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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
50/100

”狂乱”という名の友達

  木田 翔子は久しぶりに一人で服を買いに来ていた。

 普段はお母さんの買ってくる服か、ネットで注文するところだけど

 今日はちゃんと自分の目で見たい理由があった。

 しかし148センチの小さな体で、しかも童顔な翔子に合う服は店にはあまり無い…

 ちょっと大人びた服はその色気も何もない翔子には似合わないし、

 可愛い系の服をと手に取ってみると、似合うには似合うが小学生の様だった。


「 はあ… 」

 翔子は大きくため息をついた…もう16歳で頭の中がそろそろ子どもの殻を破りたいと思っても

 洗濯板の胸と、小さなお尻に肉付きの良くない手足がそれを許さないからだ。

 それでも翔子は、

 つい最近、初めて男性とアドレスを交換した省吾の家に遊びに行く約束をしたので

 その為の服がいるのだ。

 ただ、省吾と約束したわけではなく”みけ”に強引に遊びに行く約束を取り付けたのだが…


 一生懸命に服を選んでいると、背後から声がかかる。


「 なんだよ、”なめくじ”が服選んでるよ…気持ち悪い 」

 翔子がその声に振る返ると、そこには2人のガラの悪そうな男と

 脳みそが胸やお尻に行ったような感じの頭悪そうな女が2人立っていた。


( げ、中学の時に虐めてくれた馬鹿どもじゃん…ヤバいなぁ )

 翔子は、少し青い顔をしてその声を無視するかのように店の外へと足を運ぼうとする。

 だが、その前に男の一人がニタニタと道を塞いだ。

 180近くあり、横幅もある真っ赤な髪の男は腰をかがめて翔子の顔を覗き込む。


「 何で逃げるんだよ…ああ? 」

 大きな声を出して誰かに気が付かれるのが嫌なのか、

 地の底から響く様な小さな声で舐めまわすような視線で脅しをかけて来た。


「 ちょ…こっち来なぁ 」

 翔子の肩にゴテゴテの飾りのついたブレスレッドの付いた手のひらが乗っかって来る。

 そして、そのままゆっくりと翔子の体を引き始める。


( 嫌だなぁ…こんな展開 )

 翔子はそう思いながらも、中学の時に受けた尋常でない虐めの記憶が蘇り、

 抵抗しても無駄だと諦め、どんな目に会うんだろうという恐怖で目に涙が浮かんでくる。

 そしてヨロヨロと仕方なく引きずられていった。




 建物から出て、人気のない路地に引きずり込まれる。


「 なあ、あんたさ”三谷澤”行ってるんだって? 」 「 うん… 」


 翔子の言葉に全員が心底馬鹿にしたような笑い声をあげる。

 

「 へえ、あんた馬鹿だもんね、そりゃあしょうがないけどさぁ…あんな高校行くぐらいなら

  中学出て働いた方がマシやろ? 」


 心の底まで馬鹿にした口調だが、翔子はそう馬鹿にされても手を握り締める事しかできない。

 男たちは頭は馬鹿だが、体は丈夫そうでしかも大きいし二人だ…

 それに、女二人も自分より大きいし不良だから喧嘩も強い。

 逆らっても、面白がって蹴りまくられるだけだ…中学時代に嫌っていう程経験している。

 

 下卑た笑いを浮かべて女の一人が更に言葉を続ける。


「 ま、いいや…金貸してくれよ。服を買いに来たんだから金は持ってるだろ?

  お前んとこは、無駄に金持ちなんだしさぁ

  ここでうちらに募金したところで、小遣いに困る事も無いだろ?ああ? 」


( 今日は、いい服買おうって結構お金持って来てるもん…溜めてたお金合わせて5万もある。

  貸すって言って後から募金て言ってるから返す気なんかないんだろうなぁ…

  でも、私…夏の水着だって、お祭りの浴衣だってこの先…どうしても欲しいし )


