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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
26/100

一人酒

  土曜日の夜は、久しぶりの青春の息吹を感じた一時だった…

 

  小山内 愛は、寝起きのぼんやりした頭で土曜日の夜を思い出していた。

 29になった身ではあったが、

 高校生の時とどこが違うんやって気持ちで生きてきたけど、

 実際に15・6の本物の高校生と久しぶりに歓談するとそれが間違いと痛切に感じた。

 そして、あまりにも眩い輝きの中に自分がその時を過ごしていたことが、

 どれほどの事かと思い知って絶望して気が滅入った。


 愛はそんなどうしようもない気持ちを忘れようと、

 ”星の海”の自分の職場であるパブ”限界知らず”の休日の今日は…

 グラスに、40度のジャックダニエルを表面張力で盛り上がるほど注いで

 まだ、少しは幸せの余韻の欠片が残る部屋で一人酒を決め込んだ。


  友達がいないわけでも無いが、

100万馬力の鋼鉄の肝臓って大学で言われていた愛が、

 何もかも忘れて酔うまで付きあえる様な化け物はいない。





  あたいはさ~、ビールや酎ハイなんてジュースとおんなじやでなあ…

 何もかも忘れたいときには、氷も入れないストレートでバーボンって決めているんや。

 氷や割ものにするのなんて仕事だけで十分だし、

 実際、そのまま飲んだ方が味は濃いし美味しいしね。

 地獄のお酒(56度のレアブリード)は流石に喉が焼けて仕事に差しさわりがあるんで、

 40度のダニエルで十分…一本飲んじゃうし。

 

  忘れるつもりで飲むつもりだったが、思い出すのは昔の事ばかり。

 特に、離婚したあいつとの思い出は嫌でも思い出す。


 今は辺鄙な故郷の島であの子と仲良くやってるんやろなぁ…と。

 元々、うちと離婚したあいつとあの子は幼馴染やったけど、

 幼稚園の時からずっと一緒の大の仲良しやった。


 仲良しすぎて、深い仲になるのが怖かったんやろなぁ…

 で、そんな煮えくり返らない二人を指をくわえて見ているうちにうちが本気になった。

 まあ、出来上がった関係をぶち壊すには更に深い関係になるしかない…

 うちの取った戦略は単純明快…根性決めて体投げ出した。

 高校生で、興味津々で毎晩性欲に苦しめられる若いからだのあいつが、

 うちがマッパで布団に潜り込んだらイチコロになっても無理はないわな…


  その時の感激を思い出して、

 クイッとグラスを傾けて口に流し込むと、胃袋の中に火が入っていく。


「 ま、お互い子どもだったんだわな…

  責任ってどういうものかとか愛ってなんだのかって分からないうちに

  生臭い性欲に二人とも負けちまったわ。


  冷静に考えると、

  あの子と違って炊事や洗濯なんかの女子力もうちの方が高いし、

  スリムで寸胴なあの子に比べれば出るとこ出てるから、

  正攻法で正々堂々戦っても…うちの方が勝ってたわ… 」


 口にそう出してみるが、

 幼馴染っていう事実と反則って感じの綺麗な顔は完全にうちの負け…て分かってる。

 ハイハイそうですよ!女の武器を使わなければ勝負にもなりませんでした!


 面白くも無いのでまた一口…


 う~ん、それ以降は思い出しても生臭いだけやな…

 趣向を変えよう…



  島の高校時代は…あの子たちと同じで幸せだった気がする。

 悪いことも多かったけど、差し引きして思い出補正をかければ十二分に幸せだといえる。


 まあ、”三谷澤”ほど馬鹿な高校じゃなかったけど、

 離島のうちらの学校も大したことは無い。

 全校生徒が2桁の生徒しかいない普通科だけの学校で、 

 登校して、10代の儚い青春の思い出を作るような高校だったわね。


  大学行きたければ…

 船に乗って常滑か豊田にでも引っ越してそこの高校に通うのが普通だった。

 うちの代は何でか、島の高校から大学行く奴がそこそこ居ったけど…


 進学塾は無いし、洒落たお店も無いわゲーセンとか遊ぶ場所も無いし

 夜なんて港近くが少し賑やかで明るいだけで

 その他の場所はポツンポツンと街路灯があるだけ。


 バスは循環があるだけで電車は無し、信号交差点も3つしかない弩田舎…

 アマゾン頼んでも船便で遅いし、海が時化れば来ない。

 週刊誌は週遅れなんで、電子で見るのが普通なぐらい。

 本土と違って遊びは少ないし、やることはもっと少ない。

 クソ田舎やでな~って笑いたくなるほどやったけど…

 今思い出すと楽しかったなぁ…みんな大して頭良くないけど健康で体力だけは有り余ってさ…


 思い出ってのは、


 白波を分けて親父さんたちの船に乗って海を散歩したり、


 防波堤の天場の縁を友達と下らない話をして、海の光に照らされて帰ったり、


 魚釣りを競争でしたり、浜に産卵に来るウミガメ見に行ったり、


 みんなでバーベキューしたり、


 高校のプールで泳いだり( 太平洋は波が高いので泳ぐのはキツイしベトベトするんで )


