覚えてないので焦った。
頭を刺すような暑さに閉口して舌を出して歩く。
8月の陽射しはマジ苦手。
大体、暑いのは山沿いの町に住んでる私には免疫がない。
勿論、夏になればあそこも暑いんだがレベルが違う。
山はあっても深い森は無いし、太平洋の熱い風が吹いてもきついだけだし。
磯の匂いも慣れればどうってことないけど臭いし…
それに輪をかけて暑いのは
「 大丈夫? 」
とあたいの横で勝が心配そうに顔を覗き込んで来たこいつ!
昨日会ったばかりで何?馴れ馴れしいんや?
まあ、ちょっと背が高くて線が細いようで筋肉質で肌も浅黒くて…真っ黒やな。
髪は癖毛で真っ黒というより少し茶色っぽい
海の傍だから焼けてるんだろうけど綺麗に整ってる。
顔はまあ…スゲー男前やっていう。
あたいの剛ちゃん(思うのは勝手でしょ!)とは正反対だけど凄い好みではある。
…
でも、初対面でこの馴れ馴れしさはちょっといくら何でもなぁ~
「 大丈夫って? 」
半分口を開けたままこの暑苦しい男に返事をする。
「 いや…今日なんか涼しい方なのに汗は凄いし苦しそうだし。
昨日あんなこと言われて案内したけど体調が悪そうなら引き返そうかと思って 」
はだけた肩の皮膚が悲鳴を上げそうなのに今日は涼しい?
あたいは首を傾げて無理に笑顔を作る。
額の汗が渇いて痛い…
「 昨日、私が何を言った? 」
全く心当たりがない。
普段はあたいだが、流石によく知らん奴には猫被る…あたいだってさ。
「 え…いや、忘れた? 」
男の顔が信じられないって感じで呆然としたんだけど身に覚え無い。
「 あんな事までして頼んできたのに? 」
何か思い出したのか真っ黒な顔が少し赤くなるのを見て
「 ちょっと…待って 」
そう言うとあたいは少し早歩きして
前を行く頭を振りながら髪の中の暑さを飛ばして歩いている”みけ”の肩を叩く。
だらしなく口を開けて舌を出して目がうつろな顔があたいの方を向く。
ああ、こいつも暑いの苦手なんだ…
「 なん? 」
暑いけど勝っと奴に声を聴かれたくないんで”みけ”の耳元に口を寄せる。
なるべく小声で
「 あの…あたいってあの子に昨日何言った? 」
一瞬、”みけ”は呆然としたけど
「 何って…あの子に抱き付いてニヤニヤしながら歳聞いてさ。
それからあの子が珠ちゃんに何か言われて
顔色変えて明日島の案内させてとか海水浴の砂浜の案内させてって言ってたじゃない
珠ちゃんがあの子に何言ってたか知らないけど抱き付いたり
耳元で呟いたりさ…忘れたのぉ? 」
”みけ”は迷惑そうな顔で大きな声で更に勝の後ろから歩いてるナディアさんや瞳の方を向く。
「 そうそう…なんかさぁ、あんたの方から勝君に言わせてるようにも見えたし
抱き付いたりスリスリしたり見てる方が顔が赤くなる感じだったわよ 」
瞳は暑さに強いのかキリっとした顔で(アイスを食べながらだけど)あたいを見るし
あたいが信じられないって顔で瞳を見ると、
ナディアさんは縁の大きな白い女優帽にサングラスだ表情がよく分からないけど
気だるそうに。
「 まあ、少しやりすぎって感じだけど気に入ったのかって思ってたけど違うの? 」
あたいはそのやり取りを聞いて今度は小走りにその男の元に行くと
なるべく体を近づけないで顔を近づけて昨日の事を聞き出した。
背が高いんで思いっきり背伸びしたけど届かなかったんで肩を掴んで下に頭を下げさせた。
んで…
勝は少し不思議そうな顔をしたけど気を使ってか
なるべく体を話しながらも小声で耳元で昨日の事を話してくれた。
曰く、あたいが体を密着させたとか、
いきなり馴れ馴れしく勝君の歳を聞いたり案内したいって言わせたり
おまけに吐息を吹きかけながら勝の…を指差して脅迫したとか。
いや、信じられないわ。
「 あの… 」
あたいは少し前までヤンキーの舎弟たちと遊んでいたし、男が女に何を求めてるのかなんて
うんざりしてるほど知っているけど剛ちゃん以外に興味なんか湧かない。
もっとも実際に恋愛関係なんて考えたこともないし、濃厚接触って言ったら
拳や得意の肘膝でどつきまわすことぐらいしかない。
はっきり言って勝君が話す様な事など出来るわけが無い。
記憶がない…でもみんなが言うのなら事実なんだろう。
顔から火が出る思いだがここはハッキリ言っておこう。
「 ゴメン、何にも覚えていないんだ。
まあ、それでも折角だから秘密の砂浜ってのは見て見たいから案内してよ 」
「 ああ… 」
「 それとさ…勘違いされるといけないから言うけど私…恋人いるし
君の事は別に何とも思ってないから悪いけど気にしないで 」
日本語になって無いようだけど、こんな事しか言えない。
勝君が言うようなことを本当にしていたなら失礼な話なんだけど…
「 そか…俺も好きな人がいるから昨日寝れなかったから 」
勝君はそこまで言うとにっこりと笑って
「 よく分からないけど、案内はするよ…えっと名前って 」
それまで緊張したかのような雰囲気は消え、力が抜けた優しい雰囲気に変わった。
「 珠美だよ、中村珠美 」
あたいはなんだかほっとしたような顔の勝君に少しイラっとした。
なんだか知らないけどイラっとした。
そうか…記憶ないのか…
ってそのまま納得できるほど俺って単純馬鹿じゃねえから何か引っかかった感じが
心のどこかにはあったけど、
俺に対して異性的な興味だけは無い事は確かだったので少し安心した。
まあでもこの珠美って女の子はうちの島に居る様な
高校出たら愛知か東京の大学に出ていきたい日焼けした少数派のメガネ牛蒡
高校の思い出を作ったら同じように島を出て就職しようかという大多数の
どう考えても都会に出たら苦労しそうな野暮ったい女や
なんとなく高校出たら島の適当な男捕まえて静かに暮らせばいいやって
何気に一番無難だけど少しは見た目がいい女達の誰とも違う。
どこかギラギラとした感じがある生気の強い感じがする。
肌の感じは滑々して白い陶器のようだし
( 太平洋の紫外線いっぱいの島育ちの女性と比べてます )
どこか愛嬌がありそうで何より美人さんだと思う。
それを言えば他の人たちも十分美人だし猫みたいな子は凄くタイプではある。
ただ、今好きな人は40過ぎの高校の先生だから比べると
同い年でもかなり幼く感じてしまう。
いや、そこで透き通るような白い肌の外人さんは多分20代だろうけど
凄く落ち着いていて樹先生に比べても遜色はなさそうに見える。
珠美さんではないが別に何とも…
それはそうとして
砂浜を案内する話だったなぁ、どちらにしろ高校を突っ切っていくのが近道だ。
夏休みなんだけど”いっきー”は今週は学校に出てるから丁度いいや
久しぶりに(数日前にあったけど)顔を見るかなぁ。
んで、お客さん連れて案内やって言えば言い訳立つしな。
本能寺勝は
長い髪にTシャツにジーンズ姿で中年だけどとても見えない若い顔で
賑やかな口調でいつも背中を叩く元気な高校の先生の顔を思い浮かべ
少しにんまりとした。




