因数分解って食べれるんですか?
しかしなんで人じゃないって思うんだろう?
確かに誰にも言った事の無いうちの過去を言い当ててるからなんだけど…
うちは深刻な雰囲気は苦手なんでつい、余分な事を考えてしまう。
ジャニスは確かに神秘的な感じがする…
烏の様に黒いワンピースで薄い同色のレースに刺繍の入った長袖。
むっちりとしたお尻を窮屈そうに包んでいるスカート部から
長くて肉感的な脚が黒いストッキング越しに扇情的に覗かせている…まあ、珍しい格好だ。
こんな格好うちなら恥ずかしくて死にそうになる。
凶器の様な胸やお尻を186センチの長身で抑え込むプロポーションで
成立する格好。
プラチナのように輝く金髪で大きな瞳の碧眼で透き通るような白い肌。
外人さんでも滅多にいない北欧美人って感じだけど、
( アメリカ人って聞いているんだけど )
うちはどこかで…子供の時に見たことがある様な気がする。
いつも旅館に遊びに来る時はジーンズにワークシャツ、
ロデオブーツにテンガロンハット
胸もお尻も規格外で日差しに弱い白人さんならお似合いの格好。
テキサスの農場のヤンキー娘の様な格好が普通だから気がつかなかったけど。
しかし、なんで黒いワンピースになっただけで印象がこうも変わるのかねえ。
うちは、はっと思い立って近くにあった黒い手帳でジャニスさんの頭を隠してみる。
なんだ…そうか。
ざっぱで陽気なお姉ちゃんのジャニスが神秘的に見える要因が少しわかる。
もっとも、あっちはアニメだったし暴力的な胸でも超巨体でもないけどね。
「 へえ、懐かしいですねェ…物凄く前の漫画でしたわね 」
またも、何も言わないのにジャニスさんはそんな風に話してくる。
「 私が何者かってのはこの際関係ないし、
それに、人間でないってのは凄く失礼なんですけど 」
「 …だって、心が読めるじゃないですか。
私の過去も誰のも話していないのにペラペラ話すし、悪魔がどうとかもそうだけど 」
まっとうな人間っていう方がどうかしてるんだけど?
「 ああ、心が読めるのも貴方の過去が見えるのも全て持って生まれた能力です。
悪魔って言うのは、昔から普通に存在してますけど? 」
「 持って生まれたって…言われても 」
「 そのままの意味です。う~んどう言ったらいいでしょうか?
イタコとかシャーマン? 宗教家さんとか?
まあ、超能力者ってのが一番近いですわね…特殊な力を持ってるけど人間ですのよ。
私の生まれ故郷ではコプートスって言われてますけどね 」
全然説明になっていないけど、ジャニスさんはそこで大きな胸を張って
口をつぐんでしまった。
これで納得してねって言う雰囲気がありありと感じる。
悪魔は?って追及してもさっきのように適当に答えられるのは目に見えている。
それにイタコ一枚下は地獄の世界で生きている漁師町で、
化け物みたいな肉体と糞ほど気の荒い連中に慣れているうちだが、
それ以上の追及を許さない圧を感じた。
「 はあ、まあそこらで納得しますわ。
ここで私は悪魔とか天使とか聞いてもしょうがないし…ありえないですからね 」
「 そうでしょ? 」
「 で、うちの悪魔をどこにやったんですか? 」
もちろん冗談のつもりで言ったんだけど。
「 パンツについた異物とか、吐いたゲロとかですかね…凄い量でした。
小さな子供のようにこんもりと… 」
「 や、止めて… 」
「 で、全部焼却したから安心してください。貴方の中に悪魔は残っていませんから 」
「 焼却? 」
「 ええ、焼却…こんな風に 」
ジャニスが右手を手のひらを上に胸の位置まで上げると青緑色した炎が上がった。
「 あの…それでも人間って言うんですか? 」
「 言いますわよ!人間だもの。テキサスにはお母さんもお父さんもいますしね
そうだ写真見ます? 」
望んでもいないのにジャニスは大きな胸元からパスケースを取り出す。
普通のパスケースだが全く見えないほどジャニスの胸が大きいという事だけど。
別に見たくはなかったが、そこには典型的なアメリカの農家のおじさんとおばさんが写っていた。
ああ、まあいいやこれで納得しておこう。めんどくさいし…
「 で、何か用事なんですか?こんな夜遅く… 」
うちは柱にかかった時計を見て話をする…夜の9時少し前だった。
「 ええ、ここからは”星の海”の女将に頼まれた事なんですけどね。
ちょっとついてきて下さる? 」
ジャニスは私が立ちあがるのを待って踵を返して部屋を後にする。
うちもその後に従って付いていく。
暗い廊下を少し歩く…少し歩くって言うだけでこの家がいかに広いかが分かる。
廊下の両隣りには扉がいくつかあり、その一番先の方に明かりが見える。
「 もう、待っていますから話は手短にしますからね 」
そう言いながらジャニスが襖を開けると、
船を漕ぎながらドリンキングバードのように机に当たっている”みけ”ちゃんと、
”狂乱”って通り名でうちの女将と知り合いのタマちゃんが
仲睦まじく隣通しで座っている大きな座敷テーブルがあった。
「 この子たちは知ってますよね 」
うちは頭を縦に振ってこたえる。
「 この子たちって頭が凄く悪くてですね…2年生にはギリギリ進級できたんですけど
3年生へはそれなりの学力が必要になるんで 」
「 それで? 」
「 ぶっちゃけ…この子たちの勉強を見てもらってくださいって事ですけど
何せ”みけ”ちゃんは若社長のお気に入りで卒業後は”星の海”に正社員で雇いたいらしいし
珠ちゃんの方は…大学に行かせたいそうなんですよ。
何でも、珠ちゃんのおじいさんとの約束らしいですけどね 」
うちはホッとした…京都の地味な大学って言ってもバイトで家庭教師は
結構頑張ってやっていたので(彼との生活費及び学費の捻出のため )自信はあったからだ。
「 そうなんですか…”みけ”ちゃんは卒業できればいいって事ですね。
珠ちゃんは大学ですか…大学ならどこでもいいんですかね? 」
東大にとか言われても、自分でも足きりに会うレベルの大学じゃあ無理だしなぁ…
「 ええ、そこそこで十分て言われてます。○○大学とか○○大学でも構わないってね 」
へええ、楽勝じゃん。
「 で、この子たちの学力ってどのくらい? 」
「 あの高校で、家政科でブービーとドンケツですわね。
数学だったら…そうですねぇ因数分解って食べれるんですか?ってレベルですわね 」
うちは目の前が真っ暗になった。




