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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
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ゴーヤで口説かれる剛ちゃん

  う~ん、今日の瞳はおかしい…いつもは面白くなさそうで投げやりな表情なのに

 ( ま、通学なんてめんどくさいし、瞳の所は6時前の回収だからしょうがないんだけどね )

 今日はなんか変に角が無くて優しい顔をして私に話しかけるんだもん。


  て、思ったら一昨日のジンギさんの件でお礼を言われた。

 あの時は、助けたってみんなが言ってたけど私は、瞳が困っているのしか覚えていない…

 なので感謝されても…よく分かんない。

 これからも仲良くやって行こう…って言われたのも初めて聞いた。

 そりゃあ同じバイト仲間だからねえ…頷いて”これからもよろしく ”って返事はした。

 馬鹿でもそれぐらいの常識はあるもん。



  学校について、瞳が降りる後をついて行こうとするとゴリラに呼び止められた。


「 何ですか?後藤先生 」

 すると、ゴリラはニヤニヤ笑って( 無精ひげのおじさんの笑顔は気持ち悪い )


「 いつの間に瞳と仲良くなった? 」って言われた。


「 えっとぉ…仲がいいのはバイト仲間だしぃ 」


「 そんなのは知ってるよ、サービス課程のレポートもちゃんと生活指導の足しになるからな。

  しかし、1年以上は仲がいいって言ってもどこか投げやりな瞳の態度は

  お前の言う通り、お仲間って感じだったけど。

  今日の瞳の態度はそのだな… 」


「 えっと、なんですか? 今日の瞳は確かに変だったけど 」


「 友達に対してのものだったように思うぞ…ちゃんと向き合って真顔で話してたろ?

  相手の事をちゃんと気遣ってだな、言葉使いもいつも感じじゃなかったしな。


  まあ、あいつは家庭の事情とかいろいろあるけど負けないでやってるだから

  ちゃんと友達になってやれな。」


 といって、私の頭をグシグシと撫でて来る。

 結構痛いし、開けっ放しのドアをどうしようかって運転手の方がこっちを睨んでいる。


「 セ…先生、それセクハラにパワハラですよ 」

 って答えたら、


「 ほおお、みけ…難しい言葉知ってんなぁ…で、ちゃんとした意味は? 」


「 …分かんないです 」

 大体は朧気ながらに分かるけど…ちゃんとなんて説明できない私の頭じゃあ…


「 先生は生徒にそんな気など起こしたことは無いぞ…これはだなぁ

  まあ、言ってみれば”大変よく頑張りましたって”労いの態度さ。 」


 まあ、保健体育の東谷先生に何度も告白して振られまくっても挫けない先生が、

 私の様な子供に何か思う事ないよね…

 こういうスキンシップはバイト先でもよくされたし、今もしょっちゅうされてるし。

 小さな子供や動物にするのと同じような顔をしてるしね。



  バスを降りて瞳の後を追いかける。

 すると、校舎の裏手からキャーっていう声を聴いたのでギョッとした。

 

 その声を聴いて前を歩いていた瞳がそちらへ走り出す。

 私も急いで後をついていく…この体になってから走るのは得意だから苦にもしない。

 昔は50メートル17秒って中学校の記録じゃないかって最低タイムだったけどね。



  校舎裏に着いた時…目の前に見える光景を見て…またかと思った。


「 なあ、剛ちゃん…今度さぁ…俺と付き合ってくれないか?

  親父の奴がさ、ぎっくり腰で畑の手伝いが足りなくてさぁ 」


 ごつい男…180はある畜産の生徒だったよな~が気持ち悪い顔で剛ちゃんに必死に頼み込んでいた。

 手にはゴーヤが5.6本…ってまさかこれ


「 嫌だって、なんで家政科の私が手伝うの!

  畜産の友達とか、畑ならプロの園芸科の人とかいっぱいいるじゃない 」


 全く持って正論を同級生の剛ちゃんが真っ赤な顔で吐き出した。


「 はああ、またか…しかしゴーヤって何?

  普通はバイト代握りしめて頼み込むんじゃないの?

