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2本の尾  作者: ジャニス・ミカ・ビートフェルト
第一部 ”みけ”
10/100

猫まんまは、猫の体には良くないらしい

  お風呂を上がると既に4時近くなっていた。


 私たちはさっきの仕事の伸びた分、30分休憩が後ろにずれちゃった。

 で、今から3人そろってお昼ご飯?兼…夕ご飯だろうなぁ。

 カツサンドは美味しかったけど、その分は九鬼さんにしごかれてもうお腹にない。

 なんか、一食損をした気分になる。


  「 あ~お腹空いた。いっぱい食べるぞ~ 」

 って両手を上にあげたら、


  「 何言ってんの腹八分目にしておきなさいね。仕事の途中でしょ 」


 九鬼さんが旅館の浴衣の襟からお風呂で火照った体の熱を冷ます様に

 ぱたぱたと襟を上下させながら呟いた。


  「 でも~今日は九鬼さんちで泊まりだし…お夕飯には早いんで夜中にお腹が… 」


  「 そうそう、後の仕事もお部屋と宴会場を行ったり来たりですよね~

    ここでしっかり食べておかないと、みけの言う通り体が持ちませんよ 」


  「 はあ、若いってお腹空くのね…あら、若いって言っちゃたわね。

    太って構わないなら、私の家で夜食を作ってあげますから我慢しなさい 」


  「 え、料理できるんですか? いつも旅館の食事しかとってるの見たことないし 」


  「 出来るに決まってるでしょ!何年女…ウホン、ゴホゴフォ…

    大概のものは…多分

    か、家庭料理なら出来るわよ一応ね。


    でも、玄さん(玄馬っていうここのレストランの料理長)がちゃんと作ってくれるし

    しかも会社が半分持ってくれる職員価格で一食380円だしね。

    自分で作ったら効率悪いしかえって高くつくだから普段は作らないわ。

    でも、会社の休日は…自分で作ってるし、

    お弁当に飽きたら夜食も時々作るし…だ、大丈夫!任せて 」


  なんか、信用できないけど、腹が減って夜中に寝付けないって事にはならないらしい。

 ちょっと安心した。

 でも、殆どここで食べてたら彼氏も出来ずらいんじゃあないの?

 ま、美味しいし380円というのは魅力だな。

 専務さんの言う通りここで働いたら、九鬼さんと同じになるかもしんない。

 

 しかし九鬼さん、額に汗が光ってる。それってお風呂上がりのせいだよね…



  お風呂の出口から少し廊下を歩いて、

 従業員通路を通っていつものレストランへ入って、窓際の席に3人で座る。


  うちの旅館は、基本はお部屋で夕食をお出しするから、

 旅館のレストランは基本、朝のみのバイキング形式になる。

 早朝のお部屋出しは人件費の問題があるし、

 主婦やってる仲居さんも多いから人自体が集まらないからね。


  ただ、営業はしないだけで普段はお昼から6時ごろまで従業員の食堂代わりになる。

 社員食堂で経費を抑えるために玄馬さんとスタッフ2人で回すので、

 凝った和食などは作らない日替わり定食と定番の料理が中心。


  お昼までに頼んでおけば、夜勤用のお弁当まで作ってくれる。

 九鬼さんは独り暮らしなんで、仕事じゃなくてもよく頼むらしい。



  今日のお昼兼お夕食は無難に九鬼さんと同じ日替わり定食に、瞳はラーメン定食。


 「 う~ん、これ食べて1時間以上何しようかなぁ… 」

  瞳が箸をとめて窓の外を見回した。

  しかし、ここは一件しかない旅館で他に何もないのでやる事があまりない。

  

  私の方は、今日の日替わりのお魚が大好きな鯖だったんで食らいつくのに必死。

  お腹空いてたもん…それに猫舌の私に合わせて玄馬さんが氷を入れてくれた味噌汁を

  冷や汁代わりにしてご飯にかけてさらさらと流し込む。

  イリコ出汁に豆腐にワカメがご飯に混ざって最高!美味しい。


 「 はあ、魚は頭から丸かじりで、

  相変わらず猫まんまか…ほんと猫みたいだなあ、みけはさ 」


 「 まあいいじゃないの…でも、猫まんまって本当の猫はあまり食べないし

   塩分が多いんで食べさせてもいけないのよ…汗が掻けないから病気になりやすいのよ 」


 「 へええ、そうなんですか…詳しいですね九鬼さん 」


 「 まあね、昔は猫を飼ってたことはあるのよ…

   でも、死んじゃうとショックが烈しかったんでそれ一匹だけだったわね 

   しかし、

   みけは、雰囲気が猫みたいな感じは確かにするわね、目は大きいし顎は小さいし… 」


  私を見ながら、その通りって瞳が笑っているのが見える。


  いやあ、猫みたいって言われても…大体、本当に昔、猫だったし…


  ああそれと、九鬼さん。

  確かに昔は辛い物とか消化に悪い烏賊や蛸なんて食べると調子崩したけど

  今は人間なんで食べれますから。

  でも、猫の時でもどっちも好きでしたよ…美味しかったですよ。

  じゃなきゃあ、猫が裂きイカ必死に食べるわけないでしょ!


 「 まあ、やる事が無ければベスさんでも出迎えに行ったら?

  あなたも、みけも好きでしょ? ご挨拶していらっしゃい。


   それか、智君に勉強でも見て貰ったら?あの子頭良いし可愛いから… 」


 「 可愛い?あいつが…それに、家政科の勉強なんて畑違いですよ 

  数学や英語なんて元々大したレベルじゃないんで教えてもらわなくても十分です 」


 そりゃあ、瞳はそうでしょうよ。

 でも、連立方程式がいまだによく分かんない私にはそれでも難しいんです!


 「 じゃあ、みけ…は? 」


 「 モグモグ…あの…フ、クチャクチャ…間に合ってます 」


 勉強はテストの時にお兄ちゃんに絞られるだけで十分です。

 

 「 そう…でも、大人になってから勉強って出来ないのよ 」


 ああ、九鬼さんも他の大人と同じような…


 「 ま、出来ないなら他に出来るようにすればいいだけだし、

   女なんだから、いい男さえ見つけりゃ…は難しいか…まあ人それぞれだしね 」


 流石、九鬼さん独身長いので実感が半端ない。


 ご飯を食べ終わったら、九鬼さんは仲居頭として直ぐに職場に出向いて行った。

 

 私らは、やる事も無いので九鬼さんの言った通りに、ベスさんのお迎えに出ることにした。

 だって、前に来たときは結構なお小遣い貰ってる。

 ここで挨拶ぐらいしておかないと、流石にまずいかなって思ったからだ。


 


 

 

 

 

 




 


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