 翔子の頭の中にプールサイドで、神社の沿道で一緒に歩く省吾の姿が思い浮かんだ。

 で、咄嗟に(馬鹿な行為だが)お金の入ったバックを抱きしめてしまった。


「 お、なんだよ…”なめくじ”のクセに痛い目会いたいんか? 」


 男の一人が自分のより2周りも小さな翔子に手を上げようとする。


 翔子は、無駄なあがきって思っても、その夢を諦めることが出来なくて

 しゃがみこんで耐えようと思った。

 中学時代はあっさり降参して奴隷の様にいうことを聞いたけど

 小さく見えた自分の将来の陽が消えるのだけは我慢できなくて死んでも耐えようと思った。



  ドサッ…


 目をきつく閉じていた翔子の耳に急に大きなものが倒れる音がした。

 翔子が目を開けると大きな男が泡を吹いて倒れていた。


「 ほえ~なんちゅう脆いんだよ 」


 翔子はそう言った人物を見上げた。

 三角巾で髪をまとめて、割烹着を着た同級生がそこに立っていた…


「 中村さん… 」

 怖くて涙が溢れていたのでぼやけていたけど、確かに同級生の中村 珠美だった。


「 ちょ…お前、何してくれてんだよ~ 」


 もう一人の男が近くに在った木の棒を持って振りかぶり、

 相手が女性だというのに有無を言わさずそのまま体重を乗せて振り下ろしてくる。

 どうしようもない外道の様だった。


「 は? 」

 相手側の女たちが短くそう言う間に、魔法の様にその男が地面に大きな体を横たわらせた。

 勿論、魔法なんかじゃなく人間離れした速さで棒の一撃を避けて

 そのまま顎を突きあげて地面に頭から叩き落としただけだったのだが。


 珠美は小さな声を上げている女の一人に風の様に近づくと

 凄い速度で顔面に膝蹴りを入れる。

 クルクルと体を回して三色カラーに染め上げた髪の女が地面にうつ伏せに叩きつけられる。


「 え… 」


 躊躇なく女性に遠慮のない打撃を放り込んだ姿を見て最後の一人が立ち尽くす。

 が、一瞬の時間も空けずに珠美が大きなネコ科の動物の様に飛びついて来る。


 膝が下腹にめり込まされて女は瞬時に昼間食べたラーメンを全て吐き出す。

 体中を麺と汁と胃液で汚しながら腹を押さえて苦悶していると

 容赦なく髪の毛を掴まれて、両足がつかなくなるまで引き上げられた。


「 おい、しっかり聞けよ…今度、木田ちゃんに手を出したら殺すぞ! 聞いてるのか? 」


 殆ど10秒も経たないうちに3人がのされて自分が吊し上げられてるのに驚き、

 体中がバラバラになるほどの痛みはあるのに女は必死に声を振り絞る。

 不良の仲間も、大人のチンピラも知ってる女は相手の名前を聞く必要があった。

 後から、仲間を連れて復讐する為に…


「 あ…あんた誰なんだよ 」


「 中村 珠美…そんだけ言えば分かるだろ? 

  あたいは今、あんたが馬鹿にした”三谷澤”に通ってるんだよ 」


「 中村…って。あんた”狂乱”… 」


 珠美は口角を引き上げて、血走った目をすると女は震えあがったが、

 直ぐに、忌々しそうに無造作に釣り上げていた女を頭から地面に投げつけた。

 大した勢いじゃないけど、そのまま女は気を失ってしまった。



「 大丈夫かい? 」


 珠美が腰を抜かして地面に座っている翔子に手を伸ばした。

 翔子は、生まれて初めて虐めから助けられて急に力が抜けて…大きな声で泣き始めた。


「 おいおい… 」


 たまたま、アルバイトの出前に出た珠美は

 愛に言われた様に、教科書のデーターが入ったスマホを見ながら勉強をしていて

 むしゃくしゃしていた。

 騒ぎは珠美にはいい気晴らしになったが、

 足元で子供の様に泣きじゃくる翔子に、どうそのことを話したらいいか分からずに

 しょうがないなぁ…と両の手を広げるしかなかった。


「 ま、なんかあったらさ…相談しなよ。

  こんな事ぐらいならいつでも力になってやるからよ… 友達だし 」


 そう言われて翔子の泣き声がさらに大きくなる。


「 困ったなぁ…夕方には”星の海”まで先生に会いに行かなきゃいかなんだけど… 」

 

 泣き終わるまで泣かすしかないか…と珠美は腹をくくった。

 ただ、もぞもぞとしだした男には容赦なく背中に踵を叩き込みはしたけど。


 休日の土曜日の2時過ぎ…空は抜けるように青かった。

 翔子が初めて心を許せる友達が出来た事を祝福するようにどこまでも青かった。


 






 


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