  コンサートとか映画のチケットとかさ~一応、今までの奴は考えてたぞ~ 」


 瞳が呆れた様に呟いた。

 その声を小耳にはさんだ馬鹿が、必死に鞄から紙袋を取り出した。

 一応用意はしてきたんだ…じゃあ、それから出せよって気にはなる。


 自分とこの畑からゴーヤ取ってる時はナイス・アイデアとでも思ったんだろか?

 凄いわ…渚(畜産課の教材用の飼われている牛…5代目)並みの発想だわ…


 私は、多分”朝摘みが一番美めええからな”って呟きながら日の出より早く

 薄暗い中、大男が畑に出て朝露に濡れながら必死に摘んでる光景が目に浮かんだ。

 凄い…真っ当な人間なのに私より遥かに馬鹿だ…


「 2万は出す…ゴーヤもあと10本は… 」


 頭が痛くなってくる会話だ…ゴーヤ10本追加ってどんな発想なのかしら。

 それに、2万って…バイトが目的じゃあないだろう!

 で、大柄おおがらの馬鹿はそのまま剛ちゃんの方に歩み寄る。


「 馬鹿馬鹿!来るな馬鹿! 」

 涎が滲んだ顔を真っ赤にして、鼻息を荒くしてガニ股(農作業で鍛えられた下半身)で

 迫ってくりゃあそりゃあねえ…


「 先輩、先輩…来年卒業でしたよね… 」


 瞳がニヤニヤ笑いながら間に割って入った…


「 って、お前…日本国の…確か2年だったな。

  ああ、そうだよ…だから今のうちに剛ちゃんに粉かけようかと… 」


 粉かけるって言葉を聞いて剛ちゃんが震えあがった。

 同情します…ゴーヤ持って来て口説きにかかるなんて前代未聞の馬鹿嫌ですよね…

 

「 えっと…諜報員でもないので日本国のって途中で切らないでください。

  日本国拳法部ですから。

  さて、先輩?もう止めません?剛ちゃんはこれまで何人も言い寄られましたけど

  絶対にOKなんかしませんでしたし、これからも絶対しませんから。


  で、まだ続けるというのなら… 」


 瞳は、キョロキョロ周りを見て少し長細い石を取り上げた。


 馬鹿の先輩は不思議そうにその光景を見ていたが、次の瞬間に顔が青くなった。

 パカッって音と共に瞳が手刀で石を割ったのを見たからだ。


「 一応、2段なんすけど…喧嘩しても勝ちますし女なんで泣けば誤魔化せるけど、

  先輩は肋骨折って直ぐに退学になりますが…どうします? 」


 冷めた声だったが、20センチはある大きな石が目の前で割られたのだから、

 筋肉バカの先輩には、それがどんなことか理解したんだろう…


「 お…おう、女の子相手に喧嘩は拙いよな…折角、頑張って退学せずにここまで来たんだし…

  悪かったな剛ちゃん… 」

 馬鹿な先輩は、

 そう言うと寂しそうに何度も振り返りながら校舎へと戻て行った。



 「 災難だったねェ…剛ちゃん… 」


 私は、半べそを描いている剛ちゃんにハンカチを渡すと、

 極度の緊張から解き離れたのか、剛ちゃんは大きな声を上げて泣き出した。


 「 しかしまあ、いい加減諦めろって言いたいわ。

   告白したって何したって…どうにもならんのに…馬鹿の上に変態じゃあ最悪だし 」


 瞳が剛ちゃんの頭をいい子いい子と撫でてやる。

 しかし、剛ちゃんてばモテすぎ…災難にしか思えないけどね。


 頭は同じクラス何で底辺には違いないけど、

 身長 158センチ 体重48キロで色白の上に凄い美形…だ。


 しかし、それは剛ちゃんにとっては不幸でしかない。


  日本全国、家政科の高校は星の数ほどあろうとも剛ちゃんは多分、希少な存在だ。


 熊田くまだ 剛一郎ごういちろう


 世に目珍しい、この学校に一人しかいない家政科の男子生徒なのだから。

 







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