珠美のコロッケ
妹の作った料理はいつも通りで美味しい…ただコロッケの味が。
「 ちょ…お前、コロッケの味がいつもと違うんだけど 」
身内なんで、遠慮なく質問すると
「 ああ、ゴメンそれ私なんですよ。不味かったですか? 」
と珠美ちゃんが手を上げる。
「 えっと、味の方は凄く美味しかったんだけど、
いつもと作り方が変わってるから…”みけ”は牛肉多めのコロッケ
とか、男爵コロッケとか定番が多いんだけど…
ソラマメとか、カボチャとか…これなんか衣にアーモンド混ぜてるからなんでかなって 」
実際、美味しかった。
”みけ”のコロッケが絶品と思っていた省吾にとっては衝撃だったし、
狂乱って呼ばれた不良が料理が上手いというのも凄く意外だった。
「 中村さんは料理は上手いんだよね… 」
隣で翔子が口に揚げ物の衣をつけたまま”料理は”って所に力を入れて笑う。
「 料理は上手いよね確かに…意外にもね。不…見た目と違ってねぇ 」
危うく不良と言いかけて瞳は思いとどまった。
昔はどうあれ、今は同級生だし、もう不良でも何でもない珠美には失礼だ。
それに、中学でそんな不良を見下しながら生意気に文句を言っていた
いけ好かない自分の姿が頭をよぎったからだ。
「 あのさ~家政科通ってんのに料理が苦手って方がどうかしてるだろ? 」
珠美は不満そうに言葉を繋げる
「 本来なら”みけ”や早苗さん手伝って早く片付ける事も出来たのにさ、
あんたらときたら…
ジャガイモの皮剥いたり、キャベツ切っては血まみれになるわ
手順は良いけど味付けが出来ない味音痴ってのは信じられないわ… 」
翔子は今更ながらにバンドエイドを巻いた指を隠し、
瞳は掠れた口笛を吹きながら焦点を合わせづに天井を見上げる。
「 それに、折角憐れに思った”みけ”が気を使って
料理は私らでやるから課題の方をやっていたら?って体よく追い払ったのに、
10分もしないうちに”助けて”って涙目で抱き着いて来たくせにさぁ…
あたいに縋りついてとのもどうかしてるし… 」
「 ”みけ”は主力そうだし早苗さんはここの人だし…中村さんって課題終わってるし
必然じゃあ… 」
天井を見上げてお気楽そうに指を折る翔子に珠美はため息をついた。
「 しょうがないよ…才能が無いもん二人とも 」
と、”みけ”も可哀想なものを見る目で翔子と瞳を見下ろした。
「 かあ、勉強じゃあ負けないんだけど…なんかむかつく
”みけ”は家の事一人でやってるらしいから分かるけどさぁ 」
「 そうね、同じく 」
瞳と翔子の声に
「 あたいも”みけ”と同じようなもんだって…家じゃあばあちゃんと二人だけ
家事はどうしたってやらなきゃあならないし、
昔は家出してきた舎弟たちを家に集めて飯作ってやったりしたしな 」
「 ひええ、子分にご飯作ったの? 」
「 なんだよ木田…ちゃん(呼び捨てようとしたが剛一郎が隣にいたので付け足す)
涙浮かべて”なんか食わせて”って言われれば普通作るだろ?
ま、材料は余分に持って来てうちらも助かるからってのもあったけど… 」
瞳は思う…家出してたらお金もないのに材料なんて買ってくるのかと。
多分、嘘ついて飯を食いに来てただけじゃあ…
ああいう連中て外食より家庭の味の方に飢えてるだろうし。
それに喧嘩が強いだけじゃあいくら不良って言っても人なんか付いてこないし、
ましてや近隣一帯の不良の頭なんて無理無理…
しっかり胃袋抑えられて必死について来たんじゃないのかなぁ。
「 ま、ばあちゃんは生活保護だし生活苦しいんで舎弟に相談したら
”カツアゲか、知り合いの店でバイトかなぁ…”ってバイトを選んだのも大きかったけど
学校行ってないんで暇は死ぬほどあったし 」
カツアゲかバイトってどんな選択だよ…省吾は思った。
「 ”一番”って大衆食堂でさ、今もちょくちょく手伝いに行ってるんだ 」
鼻をスリスリ恥ずかし気に珠美が呟く。
「 ああ、”一番”ね商店街の入り口近くにあるわ。
あそこで働いてるの?じゃあ、豚汁の作り方って知ってるの? 」
”みけ”がすっと珠美に近づく。
「 ま、まあな…厨房でよく作らせてもらったし…牛蒡の刻み方がコツなんだよなぁ 」
「 へえ 」
そのまま、急に親し気に”みけ”と珠美が料理の話で盛り上がりだす。
「 ちょ…まだバイトしてるの? 」
何気に省吾にくっついていた翔子は驚いて珠美に質問する。
「 ?しなきゃあどうすんだよ。お金は大切だぞ? 」
翔子は周りを見回した…
「 あ、僕も店の手伝いしてるから 」と剛一郎が手を上げた。
「 私も瞳と一緒に旅館で土日バイト 」”みけ”が続けて手を上げる。
「 俺も琥太郎も同じくだな…妹だけ働かせるわけないじゃん 」省吾が続く。
「 いいじゃないの…ご両親の頑張りで学校通えるのは恥ずかしくないわよ
殆どの高校生がそうなんだから 」
翔子はジャニスにそう言われ慰められたが、
珠美の作ったコロッケの味や、
”みけ”が作った他の揚げ物やスープの味を味わいながら
私もバイトするかなぁ…と翔子は思った。
例え家がそこそこ裕福であってもお金では買えないものがそこにはある様な気がした。




