表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
57/100

酒飲む前にはやっぱ温泉だよ

  夏の日差しもすっかり弱くなる午後五時半…

 森の木々を焦がしていた匂いが上空から降りてきて鼻に降りて来る時間だ。


 僕はギーちゃん(そう呼べと五月蠅いんで意識に刷り込まれた)

 と一緒に旧館のロビーでオレンジ色に染まりながら、ぼんやりと山の景色を見ていた。


「 まあ、飲めや… 」


 僕の前の籐の木を骨組みに使ったガラステーブルに冷たいコーラがコトンと置かれた。

 格好いいこと言ってるけど、

 さっきまでギーちゃんが飲んでた水割りが入っていたグラスに

 コークハイ用の瓶コーラを注いだものだから見た目はあまり良くない。

 氷は解けかけて小さいし、ギーちゃんの指紋と口紅はベッタリついているからなぁ。


「 の…飲むんすか? いやその…まだお酒が残ってたんじゃあ… 」


「 ん?ちったぁ残っていたかもしれんけど…気にする事も無い量だって。

  それに、あと数年すれば馬鹿ほど飲まされるだろうしな…

  ちいったぁ慣れとけばいいんじゃねえ? 」


 相変わらず汚い言葉使い…しかし、これって関節…


「 なんや、折角注いだのに飲まんのかぁ?喉が渇いてるやろうと思ってやなぁ 」


「 ああ、はいはい飲みますって! 」


 僕は確かに喉が渇いていた。

 清美さんやナディア、リンドさんに質問攻めのカラカワレまくり…だもん。

 しかし、滅茶苦茶飲むわ…ビールは大瓶6本空になって

 梶何とかって人の話になったら、馬鹿だの潰すだの殺すだの物騒なこと言いながら

 更に冷蔵庫の冷酒もビールも飲むんだもん。


  ま、おかげで酔って寝ちゃってるからここで一息付けるんだけど…


 僕はギーちゃんが手づで(注いだだけだけど…)入れたコーラを飲んだ。

 口元にニマニマしたギーちゃんの口紅と

 鼻を衝くアルコールの匂いと、普段とは微妙に違うその味に戸惑った。

 その上、甘くて柔らかい女性の匂いがそこから漂ってくるような気がする。


 でも、甘い香りって…ギーちゃんの唾液が混じっているからなんだろうなぁ


 「 美味しいです。ありがとうございました… 」


 「 そうそう、素直が一番やって高校生なんやからな 」


 差し向かいになっているギーちゃんはそう言って笑いながら山の方に視線を移す。


 「 そう言えば、あまり…いや、少し飲む量を抑えてました? 」


 僕は、ギーちゃんが目の前で割と酔いもしていないで僕と話しているので聞いてみた。

 他の3人は…パンツ丸見えで大の字で部屋に転がっているから…


 「 は?まあ、君がいたからなぁ…一人にしたら危ない感じがするんだよなぁ君ってば。

  ナディア達ににあれだけ撫でまわされても乱れないし…迷惑そうだったしな。

  心に余裕が無いって言うか、僕は他の人とは違うとか、不幸だとか…

  そんな感じが見えるんだよなぁ 」


 ギーちゃんはその童顔を僕の方に向けて目を細くしながら更に続ける。


 「 もっとも、どうせ下らん事情だと思うけどね。

   15・6の子供でちゃんと親がいて、高校にもいかせてもらってるからさ 」


 「 な…な事ないですよ! 」


 思わず語気が強くなる…僕は、なんだか凄く馬鹿にされた様な気がしたからだ


 「 そう?

   今日のご飯も食べれるか分からない?学校なんか通ったことも無い?

   両親はハナからいない?雨露しのげる場所が無い?奴隷扱いされる?

   明日殺されるかもしれない?


   くだらなくない事情ってこんなもんだわさ 」


 「 そんな極端な… 」


 「 極端じゃないの!こういう事情じゃあ人は悩まないから言ってるのよ。

   生きている事そのものが全てっていう人に悩んでいる暇って無いのよね…


   ましてや、誰かを傷つけたり自暴自棄になったりは絶対にしないしね 」


 なんか、ジャニスさんと似たようなこと言う人だなぁ…


 「 そんな僕の事が…心配でお酒を控えていたんですか? 」


 「 まあね、あいつとも約束したし、ちゃんと目を離さずに面倒は見ないといけないし。

   それにさ… 」


 ギーちゃんが僕の顔を覗き込む。

 年上だけど、すべすべした肌と吸い込まれそうな瞳の性で心臓がどきどきする。


 「 そ、それに…って? 」


 「 童貞も捨てんと男と女の事情なんて分かりゃしないでしょ? 」


 「 はあ? 」


 「 この際さ、体験してみたらどうかなって思って?   

