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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
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人ではない者

  まだ酸っぱい匂いのする布団でうちは正気に返った。

 少女の様な早苗さんの弟に会って年甲斐もなく心躍らせて、

 その馬鹿さ加減に嫌になって枕を相手に悶絶している間に寝落ちしたようだ。


 そんな子供みたいな寝落ちの経験をするほど弱っているの筈なのに

 さっき味わった地獄の様な頭痛はもう無く、乾いていた喉も嘘の様に爽やかになっている。

 気持ちの悪いお腹の具合も無くいつもの様な快調な目覚め。

 いや、

 それどころか、体中から血が噴き出そうなほど力が湧いて来て、

 高校生の時の様な懐かしい若さの猛りが全身を駆け巡ってる…凄く奇妙な感じ。


 うちはそのまま体を起こすと、

 足元にジャニスさんが笑顔を浮かべて天井に付くんじゃないかと

 思うほど大きな体を真っ直ぐにして立っていた。


「 どう、もう治りました? 懐かしいでしょその感じ。 

  悪魔落としがうまくいったみたいですから、これからもっと良くなりますわよ 」


 一瞬何を言ってるのか分からなかったが、頭を整理して答える。


「 悪魔落とし?悪魔祓い(エクソシスム)の事ですか? 頭大丈夫ですか? 」

 

 疑問符が頭の中を埋め尽くす。

 正面切ってそんな世迷言を吐く人を見るの経験ないんじゃないかしら?

 う~ん、でも

 前にもそんなようなおかしなことを言う人を知っていたような知らない様な…


「 あのですね、私はキリスト教徒でも、イスラム教徒でも

  変なカルトでもありませんわよ。

  それに、世界中で言われている”悪魔祓い”っていうのは基本改宗の事ですからね。

  映画の様な捕らえ方をしてもらっては困りますわね。


  これは物理的な悪魔落としの方ですから 」


「 言ってる意味が分からないんだけど 」


 いや、悪魔落としって自体が分からないんですけど…

 

「 そうですわね…あなたが本来持っている超人的な力や能力を

  強い恨みを持った人が、悪魔の呪いで封じ込めていたのを悪魔を追い出して

  解除したってとこですか。


  まあ、現実社会で理解するのは難しいでしょうが、体調が頗るいいのは分かりますか?

  パンツ汚して反吐を吐きまくった後なのにね 」


「 うう、一応女なんでそのいい方は止めて下さいよ…それに 」


 うちはジャニスさんの後ろの襖の方を見る。


「 剛一郎君ですか? 彼ならまだお風呂ですわよ 」


「 あ、え…なんで? 」


「 分かりますわよ。貴方がここに来てあった男の人って彼だけですから。

  それに、丸洗いした私や早苗さんの事を気にするわけないですからね…今更 」


 そうか…だよなぁ。

 しかし、悪魔落としと聞いてもなぁ…何が何だか、それに超人的な力?能力?

 高校生のときには限界知らずの化け物って呼ばれた事はあったけど…

 そんなのは他の人と比較してって事でしかないんだけど。


「 まあ、そう混乱していると思いますけど、

  体調の方はすっきりはしていますでしょ? 」


「 そうですけど…ただ酔いが醒めただけじゃあ無いんですか? 」


「 そんな訳ないでしょ、

  前後不覚になってう…漏らすほど酔っていた貴方がこんなに早く回復したのは

  おかしいとは思いませんか?

  普通なら病院行って唸ってるレベルでしたでしょ。」


「 まあ 」


 確かにあんな状態で数時間で元気いっぱいになるのはおかしいとは思う。

 経験した事も無い壮絶な酔い方だったのは確かだし…

 それに、高校卒業して以来感じたことの無い今の状態は確かに不思議だ。


「 貴方は高校卒業時点で人に恨まれる事が在りませんでしたか? 」


 心臓に突き刺さる言葉にうちは答えることが出来なかった。


「 はあ、まあ言いたくないのは分かりますけど…それじゃあ話が止まっちゃいますね。

  困りましたわね…そうだ、私が貴方が誰に恨まれていて

  それがどれほどの恨みだったかを説明すれば、私に言うことを信じますか? 」


 馬鹿な事を言うとその時は思った。


「 そんな事が出来る訳が無いでしょ。

  この町に来るまで…の事は誰にも話していないし 」


 話していないって思ったが、姉御にはこの間、そこそこ話はしたか…

  

「 貴方を恨んでいる人は、貴方の生まれた島の高校の同級生で幼馴染の上に親友でしょ? 」


「 ええっと…そうですけど…姉御から聞いたんですか? 」


「 九鬼さんの事ですね…私は、今日この町に着いたばかりですし、

  3か月はお会いしていませんのよ。 」


 うちの背中に冷たいものが走った。が、携帯かなんかで確認が出来ない事も無いかなぁ、

 

「 渚 沙紀さんでしたっけ?あなたの親友の名前って 」


 うちは目を丸くして驚いた。

 何だよこの人…渚の名前なんか、島を出てから和夫と話したことしかないんだけど。

 勿論、女将さんにも九鬼の姉御にも言ってはいない。


「  恨みを買った原因は、

  高校の卒業式の翌朝に島から彼女の恋人だった北村 和夫君と一緒に逃げた事ですよね。


  進学先を偽って、三人で同じ大学行こうって名古屋の有名校に受験したり、

  隠れて京都のあまり知られていない大学に受験しましたけど。

  姑息ですわね…ちゃんと正々堂々取りあったら良かったんですわよ。 」


 うちは足が震えるのが分かる。


「 それで、彼女の恨みの大きさですけど…酷い物でしたわよ。

  それこそ心臓が張り裂けるほど大きなものでしたわね。


  悪魔は貴方が裏切って逃げた夜に彼女の夢の中に入って契約をしたんです。

  彼女の復讐が終わるまで貴方の超人的な能力や運を封じ込めるために

  そうしなければ、貴方の本来の力で貴方は幸せに暮らすって運命を見せられたんですから。

  勿論、代償は彼女の死後の魂ですわね 」


 理解の出来ない話だが、その話には真実の重みがある様に思えた… 


 「 あの後の事は…沙紀さんにとっては地獄でしたのよ。

  貴方と彼氏に対する恨み言と彼への愛を抱えたまま、

  騙されて合格した名古屋の大学に通い、一緒に通った島の同級生に憐れみを受けながら

  毎日毎日、枕を濡らしながら唇を噛みしめて可哀そうでしたわね。


  で、興信所使ったり友達や島の大人に頼んで長い間血眼になって捜し、

  三年前に彼を騙し打ちで寝とって復讐を果たしましたでしょ 」


 そんな事なんで分かるんだって!


「 どうして… 」


 私は、目の前の巨体の女性に人間ではないものを感じた。


「 分かりますわよ…私は。

  だって、全てが終わったのに貴方が解放されていないから今日この場に来たのですから 」


 ジャニスさんの眼は、深い色の碧眼だったけど…その中に暗い闇が見えたような気がした。

 




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