数倍長い
午後8時40分 そろそろ宴会時間の2時間が迫って来る。
男性陣の仕切りの方では、部屋の隅に捨て置かれた年配の人たちが
仲居さんが気を使ってかけた毛布にくるまって鼾をかいていた。
寝ている梶 甚六をはじめとする6名の年配者をギーちゃんが大股で見下ろしている。
「 結構粘ってくれたもんや…フラフラになって1時間半もようやるよ 」
その声は、小さかったが甚六には聞こえたようで、
最後のあがきで、ブルブルと震えながら人差し指を何とかあげて
「 疲れてるからと奥さんから長い事、
夜の生活を拒否され続けている初老のオヤジを舐めるんじゃねえ… 」
と、とんでもない言葉で返してそのまま床に沈んだ…
「 馬鹿じゃねえのか?長年連れ添った50過ぎのおばさんが拒否するのに
なんで、
たまに遊びに来る若いあたいらがお前の相手するって思ってんだよぉ…
脳みそ膿んでんじゃねえのか? 」
清美は、甚六の横腹を軽く蹴りながら不快な表情を浮かべ、
「 まったく…小細工せずに常識的に飲むってのなら付き合ってやっても構わないんだけど
頭の中、それだけだもんなぁ…このおっさんたちは。
ああ、嫌だ嫌だ…いくら空想とはいえ夢の中であたいを抱いてるって思うと
気持ち悪いし、殺したくなるんだけど 」
リンドは、自分の担当だったおじさんの胸元を引っ張り上げるが、
過重な酒の摂取で首に力が入らないのか液体のように首が床に伸びる。
「 馬鹿ですね…おじさま、対象を選ぶ自由は私達の方にあるんですよ。
今日はこの子って決めてますの 」
と、自分の担当のおじさんに見せびらかすように西宮智彦にじゃれついた。
折角、隅の方で料理を楽しんでいたのに、
大蛇の様にするすると体を絡みつかせ、甘い吐息を顔に吹きかけられて
少し気持ち悪くなったが、
それよりも、折角解放されていたのに、再び柔らかい滑るような肌の感触と
肌に直接入って来るナディアの体温と快感に必死に耐えるほうが大変だった。
「 はは…酷い状態になりましたねぇ…一次会もそろそろ時間だし
は~~~この後はどうします? 」
スケベ爺が4人まとめて酔い潰されて、
残った他の組合員も少し元気がなくなってしまったようだ。
その中でも意を決した35歳ぐらいの男は遠慮がちにギーちゃん達に話しかけた。
「 なに、かっこつけてるんや? いつもの様に元気ださんかい! 」
ギーちゃんが175センチほどあるその男の背中をパーンと音が出るほど叩く。
結構痛かったのか、その場でしゃがみこむほどだった。
「 予定通り二次会じゃん…しっかりせえよ。行くんだろ二次会? 」
リンドが笑いながら、近くに在ったビール瓶をラッパ飲みしだした。
「 ジジイに飲ませるのに夢中で飲んでなかったからな…
”限界知らず”に行く前に、ちょっとひっかけて体温めんとくか… 」
( いや、あんたたち…
おじさん達に飲ませる時もしっかり自分でも飲んでたじゃないか )
と智彦は思ったが、さっき半裸で浴びるほど飲んでいたギーちゃん達を思い出して
言葉にするのは止めた。
「 じゃあ、あたしも飲むか… 」
清美は、後15分ほどで終わるのにサッとソムリエナイフで口元を切り
ワインオープナーで新しいワインのコルクを凄い速度で開けると、
再びナミナミとワイングラスにワインを注ぎ始め、
「 んじゃあ、あたいも飲むわ…副会長!後は適当に締めてくれや
それから、
一緒に二次会に行くやつはここで待機な…後は好きにしてくれればいいよ 」
ギーちゃんは絡みついているナディアと智彦の裾を引っ張って
すぐ横に座らせた。
「 お前、こいつを独占しすぎや…終わるまでちょっと回せや。
相手なら…う~んと、あそこの男でも捕まえて飲んでりゃいいだろ 」
ギーちゃんが指さす先に30前後の商店街の後継ぎたちを指さした。
「 え~年寄りじゃん… 」
「 あほか、あれで年寄りなんて言ったら罰が当たるって
まだ30になったかならないかだろ?あいつらって丁度いいじゃん 」
「 でも、智ちゃん… 」
「 いつの間に智ちゃんなんやねん…まだ高校生の子供だぞこの子。
いい加減にやな、その変態みたいに超年下好きは止めろって…
あいつらだって、見てくれはそこそこだし…十分若いってば 」
ナディアはギーちゃんと智彦の顔を交互に見て、大きくため息をついた。
「 しょうがないわね…まあ、あの子たちでも十分若いから我慢しますか…
それに、あんたにはお似合いかもしれないしね。
後でちょっといいことしようと思ったけど、この子じゃあ若すぎるし
経験だってそんなにないだろう…ってか皆無だろうしね 」
そこまで言ってナディアは首を竦めると、スキップしながら
静かに飲んでいた若い男たちの方へと飛んでいくと、その場で大きな歓声が広がった。
「 と、邪魔者は消え… 」
ギーちゃんがそう言うと途端に、背中側にリンドと清美が腰を下ろす。
「 という、お前が一番危ないんだよなぁ 」
「 智彦君も気を付けなさいよ…見た目と頭の中は別物だから 」
リンドはサッと智彦を自分の方に引き寄せて直ぐに隣に座らせた。
不満そうにギーちゃんが振り返ったが、
リンドは、ニヤニヤ笑いながら胸の前で手を十字にクロスさせると、
「 少しぐらい我慢しなさいって…二次会で歌でも歌って弾けりゃいいでしょ。
この地の高校生相手ならそこぐらいが常識範囲でしょ?
流石に色ボケのナディアでもその辺は分かってるのよ。
それとも、ナディアの数倍は長い間生きて来たあんたは、それも分かんないのかしら? 」
と、少し強い口調でギーちゃんに注意をした。
( 数倍長い?ってどういう意味なんだろう…見た目はナディアさんの方が
年上に見えるぐらいなのに )
智彦は不可解なリンドの言葉に首を傾げた。
「 さて、宴も酣ですが、そろそろ時間と相成りました… 」
暫くして〆の決め事を終わらせ、
一同は二次会となる”限界知らず”へと向かった。
梶たちの惨状を見て立って歩いて部屋に戻った者もいて、
男性側の二次会参加者は総勢は16名となった。
さて、打ち捨てられた梶達だが、屈強な旅館の男たちに引き摺られて
元々取ってあった部屋へと運ばれて行き、
そして、そのまま明日の朝まで目を覚ますことは無かった。
翌朝には、体中を筋肉痛が襲う程に、酷い二日酔いとなる事など
死んだよう眠る梶たちには、全く予想もしていなかった。




