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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
5/100

時給930円

 私がバイトに行ってる旅館のバイト料は時間930円だ。

うちの県では最低時給は820円だから高校生でこれは十分高い。

しかも、送り迎え付きの上に賄い付きで物凄くうれしい。

株式会社なんで福利厚生はしっかりしてるし、

雇用条件通知書だってバイトなのにちゃんと出す。


土曜日と日曜日のバイトで土曜日が忙しいんで拘束9時間実働8時間

日曜日はお客さんも少ないんで拘束7時間実働6時間

諸手当までつけてくれるんで用事で休まない限り月7万!手取りで6万弱!

普通に平日で2時間バイトも追加すると…手取りで9万強!

なんで、出来れば毎日学校が終わってから行きたいぐらいだけど、

うちには家事は壊滅的なお兄ちゃんたちがいるからねェ…無理。

ちなみに瞳は平日は習い事があっていけないらしい。



 で、今私は、バイト仲間の瞳と一緒に

そんな優良すぎるバイト先旅館のマイクロバスに乗っている。

横に大きく達筆な文字で”安らぎの宿 星の海 ”って書いてある。

んで、自慢の岩風呂と

見た目が20代前半にしか見えない化け物みたいに若い女将さん(48歳)の写真が

フィルムで張ってある。


「 みけに瞳、高校の方はどうだ? 」

って、運転手をしている子番頭の北村さん(52歳)が声かけて来る。


「 まあ、楽しいかな…勉強は相変わらず駄目だけどね 」

と答えると瞳が気だるそうに隣に座る私を見て来る。


「 そうか?うちは別に楽しくは無いなぁ。男どもは性欲丸出しでうっとおしいし

  勉強なんか苦痛でしかないしどこが楽しい? 」


「 でもさ、瞳ってクラスでトップの成績だし、モテるのも魅力があるって事だし 」

 何気に家政科1位の成績で勉強が苦痛には見えないし、

 既に月に一度くらいのペースで告られている瞳は同性の私が見ても…


「 はあ?成績って言ったって所詮”三谷澤みやざわ”じゃん。

  それに、告ってくる男どもも程度低いし、うちの体ばっか見て来るんだなこれが

  気持ち悪いだけだし 」


 私には気軽に声かける下心満載の馬鹿男子も、

 瞳には覚悟を決めて告白するじゃん…別に体目当てってことは無いと思うけどなぁ。

 確かに胸もお尻もちょっと大きくて魅力的だけど…

 ま、そこらへんは貧相な私じゃあ分からない事だけどね。


「 んなの10代の男ならみんなそんなもんだぞ? 」


 そう言って北村さんがバックミラー越しにニヤニヤ笑っている。


「 はあ?10代とか関係ないし、こんな糞田舎で知り合いばっかなのに

  平気で声かけて来るおっさんもいるし 」


「 お…おっさんって…俺もか? 」


「 いや、確かにおっさんやけど…北村さんはそんな目でうちら見ないじゃん。

  というか旅館のおじさん達って基本そうじゃん。

  じゃなきゃさ、続くわけないじゃん仕事も簡単なわけじゃないし怒られることもあるのにさ 」


「 そうそう、結構厳しいのよ仲居頭の九鬼さんって 」


 料理は板さん達がやるけど、お酒のかん付けは仲居の仕事だから…って

 入った初日に温度計片手に教育されたのを思い出す。

 日向癇ひなたかんから飛び切りとびきりかんがちゃんと出来るまで…

 3時間も丁寧に教えられた。


「 みっちゃん(九鬼さんの愛称)が厳しいって?はあ…今時の子だなぁ。

 みっちゃんなんか最初なんか毎日住み込み部屋で泣いてたぐらい昔は厳しかったんだぜ。

 みっちゃんしないだろ?竹定規持って姿勢直したりお尻叩いたり

 罰って言って一日中床掃除なんかさぁ 」


「 なにそれ?昭和?九鬼さんってそんなお歳?30半ばって感じだけど… 」


「 何言ってんだい?5…おっといけね、秘密事項だった。

  今のは聞かなかったことにしろよ…怖いからさ 」


 そこまで北村さんが言うと、

 後ろの座席で寝ていた私たちと同じシフトのお姉さんたちが仲間に入って来る。


「 言わないからさぁ~北さん。今度奢ってね! 」


「 あ~分かった分かった…出入りの業者にいい酒を… 」


「 うちらは? 」

 瞳が尻馬に乗って要求すると、渋々系列のレジャー施設のタダ券を貰えることになった。


 それから旅館に着くまでバスの中で歳の離れた北村さんと

 起きて来た20代の大学生のお姉ちゃんたちとワイワイと言いながら盛り上がった。


 私と瞳がきつくて厳しくてもこのバイトをやめないで続けている理由…

 こんな楽しい時間が仕事の中にチラホラあるからだろう。


 勿論、時給930円は田舎では凄い魅力ではあるけどね。

  



 


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