興奮するカワウソ
木田 翔子は興奮していた。
頭の悪いと自他ともにも認めて10年(小学校はいる時だね)の月日が流れ
自分には同じぐらいの頭の程度の男の子が将来の伴侶と諦めていた矢先に
振って湧いたチャンス だった。
御山 省吾という目の前の男は、優しい雰囲気を持った大人で
何より雲の上にしか思えない大学生…そんなに凄い大学ではないが
中学の成績はランニングって呼ばれ、
底辺高校の入試に名前を書いただけで潜りこんだ身としては光り輝くように見えた。
「 へえ、うちの高校の一年に幼馴染がいるの? 」
琥太郎は、瞳と仲良く話している。
翔子としてはそちらもタイプではあったが、
美人の外人さんと、見た目は自分より数段上の瞳の間に入っていく勇気はなかった。
ただ省吾の話し相手は翔子しかいなくなるので
今後の事も含めて何とか仲良くなりたいとするには都合が良かった。
が、最初のあいさつの後…異性とは、
ほぼ女性と遜色のない剛ちゃんぐらいしかまともに話したことのない翔子は真っ赤になって
黙り込んでしまうしかなかった。
小学校からこっち、頭どころか容姿も大したことのない少女にとっては
異性に関心を持たれたことも話しかけられたこともほぼ皆無であったので
無理からぬことであった。
しばらくの沈黙の後、流石に年上の自分から話しかけないといけないと思った省吾は
「 ”みけ”って、普段どうしてる?あいつ学校の事はあんまり話さないんで分からないんだよなぁ 」
軽い切り出しだったが、
翔子にとっては友達でも無かった”みけ”について分かることは少なかった。
でも、クラスメイトとして分かる程度の内容なら答えることが出来る…
「 モテモテですよ!男子からひっきりなしに声かけられるし…ほら、見た目いいもん。
えっと、それに学業は…横に置いても
料理とか裁縫とか、う~んと体育とかそういうのは凄く上手くて結構人気者かなぁ~ははは 」
と言ったが人気なのは家政科でない畜産や園芸の筋肉馬鹿か、
普通科のただの馬鹿男子であって、女子に人気って訳では無い。
翔子にしても、瞳から話が無かったら”みけ”は
調理実習で美味しいお菓子を作ってくれるクラスメートぐらいの認識でしかないが
頭が悪いなりに気を使っての発言だった。
「 まあ、あいつは小さい時からお母さんの仕事をよく手伝ってたし、
今じゃあ申し訳ないけど家の事は全部やってくれてるからなぁ…そういうのは出来て当然だけど
体育が得意?って、それ本当?
僕の知ってる限り…あいつはどんくさくて走るのは小さい時から遅い記憶があるけれど… 」
翔子は首をかしげた。
目立たない”みけ”だが、体育はすばしっこくて足は速いしバク転ぐらいならソツなくこなす。
運動部の人間からも誘いが多いけど、家のことがあるからって断るほどなのにと。
「 そうそう… 」
琥太郎が何か言いかけてジャニスさんに頭を撫でられた。
「 小さい頃の事でしょ?もう高校生ですよ 」
「 でも、50メートル11秒って小学生でも… 」
省吾がなおも言葉をつづけようとすると、
ジャニスがものすごく長い腕を伸ばして省吾の頭を撫でると、二人とも急に黙って首をかしげた。
「 う~ん、どこまで話したっけ? 」
省吾がすぐ横にいる翔子に尋ねた。
「 みけちゃんが小さい時足が遅いとか… 」
今今話した内容を忘れるの?と訝し気に省吾を見つめると
「 ああ、そうだったけ? みけって昔からそれなりだったような気がする。
どこかで記憶がごっちゃになってる…いとこの順子ちゃんの事だったような。
まあ”みけ”の事はそのぐらいにして、君の事を少し聞きたいな 」
急に満面の笑みになった省吾に、おかしな感じはしたが
願っても無い機会なので翔子はどうアピールしようかと胸が高鳴り
”みけ”の事が頭から消えていた。




