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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
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自己申告の21歳

  女性陣の仕切りの方は、低い壇のあるステージがある方なので、

 泉の後ろで紹介が終わって待機している男達は、商店街の奥様連中を見下ろしていた。

 

 ここにいる男達は酷な言い方だがこの世の地獄を背中に背負って生きている実感が無い。

 頭の中は実に下品で、勝手のいい妄想と幼稚な意識しかない。


  暇な休日にのんびり温泉入って、

 商店街の団体割引に乗っかって安価でお酒飲んで御馳走食べて、

 歳は逝ってるけど(逝ってはワザとの表現ですので)

 一応女性だし、一応まだ高齢者じゃないし、一応既婚者で落とし穴がある訳じゃないし、

 お年を召したコンパニオン(物凄い偏見意識)程度で金も要らずにお酌…も期待できる。

 一人身の手酌よりは100万倍マシで、

 上げ膳下げ膳、風呂は沸いてるわ、布団は敷いているわ、

 男部屋で気心の知れた同僚と、高校生に戻った様な修学旅行気分を味わえる


 厳しい企業環境の中、昔は数多あった慰安旅行も研修旅行もほとんど無いので

 味わったことの無い世代にとっては新鮮だったのだ…

 だが、もうひとつ若い男達がそれだけでも楽しみに出てくる要因があった。

 

 「 はあ、女の子も捕まえれなくて(出来ていれば結婚しています)

   こんな、既婚者おばさんの宴会によく来ますわねェ… 」


 亜紀の大きなため息に夫は笑い、じゃれるように亜紀も夫の肩を押す。


 「 でも、寮母さん…

   団体割引があるから同僚でも見繕ってって言ったの寮母さんなんだけど 」


 「 まあね、今のご時世お先真っ暗で楽しい旅行なんてあんまりないからって

   思ってたんだけど…嵌り過ぎて怖いわね。


   ああそれと、貴方…寮母さんてのはその通りだったから気にはしないけど、

   のんびり温泉浸かりに来たんだから…今日ぐらいは名前で通してね  」


 「 … はは、そうだね、あ…亜紀ちゃん 」


 高校時代の学生寮での初めての出会いからこっち、一度もぶれずに

 亜紀を見続けて来た夫 孝之にとっては、

 いい慣れた寮母さんの方がしっくりくるし、いつまでも愛情が続く気がするが

 今日ぐらいは…彼女の言う事を聞いてやるかと思った。




 ふと、孝之は会社の食堂で屯していた同僚に旅行の話をしていた時の反応を思い出した。


 「 はぁ、商店街の奥さん連中って…ババアじゃないのか?

   嫌だなぁ…せっかくの休みに金払ってババアと酒飲むのっていうのは 」


 昼下がりの気だるい日差しの中、窓際で呆然と天井を見つめてるような

 どうにも出世の見込みの無い同僚たちだったが、何故か馬が合い

 入社以来の付き合いだ。

 入社時には大学の時に亜紀を妊娠させてしまい、そのまま結婚してたため

 時々、亜紀との家に呼んでいるので同僚は亜紀とも子供とも面識があった。


 「 失礼やな、俺の寮母さんもそれぐらいの歳なんだが… 」


 「 は、お前の嫁さんは特別製だろ? あれは神様が間違えて人間にした人じゃん 

   というか…亜紀さんの歳って知らないんだよねぇ

   同級生の母親って聞いてから驚いて聞いていないけど 」


 「 52歳になるかなぁ…今でも信じられんけど 」


 すると、各自好きな事を言い始める。


 「 はあ、結婚して10年以上立つんだろ?信じられんってどんなノロケだよ!

