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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
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盗って盗られて 

  ”みけ”が作ってくれた料理は本当に美味しかった。

 勿論、”限界知らず”の小山内 愛さんのフォローはあったとしても

 みけ自身が醸し出す家庭的で優しい雰囲気が更に食事の味を美味しくしている。

 大したことはしていない…

 笑顔で話を合わせたり、食器の置き方が丁寧だとか、たわいないおしゃべりとか…

 直接的には料理とは関係ない仕草の一つ一つが、

 多分、平凡な味だと思うものもその空間の中では絶品の味に感じた。…不思議だけどね。


 九鬼さんは黙々と食べては、笑顔でしきりに”みけ”の頭を撫でるし、

 愛さんの眼には何故か涙が滲んで鼻をすすりながら冷や汁を流し込んでいた。

 あたいは…家庭ってものに絶望しているんで慣れない雰囲気ではあるけれど、

 自分がここにいてもいいんだよって言われているように感じてお尻が痒い。

 まるで魔法にかかった様な時間だった。


 ただ、当のみけは既に12時近い事もあり今は、

 冷や汁の器を持ったまま机に突っ伏して途中で寝落ちしたけれども…

 

「 何だろうね…この感じ 」

 寝落ちしている”みけ”をそんなに体の大きくない(156センチって後から聞いた)のに

 愛さんは軽々とお姫様抱っこで抱き上げる。

 へえ…脱力した体を引き上げてかあ…女性らしくない怪力の持ち主なんだ。 


「 まあ、懐かしいって感じっていうのが近いかな… 」


 九鬼さんは、直ぐに奥の部屋に布団を敷いて…信じられないけど”みけ”の歯を磨いた。

 16のでっかい子供が馬鹿みたいに口を開けているのは滑稽だけど、

 そこまでされても”みけ”は全く起きないので九鬼さんたちは苦笑いしながら

 布団に運んで寝かしつけた…まるで小さな子供のようだった。






「 さてと… 」

 小山内 愛はアルコール度25度の薩摩白波を350㏄は軽く入る陶器の湯飲みに半分ほど入れ

 口元に少し余裕が出来るぐらいまで熱いお湯を入れる。


「 うわ~濃いなぁ、口開けなのに… 」

 対面で九鬼が呆れたように苦笑いをする。


「 そう?大したことないでしょ?燗で日本酒のむぐらいやから。

  うちが高校生の時に飲んでたレベルじゃん 」


 九鬼は横で舟をこぎだした瞳をちらっと見る。

 大丈夫…寝てるわと九鬼が確認した。


「 高校生…って、まあそうか漁師町だと早いって聞いてるもんね 」


「 そうね、うちは小学校3年から飲んでたわ。

  夏休みなんか冷蔵庫開けて、サイダーよけてビールの中瓶取り出して

  よく親父に怒れれてたわ。


  ただ、注意の言葉が”飲み過ぎるなよ!1っ本だけだからなぁ!”だったけど 」


 

「 はあ、サイダーの方が美味しいでしょうに 」


 九鬼が呆れて愛を見つめる。


「 まあ最初はそうだったんですけど、

  漁師町で仕事の漁は明るくなる前が勝負で昼間は暇。

  夏の昼間なんか、

  大概うちの座敷で宴会があったから面白半分に飲まされてがきっかけかなぁ…

  苦くてやな顔すると親父さんたちが笑ってさぁ…で、そのうち覚えたって感じ?


  夏の港町なんて潮の匂いと魚の匂いがいい肴だし、

  海の照り返しで暑いしひりひりするし、冷たいビールは最高だって感じに… 」


「 怖いわ…まあ、分からないわけじゃないわね。

  私が初めて飲んだ時とはまるで違うけど…しかしそれでも3年生は早いわよねぇ 」


 愛は少し乾いた喉を、熱いお湯割りで潤す。

 

「 そう?でもそんなもんだったよ、うちらの周りは… 

  お酒もそうだけど、

  大体、いろんなこと経験するのは早かったんじゃない?狭い島だったから

  外は太平洋、遠くに渥美半島がおぼろげに見える程度の田舎だったもの

  遊び場も無かったしね 」


「 知り合いばっかで…息が詰まるって感じかな? 」


「 そんな時は無かったわけじゃあないけど、高校生までだったし

  島民だって大していないし、みんな家族みたいなもんだったから気にはならなかったわ。

  

  ま、外の世界を知らなかったんでそれが当たり前だったしね 」


 羨ましい…瞳は愛の話を寝たふりをしながら耳を立てていた。

 ここも結構田舎だけど、人は多いし誘惑も多いし悪い奴らも多いので気も使う。

 更に、

 近所の大人同士で宴会なんかするような社交的な両親でもなく、

 そのくせ男好きな母親は、親父が仕事で帰らないと行方不明が多いし、

 仕事だっていう親父も、それが本当に仕事かどうかって怪しいもんだし…

 で、ガサツだけど、こんな風に明るい人に育つのかと。



「 前のご主人も同じ島民だったって言ってたわね 」


 愛の目が少しきつくなったので九鬼はしまったと思ったが、

 愛は直ぐに明るく笑い飛ばした。


「 ははは、そうそう…同級生でしたよ。

  一緒に頑張って大学もいったし、卒業してすぐに結婚して3年間幸せでしたね。

  今思うと… 」


「 幸せだったのに離婚って?あ…ごめんなさい聞くことじゃなかったわね 」


 九鬼は自分で瞳にデリケートな問題って言ったのに、

 興味本位でつい聞いてしまった自分が恥ずかしくなった。


「 ああ、別にいいですよ。元カノに略奪されただけですからね… 」


 口元に笑みが浮かんでいるのを不思議そうに九鬼が頭をかしげた。


「 略奪って…いいのそれで? 幸せだったのに 」


 愛は、まだ大方残っているお湯割りを一気に飲んで、ホッとため息をついた。

 で、直ぐに次の湯割りを作りながら平然とそれにこたえた。


「 ま、しょうがないか…て思たんですね。元カノってうちの親友で、

  こんな小さい時から知ってる、妹の様な姉の様な島の女の子… 」


 愛が80センチぐらいの高さで頭を撫でる仕草をした。


「 それに、元々はその子と一緒になるはずだったのに、うちが盗っちゃったし

  男の初めてもうちの初めてもお互い経験して

  呆然自失している間に逃げるように京都の大学まで内緒で出ていったでしょ。

  で、結婚までして3年間いい思いしたんだし…後悔してないし

  逆に、いい時間を全部奪った私の方がよっぽど悪いって思ってるんですよ 」


 九鬼は淡々と話す愛の湯飲みにカチンと乾杯した。


「 そうか、んじゃあ引き分けって事か…ありがとう話してくれて 」


 瞳は不意に頭を撫でられてビクンと体を震わせた。


「 瞳ちゃん…間違っても”みけ”ちゃんと同じ男を好きにならないでね。

  うちもあいつも幸せだったし、今一緒になって島に居るあの子も幸せだろうけど、

  満点じゃないんだから。

  だからさ、満点を取りたかったら同じ男を好きにならない事だね 」


 起きているのが分かっているのか分かっていないのか瞳には分からなかったが、

 小山内 愛の言葉には少し寂しさが漂っているのは

 子供の瞳でも分かった…恋愛って幸せって何だろうと瞳は思った。


 但し、もう焼酎の匂いで”みけ”と同じように眠さに襲われて

 直ぐに寝落ちしてしまったが。


 








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