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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
20/100

小山内 愛

  「 へえ、うまいもんやなぁ…高校生でこれだけ出来れば大したもんや 」

 私がアジをさばくのを見て愛さんが感心したように呟いた。


 そう言う愛さんも流石に飲食のプロらしく手順よく料理を進めている。

  工程ごとに面倒でもきちっと道具を洗浄し更に布で拭きあげるし、

 卵焼きもお店から持ってきた上等な卵焼き器で

 丁寧で抜かりの無い手順でクルクルと手早く焼き上げていく。

 こういうのは大事なんだよね~実際味が良くなるからね。

 

 「 魚は小学生の時から捌いてるからこれぐらいは… 」


 「 そうか、うちは漁師町やったで魚捌くのは五月蠅い方やけど

   それだけ出来たら十分や。

   あんたは他の調理も大したもんやし、器量もいいやろ。

   うちが住んでた島なら直ぐに男が付きまとって告白の嵐やけどなあ 

   どうや自分? 」


 「 告白か~されたことないですよ 」


 「 へ~、タワケやな”みけ”ちゃんの高校の男連中はさ 」

  それは言い過ぎじゃないだろうか?


 「 でも、私は頭は悪いし普段は寝てばかりなんで… 」


 「 自分で頭悪いって言うか?

   まあいいけど…学校出たら別に勉強できんでも大した意味は無いよ。

   寝てばかりって高校生の子なら成長期やし当然やろ? 」


 私は思わず笑ってしまった。

 愛さんの言葉には何の飾りも無く本気でそう言ってるからだ。

 出会った時からこんな人だったわ、裏も表も何もない…

 でも、馬鹿でドンくさいって事で

 同級生でも学校の先生の誰もが馬鹿にして、私は結構苦しんでたんですけどね。






  あたいは目の前の九鬼さんと、そわそわしながら座っていた。

 料理が出来ないと机の上を片付けて布巾で拭きあげるぐらいしかできないので暇だからだ。

 傍にいて洗い物とか食器並べたりしたらって言われそうだけど、

 みけや、愛さんの様に料理が出来る人に対しては返って迷惑にしかならない。

 さっき、みけの手伝いをしようとしたら愛さんが物凄く迷惑そうな顔で 


「 手伝ってもらうのは嬉しいけど、ホンマは迷惑にしかならんから座って待っていて。

  それと、姉御は何があっても手を出さないようにね 」


 私の後ろで大根をすり下ろそうとしている九鬼さんから、皮をむいていない大根を取り上げた。

 九鬼さん…皮ぐらいは剥くぐらいは…

 って、そう言うことは私もこの人たちから見れば同じ穴の狢って事を理解した。


  暇なので九鬼さんに話を振る。

 さっきと違って”限界知らず”のママがいるんで彼女の事でも聞こうかと思った。

 普段のバイトは8時には終わってマイクロで家に帰るんで

 飲み屋のママさんと接点があまりないのでどんな人かと気にはなっていたからだ。

 ”みけ”は何故かここの旅館の大人たちに好かれているんで

 何かと愛さんの方から声を掛けたり、お菓子なんか貰ってるから(子供かよ)

 面識はあるんだよね…だから、ここに連れて来たんだし。

 あたいなんか、九鬼さんと愛さんが親しいって事も知らなかったんだもん。



  「 ねえ、九鬼さん。

    愛さんってどんな人なの?あたいは良く知らなくて… 」


 「 ああ?愛の事?ってまあそうか…飲み屋さんなんて時間帯が違うからね~

   みけちゃんは、

   愛が猫のように可愛いってよくお菓子あげてるから面識があるけどね。

   んじゃあ、苗字とか年齢とか… 知りたい? 」

 

 「 ええ、是非… 」

 猫の様にというか、みけ自体が可愛い生き物って感じなんだけど…


 九鬼さんは顔を近づけて小さな声であたいに話し出した。


 「 あいつさ、歳の事を言うと気分が悪くなるから…小声でね 」


 「 あ、はい 」


 「 フルネームは小山内おさない 愛  歳は29歳で独身だな一応… 」


 「 一応? 」


 「 バツイチなんだよ…ここら辺はデリケートだから流してくれ。

   出身は愛知県の離島って聞いてるなぁ…漁師町で網元の娘で性格はまあ…

   男勝りであけっぴろげで大雑把でいい加減?って感じだね。


   学歴は凄いぞ、京都大学法学部卒業  行政書士と土地家屋調査士の資格も持っている

   まあ、本人はたまたまだって言ってるけど…才女には違いないな 」


 「 嘘… 」


 あたいは、超絶に頭の悪い”みけ”と楽しそうに料理を作ってる小母さん(高校生から見れば)で

 口は悪いし、だらしそうにも見えるあの人が才女とはどうしても思えなかった。

 ”みけ”ほどでなくても

 勉強は大したこと無く、滑り止めも設定せず進学校に受験に失敗して

 止むを得ず(やむをえず)底辺校に通っている自分とどこが変わるのかと思った。


  

  



  

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