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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
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私は猫である。野良だから名前は無い…

 私は猫である。野良だから名前は無いが適当な名では呼ばれている。

曰く、”みけ””にゃー””ちょろ””花子”酷いのになると”ジョセフィーヌ”って言われる。

他にも言われているけど、頭が大したことないから覚えていない。

一番多く呼ばれてるのは”みけ”かな…三毛猫だもの。


 生まれて1年ぐらいかと思うけどよく分かんない…

小さい時に捨てられたようだけど、どうにか今まで生きてこられた。

ここいらの人は猫が好きな人が多いんで、

必死におめかしして、猫が猫被って甘い声かければ”ご飯”も貰えるが大きいかな。

だから、呼び名は多いんだ。

勿論、いつも貰える訳じゃないのでゴミ箱漁る事もあるけどね。


 今日は…ご飯を貰え損ねた日だった。

一日中、町のあちこちを巡回したけど、殆ど空振りで

小学生の子に撫でまわされたり、オス猫にちょっかい出されたりして

逆にお腹が空いてしまった。


 でも、最近見つけた場所にはだいたい決まった時間に餌を貰えるんで

最後の希望をもって、疲れた体を引きずってその場所へと歩き出す。


 途中で、邪魔が入って更にお腹が空くのが嫌なので、

夕日に赤く染まった町中の壁の上を選んで歩いて、

大きな車に轢かれて、おせんべいになるのも嫌だから

道路はガードレールより外を歩いて、少し山の方の公園へと急ぐ。


 公園に着くと…餌をくれる人がぼ~といつもの様に座っていた。

公園には他に誰もいない…砂場と、ブランコぐらいしか無い公園だもんそんなもの…

あ…砂場は後から使うから丁度いいけどね。


 餌をくれる人は私に気が付くと、目を細くして手招きする。

ちょっと太っていて、お世辞にも綺麗って言えない女の人だけど、

私にとっては命を繋げる餌をくれる人だから、見た目なんか関係ない。

野良の私に餌くれるぐらいだもの、いい人なのは間違いないからね。


 「 おいで、おいで…今日はお魚だよ 」

 白い紙の上に、私の大好きな鯖が乗っている…焼き鯖だな。

離れていても、塩の匂いに甘い油の匂いが鼻を擽って…お腹がきゅ~と鳴るのが分かる。

私は、疲れていたけど体から力が湧いて来て、ニャーニャー言いながら鯖に近づく。


 餌をくれる人は…中学生のお姉さん3年生って言ってた。

何度も話しかけて来るんでそのぐらいは覚えている。


「 お食べ、お食べ… 」


 私を寂しそうな顔で見下ろしながら、その人は餌をくれる。

私は、コンクリートの地面に置かれたハンカチの鯖にむしゃぶりつく。


 少し焦げているけど、熱が冷めていて猫舌の私には丁度いい。

バクバク食って、骨が当たったらバリバリ噛み砕く…美味しい。


 お姉さんは更に小さなチーズの様なものをパラパラとハンカチに落としてくれる。

 

 わ~チーズだ…久しぶり!もちろん食べますよ。

甘くてしょっぱい鯖が残った口にネチャネチャと絡みつくけど思いっきり美味しい。

パクパク食って眠たくなったけど、

ちゃんと最後にお礼を言わなきゃね…ということでお姉さんの脛にスリスリ…


 「 いいわよね~あんたさ… 」

 

 お姉さんがすり寄っていた私を捕まえて膝の上に乗せる…

お、いいじゃん…柔らかくてあったかい…ちょっと悪いけど寝ちゃおうかなぁ?


 「 毎日、分からない勉強しに学校行ってさ、不細工って言われて馬鹿にされてさ…

 面白半分にいろんな物隠されたり、意味も無く蹴とばされたりしないもんね。


 私…猫のあんたみたいに自由気ままに生きて…  」


 そうですか?猫の私がいいんですかね?いつもお腹減らして寒い空の下で寝る私が?

いいんじゃないの…馬鹿にされても蹴られてもさ死ぬことは無いんだし…

ご飯いっぱい食べて、暖かいお部屋でちゃんと寝れるんでしょ? 

 だいたい、太ってるじゃん!私なんかガリガリだよ…ってあんた泣いてるの?


 「 きょ…今日ね…先生に言われたの…高校はあの高校しか行けないって。

  あんな高校…行っても大学なんか行けないし、

  県内で就職する時に履歴書に真っ赤な顔で書くしかない高校なのよ…そんな高校にさ~

   う…うえええ… 」


 えっと…眠たいんですけど寝てもいいですか?

って、寝れないよ…私に覆いかぶさって泣き始めたもの…


 「 何でさ…両方駄目なのよ。容姿は駄目で頭も悪いって最悪じゃん…

  お兄ちゃんたちはさ…進学校だの公立の大学行けて頭もいいし、彼女もいるし…

  何よりカッコいいし二枚目なのに…なんで私だけスカなのよぉ… 」


 ちょ…痛いんすけど…

ニャアアと文句言ったらチーズを口に入れて来た…別にお腹…は減ってますけど。

まあ、もらった限りには我慢しようね…って思ってたらお姉さんが泣きながら頭を上げた。


 「 ありがとうね…聞いてもらったら、ちょっと気持ちが楽になった 」


私は、とりあえずどうしていいか分からずに、ニャーとだけ答えてゴロゴロしだす。


 「 今度は鳥のささ身でも持ってこようかしら?それともイワシか何かかな? 」

って、私の背中を撫でながら今度の餌の話をしだす。


 ”鳥のささ身お願い!”って人間の言葉で言えずニャーニャーと甘い声を上げた。

 お姉さんは多分、言葉は分からないだろうけど一応声を上げてみる。


 「 そうか…そうか んじゃイワシにするわね 」


 って…まあいいやイワシでも。結構好きだし…

 お姉さんの手が私の背中を優しく撫でて頬摺りしてくる…気持ちいいなぁ眠っちゃいますよ!




  「 ほら、みけ!早く起きてよ!そろそろ中休み終わりだよ! 」


 背中を乱暴に瞳に揺すられて、寝ていたことに気が付いた。

 部屋の中には夕暮れを知らせる光が入ってオレンジ色に染まっていた。

 ベスさんを迎えに行って、そのまま休憩室で休憩したんだっけ?

  

  時計を見ると…5時20分…ヤベ!遅刻しちゃうじゃん。


「 さっと着替えて、九鬼さんのところへ行かなきゃあ…って、あんた泣いてるの? 」

 瞳が首をかしげて私を見て来た。

 

「 はあ?泣いてるわけ…って何よこれ… 」

 私は、涎と涙でくちゃくちゃになった顔と

 べちゃべちゃになった枕代わりのタオルを見て呆然とした。


「 まったくさ、寝てないんじゃないの?あんた昨日何時寝たんだよ! 」


「 うんとね…多分、8時にはなってなかったと思う。

  朝は学校が無いけど…6時前には起きたかなぁ

  お兄ちゃんたちのご飯と洗濯があるからこのぐらいじゃないといけないんだ… 」


「 8時?って幼稚園児かよ!んで10時間寝たのかよ? 」


「 そうだね…10時間なら普通…だけど? 」


「 猫かよ!まあそれより、それ洗濯しておけよなぁ…休憩室の全自動に入れりゃあ直ぐだし 」

 

 私はヘラヘラ笑いながら、分かったって瞳に返事をした。



   





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