   あたしはあんたの事が可愛いって思ってるし…貰ってあげようか? 」


 もっと好きなのが男…って言った清美さんの言葉が頭の中で半鐘の様に響き渡る。


 「 は?なんでそんな風に?こうして話してるのも初めてなのに? 」


 「 別に?好きになったからSEXしたいって普通の欲求でしょ? 」


 「 せ…セックスって、僕経験ないし…ギーちゃんの事も良く知らないし 」


 大人の女性に迫られるなんて初めての経験だ。

 いくらコケシ?って感じの大きな頭で寸胴(失礼)まな板って言っても

 美少女顔だし、柔らかそうだし…甘い匂いが漂ってくるし…


 「 誰でも最初は初心者だわさ…お互い知らない事が在るって言ってもさ、

   体が最初の繋がりっていうのも悪くないものよ 」


 何というご都合主義! 何という屁理屈!

 って思っても、舌なめずりしながらにゅるにゅると僕の隣へ滑り込んで来たので

 考える暇もなかった。


 「 いただきます… 」


 って、目をランランと輝かせ、僕の顔を両手で持って唇を蛸のように突き出してきた!


  恐怖でその体を押し戻そうとするけど、150そこそこで40キロ前半の小さな体が

 びくりともしないどころか、確実に迫って来る。


  わ~ダメだ!

 最初のキスは”みけ”って決めてたのに守れそうにもない!

 じりじりと真っ赤な唇と波目になった真黒な瞳が迫って来る…

 

 ボコ!


  僕の目の前を凄い速度で白い拳が落ちてきて、ギーちゃんの頭が凄い勢いで下を向いた。


 「 げ! 」

  ギーちゃんは悲鳴を上げながら、僕の頬から手を放し殴られた頭を抱えて

  ソファーの上でゴロゴロと悶絶しだした。


 「 あほな事してるなや!抜け駆けするなって言ったやろが! 」


  荒っぽい口調で清美さんが殴った手を反対の手で揉んでいた。

 浴衣に半纏を上品に着こなして、湯あみ道具の入った巾着を下げていた。

 とても、さっきパンツ丸見えで

 浴衣だけが何とか纏わりついて寝ていた人とは思えない出で立ちだった。


 「 いい思いしたんだから、後でジジイ達の相手は頑張ってよね! 」


  ナディアさんも、殆どパンツ一丁で大口開けて寝ていたのに

 清美さんと同じくきっちりした格好で、

 のた打ち回るギーちゃんの首元を持って引きづり始める。



 「 なんで? さっきまで爆睡してたのに… 」


  あれだけ飲んだのに、殆ど素面なのに驚いていると、

 こちらは、浴衣を袖まくりして巾着を肩に担いでいるリンドさんが

 少し大股で歩いて来てニヤリと笑いながら 


 「 何でって…これから宴会だろう?その前に風呂に入ってサッパリするの普通だろ? 」


 と、金髪の外人さんが田舎のおじさんの様に言ったのに驚いた。


  部屋に転がっていた酒瓶だけでも尋常でないのに

 部屋の様子を見に来た九鬼さんから、ここに来るまでも飲んでいたって聞いた。

 

 「 し…心臓…死んじゃいますって! 」


 僕が大声で止めようとすると。


 「 何が? 」


 「 だって、お酒… 」


 「 ああ、だから今から風呂入っておくんだろ?

  酒飲む前にはやっぱ温泉だよ、汗も引いて適当に腹も減るし最高じゃん。

  後は宴会で馬鹿みたいに食って飲んで、二次会でカラオケ歌って飲んで騒いで

  部屋で追加でビール空けて、

  ゴロゴロ干して柔らかい布団で寝るってのが温泉旅行のだいご味なんだしさ 」


 リンドさんの言葉に僕は言葉が続かなかった。


 綺麗な木目の床を、ナディアさんに引きずられ

 頭を抱えながらギーちゃんが固まったまま滑って、玄関先へと運ばれていった。


 その光景を見て、悩んでいた自分が本当に馬鹿らしくなって来た。

 




           









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