   まったくよ~やっぱり…そのぐらいだよなぁ…信じられないけど 」


 「 まあ、あれで52なら俺でも喜んで付き合うんだが…無いよなぁ 」


 「 いる訳ないじゃん!同期の女子連中なんかは遊びまくって婚期を逃しそうで、

   この間の飲み会なんか…

   馬鹿みたいにお酌して酔い潰そうとするんだけど…食指が動かんほど劣化してるから

   必死で逃げ切ったんだけど…あれで28だろぉ?普通に。


   あれに比べると高校生レベルだもんなぁ 」


 「 そうそう、あれなら旦那ぶっ殺してでもって気にはなるわなぁ…

   旦那が同僚で183センチある偉丈夫だから無理!だけどさぁ 」


 「 俺を殺すの? 」


   胸囲110センチで屈強な孝之の反応を見て、

  不遜な言葉を吐いた同僚は直ぐに取り消すように手を振る。


 「 それで?亜紀さんもいくのか?まあ、旦那のお前がいるから何かある訳じゃないが…

   華は欲しいよなぁ…酌ぐらいしてくれるのかなぁ亜紀さんって 」


 「 お前は馬鹿か…子供もいくんだぞ!ある訳ないじゃんか 」


  少し語気を荒げるが、ふと、何かを思い出してにこにこと笑顔になって男たちを見渡した。



 「 まあ、うちの寮母さんが酌する訳にはいかないけど、若くて美人の女性なら

   一人来るぞ。


   喜べ、独身でしかも日本語がぺらぺらの外国人だぞ…しかも金髪、碧眼だし 」


  孝之が最後までしゃべらないうちに急に場が熱く重くなり始める。


 「 おいおい!可愛いんだろうなぁ! 歳は歳は?」


 「 21って聞いている… 」


 「 ヨッシャー!! 」


  大きな声が食堂中に響いたので、食堂中の人々の視線が一斉に集まる。

  

 「 ああ、すいません、すいません… 」


  叫んだ声は大きかったが、気の方は弱い男達はしきりに頭を下げて謝る

  注目していた人々は直ぐに視線を外し食事へと意識を変えていく。



  そして「 ほらよ…持ってけ! 」と上機嫌で現金が飛び交い

  その場にいた9名全員の参加費がその日の夕方までにすべて揃ったのだった。

  


 「 なあ、どこに美人で金髪で碧い目の外人さんているんだよ… 」


  眼を皿のようにして奥様連中を見ているが、何処にもそれらしき人物はいなかった。


 「 騙しやがったなぁ…畜生! 」

  と小さく舌打ちしながら孝之の方を睨みつける者もいれば、


 「 しょうがないなぁ…まあいいや…約束破ったから亜紀さんにでもお酌してもらおうか…

   嫌だは聞かないよ~~ 」

  と、これを口実に前から目をつけていた他人の妻に近づける口実が出来たと喜ぶ者


 「 はあ、まあいいや…おばさんでも。

   えっと…おお、あそこの奥さんは比較的若いなぁ…ギリギリだけどいける 」

  と、早速標的を変え物色を始める者


 「 ご馳走食って、酒飲んで風呂入るか…切り替えが大事だよなぁ 」

  と、他にもいろいろ方向変え始める者たちがいる中


  孝之の同僚の中で163センチと一番背の低い男

  左 譲二の頭に柔らかいものがのっかって来る。


 「 あら、可愛いですわね 」


  次の瞬間、譲二の体の前に白くて長い腕が降りてきて、抱きしめられた。


 「 は!ああ?? 」


  その声に同僚達は驚いて、左譲二の方を一気に注目する。


 「 孝之…てめえ… 」


  その場の同僚達はその女性を見て目が点になった。


  銀色のピンヒール(10センチヒール)を履いた確かに外国人だった。

  白人で金髪で碧い眼で…確かに美人だ。


  2メートル近い高さとバレーボールの様な胸とお尻…なのを除けば

  確かに同僚達の思い描いた外人さんだった。


 「 はじめまして、ジャニス・ミカ・ビートフェルトと申します。

   さあ、盛り上がっていきましょうよ 」


 見てくれは、巨大でも声の方は、物凄く幼く少々トーンが高い…

 だが、人より巨大な呼吸器のせいなのか、その声は少し反響する様に感じた。


 で、背中から抱きしめられている左の顔が徐々に赤くなっていくのが分かる…


 「 あらあらまあ…可愛いわね 」


 体中を駆け巡る柔らかい快感に左は泣きそうになった…が、耐えるしかなかった。


 

 「 おい、南!この人本当に21歳なのかぁ? 」


 驚いてかかってきた電話に孝之は


 「 21歳ってのは自己申告なんだよねぇ…まあいいじゃん…若くて美人なんだし 」


 と短く答えて直ぐに電話を切った。



 「 泉さん泉さん、この子貰っていきますから… 」


 彼女いない歴イコール年齢の左を連れてジャニスが泉に声かけた。


 「 食べちゃだめよ 」


 短く泉がそう答えると、ジャニスは左を引き摺りながら舞台を降りた。

 しかし、巨体に振り回され

 疲れ切った左の顔を見ると、同僚達は羨ましいとは思わなかった。





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