないけど、オスの方は…人間と同じでいつでも出来るから

 処女の猫って普通はいないんだよね…去勢した飼い猫ぐらいかな。


 生臭い話でごめんなさいだけど、事実だもん。

 それに、私の好きなお兄ちゃん達だって人間で男なんだし彼女いるから…

 木田ちゃんには可哀想だとは思うけど多分経験済み。


 でも、これから長い人生だし上のお兄ちゃんと木田ちゃんは4つぐらいしか変わらない。

 木田ちゃんは…美人じゃないけど愛嬌はそこそこ…体形は私とどっこいどっこい…

 頭は私よりかなりいいけど所詮”三谷澤”…料理…掃除…

 うん、取りあえず笑っていようね…お兄ちゃんよく笑う子好きだし。


 尊敬できるお兄ちゃん達でもそうだから…馬鹿な普通の男なんてもっと酷いだろうと思う。


 ま、それでも南先生の旦那さんは良さそうかな…南先生一筋って感じだし、

 背も高いしハンサムでかっこいいし、ちゃんと仕事して頭もよくて子供可愛がる…

 ああいう人なら考えてもいいけど宝くじに当たるより難しそう…

 こんなダイヤモンドを40でゲットする南先生は羨ましいを通り越して恨めしいわ。



  愛先生が、私の顔をじっと見る。


 「 可愛いわね…”みけ”って 」


  は?ちょっと…何言ってるんですか?


 「 でも、うちも負けないぐらい可愛かったんよ…昔はさ 」


  そういって遠い目をしながら、仲睦まじい南先生夫婦のほうをふらっと見る。

 そして、また先生が私の顔を見ながら。またまたため息をつく。


 「 でやな…本当に女の華って短いんやって…

   その時に男を選ぶの間違えたらそれで御終いなんやって、うちかてそう… 」


 うんと…どう答えたら。

 間違えたんですか?先生…まあ、離婚してるみたいだし、そうでしょうけど…

 でも先生って、29歳にしてはすごく若く見えるし美人だし体だって…

 下手な20よりよっぽど若々しい…わけないか…それだと高校生じゃん。

 でもでも、まだまだ…

 先生と同い年とか…あそこにいる30ぐらいの…ううう、嫌だよね。

 30まで売れ残ったか買い損ねたって感じの人だし…


 「 でも、世の中にはそんな常識覆す化け物っているんだよね…あそこに 」


 ミシミシと、異様な音が聞こえてくる


 「 世の中って不公平すぎるわ… 」


 バシャーンとすさまじい音と共にガラスのテーブルの天板が砕け散り

 先生の持っていたパイプが異様な形で変形した。


 まるでスローモーションのように飛び散っていくガラスの破片は天井の照明と

 瞬く彩の光に照らされて煌めく星のようになって私の足元に降り注いだ。


 一瞬にして穏やかだった店内が水を打ったように静かになった。


  あの先生?ひょっとして嫉妬ですか?


 恐ろしい空気になって、周りの目がこちらに降り注いできた。





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