暗い車内
食事会の帰りの早苗の車の中で、
運転席の早苗が時計を何気なく見ると既に8時半、窓の外はすっかりの暗闇である。
まだ、ヘッドライトの灯りがある運転席はそれなりの明るさであったが、
瞳と剛一郎の座る後部座席は暗く、
そして、真ん中に座っていた翔子がいなくなってお互いに窓際に張り付いて座っていた。
住宅街と入っても田舎なので、街路灯と玄関先の光が蛍のように窓を彩っていく。
「 結構遠いんだねぇ… 登校は何時ぐらいになるの? 」
翔子と”みけ”の兄貴たちがいなくなって静かになった車内で剛一郎が瞳に声をかける。
賑やかだった翔子がいないので沈黙が重かったのだ。
「 なんで? 」
「 いや、なんでって言われても…ちょっとした好奇心だよぉ 」
事務的な瞳の言葉に剛一郎はドキッとした。
今日は殆ど翔子が話を回してくれたし、”みけ”とも珠美ともそれなりに話したのだが、
瞳とは自宅に帰ったからほとんど話していなかったことを思い出した。
「 ふ~ん、木田ちゃんはともかく(物凄く失礼)可愛い系の”みけ”と、
美人さんの中村さんと盛り上がったのにさぁ…あたしに興味あるわけ? 」
「 えっと…その…興味とかって 」
言葉の端に棘があると剛一郎は思ったが、はっきりと言わなければならない事が在る。
「 わ…私が興味あるのは…”みけ”ちゃんだけなんだけど。
あとはその…友達になってくれないかなって気持ちだけ… 」
コクンと車が上下した。
「 え、お姉ちゃんどうしたの? 」
少し驚いた剛一郎だったが、車は何事もなくそのまま走り続けている。
「 あ、ゴメンゴメン…内緒じゃなかったけ?その話って。びっくりして足が滑っちゃって 」
「 秘密って言ったって… もう”みけ”ちゃんには話したんでしょ? 」
「 な、なんで分かるの? 」
食事会での態度を見れば、
頬が赤くなったり、小さい声だったり、目を合わせなかったり普段と違う態度を取っていたんで
ほぼ姉がそれを話したんだなとは分かっていた。
「 お姉ちゃんはさ、心配し過ぎだって。
男だし、ちゃんと面と向かって告白して白黒つけるから余計な手出しはしないで 」
男らしい言葉だが、女の子みたいに高いトーンなので迫力はあまり無い。
が、姉の方は驚いたようで
「 分かったわ… じゃあ、いつか告白してね 」
その言葉を聞いて剛一郎は瞳の方を向いた。
顔を背けていた瞳が目を丸くして驚いていた。
「 あんた、結構男らしいんだね…
可愛いし、腕っぷしはからっきしで、優柔不断な馬鹿男かって思っちゃって
ごめんなさいね。
二股、三股かけるような男は虫唾が走るほど嫌いだから…つい 」
あまりのいわれ様に剛一郎はぽかんと口を開けてしまう。
男に絡まれて瞳に助けられたのは確かだけど。
「 でさ、なんで友達になろうって思ったわけ? 」
瞳は訝し気に聞いてきた、しかも直球で。
男と女の間には友達関係って存在しないって、下半身の緩い両親のもとで嫌って言うほど
理解していたからだ。
「 意味なんかないよ…まあ、みけちゃんと同じバイト先だしって下心はあるけどね 」
( 剛ちゃんは正直だなぁ。でも、女の子好きになるってやっぱり男の子ねぇ
…しかし、
”みけ”が男に興味あるわけないじゃん…焼き鯖の方が好きじゃないの?
正直、告白したら派手に玉砕するだろうけどね。
別に友達になっておいてもいいか…可愛いし )と瞳は思った。
「 ”みけ”のおまけね、いいよそれで友達になってあげる 」
瞳はニヤッと笑ったが、暗い車内では剛一郎には分からない。
「 あ、ありがとう… 」
( なってあげるか…私、女の子にそんな風に言われたの初めてなんですけど )
その眉目秀麗な姿で女生徒に可愛がられていた剛一郎には新鮮な驚きであった。
「 じゃあ、あたしの団地までちょっと話しますか…あ、一応言っておくけど
あたしは好きな奴いるから。それだけは頭においてね 」
途中で標的変えるなよって忠告だったが、
「 分かってますって…そこは興味ないですから 」
思いのほかあっさりと否定されて、少し自尊心が傷ついた。
「 ちょっとは興味持ってよ。まあいいか、さっきの質問からな…
回収は5時45分から…牧って奴と一緒に回収だから 」
「 牧君?ああ、普通科の男の子ね。」
「 何で知ってるの? 」
「 中学の時の同級生が普通科にいるし、結構有名だよ。
ともかく評判がいいなぁ…嫌な仕事も積極的にやってくれるし
女の子なんか重いものなんか持ってたら、自然に手伝う優しい子ってね 」
「 へええ… 」
( そうか…いい奴だもんな。悪く言うやつなんかいないよな… )
「 ま、顔は普通ぐらいなんだけど…彼女はいないって聞いたけど? 」
「 私が彼女って思うわけ?…いい奴ではあるけど好きな男って訳じゃないからね 」
そこから瞳の団地までたっぷり40分ほどかかったが、
バイト先のみけとの仕事話などで結構盛り上がった。
暗闇の中を走る車内は暗かったが、
意外にウマが合い笑顔の絶えなかった剛一郎と瞳の間には、
目に見えない光があるように思えた。
「 いい子じゃない 」
早苗は、保険が出来たと笑顔になった。