 まあすごく健康的で、お金が絡む遊びなんか皆無やった。


 まあ、やることが無く仕方なくって感じだったけど、

 今思うと、本土の子より恵まれていたかもね…空気美味いし。



 いい気分になったところで、更に一口…美味いなあ…






  アッツ~

 あたいは、酔いつぶれることなく一本のバーボンを飲みきってしまった。

 やる事が終って、テレビでも見て時間を潰そうとするが、

 体はアルコールを冷まそうと必死で体温を上げているのですごく暑い…


 エアコンは嫌いなので、窓を開けて扇風機なんだが、

 朝とは違って昼も近くなると、6月の空気は熱風にしか変わらない…


  気が付くとお腹が減っているのに気が付く…馬鹿ほどカロリーを取ったのに。

 しょうがないんで酔い覚ましを兼ねて飯を食いに街に出ることにする。


  流石にふらついて、よろよろとアパートを出て鉄の階段をゆっくりと降りる。

 外の夏の日差しは肌を刺す痛みがあるが…大したことは無い。

 山また山のここらは、

 海の照り返しで育ったあたいには何とも思わない。


  

 階段を下りて暫く歩くとちょっと胃袋が気持ち悪い。

 が、たかがバーボン1本だし大丈夫だと思う…多分


 ふらふらと近所の知り合いのラーメン屋に昼飯を食いに寄る。


 「 おいおい…大丈夫かよ?顔が真っ赤だぜ…ってか臭ええなぁ酒臭い 」


 よく色目使ってくる兄ちゃんが心配そうに氷水を出した。


 「 ふはああ?さ酒臭い?酔ってなんかひなひってえ… 」


 今日初めて、人に発した言葉はただの酔っぱらいの言葉だと気が付いた。


 「 お…奥の部屋が空いてるから… 」


 って、ちょっと赤くなった兄ちゃんの顔を見て苦笑いをする。


 勿論、そんな危ないことはしないよ…ただ、

 

 小山内 愛 29歳がまだ、女として見られてるんだなあって泣けてきた。





 「 本当にいいのかい? 」


 兄ちゃんが頼んだチャーシュー麺を心配そうにあたしの前に置く。

 その顔には下心は見えないように思える…結構酔ってんだあたいは。


 「 大丈夫大丈夫…心配するなって 」


 と、あたしはつまみも無しにストレートで飲んで荒れた胃に、

 油こってりのラーメンを流し込んでいく。 


 げええ、ちょっと来るなぁ…でも笑顔で笑顔で…

 あたいは正直、気持ち悪く(40度の酒を700㏄飲めば大概そうです)なったが、

 弱音を吐くわけにはいかない…ここで潰れると

 ラーメン屋の奥の部屋に寝かされて…何をされるか分かったもんじゃないからだ。


 必死に格闘すること30分…途中からこれが地獄かって思ったが我慢した。

 アルコールがラーメンの汁で流れるんじゃないかって程汗をかいて

 大きめの赤い暖簾を跳ね上げて外に出た。


 あたいは酔い覚ましの為と称して、川のほとりを散歩することにした。


 冷静に考えれば、ラーメン屋の後に直ぐに家に帰ればよかったのにとすぐに思った。



 う~本格的に気持ち悪い…流石に大学の時とは違うか。 

 歩くのがつらい…頭がいたい…鼻水が止まらない…

 引き返そうかと思ったが緊急事態が光速の勢いであたいに襲い掛かる。


 げ、おトイレ行きたい…

 酔いも何もかも吹き飛ぶような、強烈な尿意で全身から冷や汗が噴き出てきた。


 うえええ、どうしよう…周りにトイレは無いし…


 う…一歩でも歩くと出そう…


 あたしは川のほとりの木に縋り付くように腰を下ろした。

 で、そのまま立てなくなってしまった…ビクとも動けない悪魔が来たのだ。

 自分の馬鹿さ加減に絶望しながら涙が出てきた…


 

 まさか、この後に人生2回目の恋が待っているとは知らずに。


 






 






  

 





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