File : Project G.O.D. 08
——傍観者機構 活動開始
——接続……成功
隔離フロア室内。対象サナの生体反応を確認。光が灯り明るい室内。サナは寝息を立てながら、寝具に横になっている。
出入り口扉開閉音。対象ミヤビを確認。ミヤビは室内に入ると、サナの寝ている寝具に近づいて顔を覗こむ。そして、近くにある椅子を静かに運び、寝ているサナの横に座った。対象は前回着用していた白衣と首まで覆う衣服を着ており、髪は後ろで縛られている。
サナの顔にかかる髪をミヤビは自身の手でそっとよけ、そのままサナの頭を撫でた。
対象ミヤビの視線を感知。ミヤビは微笑みながら空いた手をこちらに振る。
「昨日はありがとね。それと、今日も来てくれて」
ミヤビは微笑んだままサナに顔を向けた。
「いい寝顔してると思わない? 普段は口の減らない小娘の癖にさ……寝ている時ぐらい、いい夢見てくれているといいんだけどね」
サナから手を離し、ミヤビは小型端末を白衣から取り出した。ミヤビが端末を操作すると、寝具が寄せ付けられている壁が光り、壁全面に空が映し出される。
「結構凄いでしょ? 疑似的に窓を作り出して、ちゃんとのぞき込めば、その先がリアルタイムで見えるようになってるの。ここみたいな密閉式の隔離フロアや星間船だと、こういう設備があると無いとじゃ人の精神的負担が大違い。まあ、サナはあまりお気に召さないみたいだけどね。確かに日の暖かさを感じられる訳でもなければ、風の冷たさを感じられる訳でもないし……」
対象ミヤビ、壁面映像の空を見つめ、小さく呟いた。
「あの空の向こうに、本当に希望なんてあるのかしら」
ミヤビはサナの頭に手を添え、再びゆっくりと撫でた。
「んん……」
対象サナの覚醒を確認。サナは目を擦りながら、ミヤビに顔を向ける。
「おはよ、サナ」
「ミヤビ先生? ……おはよう、ございます」
「よく眠れた?」
「はい、いつも通りで……」
対象サナの視線を感知。サナは口を小さく開けたまま、こちらを見つめている。そして、対象サナの瞳から涙がこぼれ落ちた。
「ちょっ、ちょっと、どうしたの? どこか痛むの?」
ミヤビの声に答えぬまま、サナは沈黙している。
「そっか……嬉しいんだ、私」
サナはそう言って自身の涙を拭った。そんなサナに、ミヤビはハンカチを差し出す。
「そう、それなら良かったわね、サナ」
「はい」
サナはミヤビからハンカチを受け取ると、目頭をそれで押さえる。
「それじゃ、起きたところ悪いけど、朝食は何が食べたい?」
「何でも良いですよ。好き嫌いはないですし」
「その答えが一番やりにくいんだけどねぇ。じゃあ、何が来ても文句言うんじゃないよ?」
「それなら文句以外は何を言ってもいいんですね?」
対象ミヤビ、サナに視線を向けながら目を細める。
「ねえ、サナは知ってる? セクハラってさ、女同士だと裁判沙汰になりにくいって」
「冗談です、本当に勘弁してください」
「はいはい、まあせっかくだし厳しめに評価でもしてちょうだい。遠慮はいらないから。それじゃあ、しばらく待っててね」
対象ミヤビ、出入り口扉に向かい室内から退出。
対象サナの視線を感知。体を起こしてハンカチを両手で持ち、こちらに笑顔を向けている。
「おはようございます、傍観者さん。それとありがとうございます。今日も来てくれて……さっきはごめんなさい。なんだか急に涙が出てきて、自分でもよく解らなくて」
対象サナ、手に持ったハンカチに視線を落とし、ハンカチを握りしめた。
「たぶん、怖かったんだと思います。もしかしたら、今日は来てくれないんじゃないか、もう居ないんじゃないかって思っていたら」
サナは顔を上げ、再びこちらに笑顔を向ける。
「来てくれました。本当に、本当にありがとうございます。私嬉しいんです。こんなに嬉しく思えたの、本当に久しぶりです」
対象、空が映し出されている壁に顔を向け、壁に片手を添えた。
「昨日はあっと言う間でした。楽しくて、嬉しくて……これからも、そうだと、いいな」
サナ、壁に添えていた手を見つめ沈黙。対象の手、手首は完全に灰色に変色し、腕にも進行している模様。サナは手を下ろして小さく頭を振り、寝具から抜け出した。
「先生来る前に、シャワー浴びてきますね」
室内扉に向かう対象サナ。対象を視界から消失。隔離フロア内に生体反応を確認。
周囲に動作反応及び生体反応無し。
——傍観者機構 接続停止
管理番号_20160805 管理者名_若葉代理