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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
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夢見る甚六

  ( そういや…昨日の夜のスキンケアが半端なかったもんなぁ… )

 嬉しそうに大型のバスを待つ自分の妻を見て、呆れながらも少し笑みが浮かぶ。

 まあいいや…そっちはそっちでやってくれと。




 この間、”みけ”にお肉のおまけまで付けて頼み込んだ宴会の朝。

 肉屋の梶 甚六は三面鏡の前で、パタパタとファンデーションを振っている奥さんに尋ねた。


「 米屋かっての!何めかしこんでんだよぉ…お前まさか、俺が宴会に出ている間に 」


 浮気でも口まで出かかったが、

 それは無いな…と三面鏡がかすむほどの粉煙の中、鏡に映る自分の嫁がか?と思う。

 まったくよ~若い時は薔薇のように綺麗だったのに

 今じゃあ萎れた鬼灯いや、ジャガイモ、スイカ…なんにせよ無いな…


「 あ~私も行くから… 」


 はあ?それは困る…綺麗で可愛くてどんちゃん騒ぎが大好きなお姉ちゃんたちとの宴会だ。

 羽目も外すし…ひょっとしたらいい仲になるかも(絶対にありません!)と期待してるのに

 コンシーラで溝を埋め込むほど厚塗りした化粧の古女房など邪魔以外何でもない。


「 で、でもお前、バスだって人数分しか手配してないし…料理だってさぁ 」


 何気に必死になる。


「 それは大丈夫よ、私たちは大広間の方で別で予約してるし別にバスも大型取ってるしね 」


 ニチニチと口紅をつけては唇で伸ばし、全く夫の方を見ないで奥さんは言った。


「 ちょ…私たち? 大型? 何やそれ… 」


「 ああ、町内会の奥さん連中に隣町の知り合いや南先生の友達入れて総勢30人ね… 」


「 は?おま… 」


「 バスの方は南先生が直接バス会社に出向いて

  金額も凄く格安の交渉して即決で間に合わせてくれたし、

  若社長(専務)も団体さんなら割引してくれたんで会費も安くあげれたし

  飲んで帰るのも大変でしょうからって部屋も用意してくれたわ 」


 

「 おいおい… 」

  

 もうすぐ夏休みの7月中旬だ…

 今回のマイクロの予約だって結構大変だったのに、

 夏休み前で利用頻度の高い大型なんて急に取れるわけが無いのだが、

 甚六にはおおよその見当はついた。

 南先生は”みけ”が通ってる高校の女先生で結構いい女だし、

 娘さんの同級生と再婚するぐらい元気で色気のある化け物(50を超えてる)だから

 顎でも擽れば妖怪禿げの社長が”よしゃ!よしゃ!”って上機嫌で手配しただろうと。


 まあ、旅館の方は結構分かる…俺も商売人だからな。

 食事は宴会でするんだし本館のお風呂だって使った所で減るもんじゃない

 素泊まりみたいなもんだからなぁ…

 それより酒やカラオケに二次会で金落としていくから旅館としては売上が上がるだろう。

 夏は山の温泉なんてのは海に比べれば部屋の稼働率は悪いからいい稼ぎになるし…

 あの若社長もあんな甘い顔してるのに結構やるなぁ。


「 しかし、何で?一緒に来るって言って別々ってなんだよ? 」


「 ああ、だってあんたらが酒飲んで泊りだから2日間も商店街が休みになるじゃんか。

  店は勿論、あんたの面倒も見なくて済むでしょ?

  精々さ、日ごろの憂さ晴らしに飲んで食べて遊んで出来るじゃないの。

  商店街の奥さん連中に話したら諸手を挙げて歓迎だったわ 」


「 え…っと、んじゃ南先生はなんで来るんだよ? 」


「 別に~暇なんじゃないの?旦那さんにお子さんまで連れて来るって言ってたし…

  会費だって家族で遊びに行くのの半分ぐらいなのもあるしね。


  あと、旦那さんの同僚もついでに遊びには来るけどね… 」


「 は? 」


「 先生の旦那さんて29歳だし、同僚も同世代って聞いてるわ…全員男ね。

  ま、奥さん連中にしてみたら子供みたいなもんだけどさ…


  ほら、みんな独身だって言うのに彼女もいないし

  気分転換に温泉でもって誘ったのよ困ったもんだけどね 」


 奥さんがそう言いながら、念入りに髪をブラッシングしていく。

 ほおお、先生の旦那さんが同僚なんか誘うのかねえ?


「 南先生が一緒に行く?って聞いたら我も我もと8人も来るのよ 」


 迷惑そうな口調だが、三面鏡に映る顔が嬉しそうだった…


「 ほお…んじゃ、俺らの方に顔を出す事は? 」


 あからさまに聞くな!って態度だったんで甚六は直ぐに察して、予防線を張って置く。


「 ある訳ないでしょ 」


 折角の楽しみに古狸の様な旦那に会いに行く訳ないじゃん!って口調だった。


 

 まあいいか…

 邪魔さえしなけりゃ…古女房にも夢ぐらい見る権利あるし。

 間違いなど天地がひっくりかえってもあり得ないと思っているので上から目線でそう思った。


( 俺らは俺らで楽しくやるさ…あの4人もそうだけど、

 ”限界知らず”の姉ちゃんも綺麗だし話分かる娘だからなぁ。


 賑やかしに瞳ちゃんと”みけ”も入って来るか華やかでいいやな… )


 と、既に二次会にまで頭が飛んでいく能天気な甚六であった。

 






 「 で、梶のオヤジどうする? 」


 空瓶が座卓にコロコロと転がる中、清美と呼ばれる女が煙草をふかしながら呟いた。


「 一次会で酔いつぶすべし、集中砲火や。エロおやじは嫌いだし! 」

 

 ギーちゃんが大きな声をあげコップを何度も机に打ちすえる…



 夢も何も…入り口で阻止される甚六であった。





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