File : Project G.O.D. 05
——傍観者機構 活動開始
——接続開始……成功
対象ミヤビの生体反応有り。室内壁面に大量の映像を確認。また、室内における壁面映像以外の光源無し。
対象ミヤビを確認。ミヤビ、椅子に座りながら壁面に映る映像の一つを凝視。生気の無い瞳。小さく開かれた唇。
『——勿論、だからといって先生の事が嫌いになったわけではありませんよ? 何ていうのか、こんな私でも凄く感謝しているんです……ただ、私が死んだ後はどうなってしまうのか考えると、怖いんです……私生きたい。あの人の支えになれているのなら、もっともっと生きていたい。ミヤビ先生から、たとえ作りものでも笑顔を奪いたくない。おかしいですよね、こんな風に考えるのって……解っています、自惚れている事ぐらい。でも、そうでも思わないと……私』
対象ミヤビの視線を感知。ミヤビがこちらに体を向けると同時に、映像からの音声が停止。
「いらっしゃい……」
ミヤビは暫くこちらを見つめた後、映像が流れ続ける壁に視線を移した。
「勿論、撮られてる事をサナは知らないわ。一応規則でね。共感病患者は発見次第二十四時間監視体制になるの。公にはされてない規則だけど……あの子はこれでも優遇されてるのよ? 本来だったら表面化した時点で即完全拘束。本人が自殺を望むか、もしくは末期前に薬剤投与で処分するかが基本。でも、あの子は色々と根回ししたお陰で特別なの」
ミヤビは笑みを浮かべながら、こちらに視線を戻した。
「軽蔑する? していいわよ。むしろしてちょうだい。こうやってあの子のプライベートを全て覗き見ている女を。勿論トイレだろうが風呂だろうが死角が無いように大量にカメラが入ってる。ああ、そうそう、今入浴中よね、見る? ……なんてね。あれは見ない方がいいわ。心臓がいくつあっても足りないわよ、あんなの見せられたら」
ミヤビは壁面の映像の方へ身体を向ける。机に肘を付け、そのまま自身の首に手を添えた。
「ははっ、笑っちゃうわ。いくら仕方ないとは言え、こんな人権無視した事がまかり通っているんだもの。本当に滑稽よ、まったく」
ミヤビ、机に視線を落とし、呟くように口を開く。
「こんな筈じゃ、なかったんだけどね……研究当初は希望があった。どの研究者も共感病解明に全てを捧げるつもりで没頭したわ。だって、もし地球の灰色化との関係性を見つけられたら、それを止める手立ても見つかるかもしれないじゃない? でも、研究が進むうちに気が付いたら、こんな馬鹿げた事が認められるようになっちゃったのよ。お蔭で共感病患者の数は年々減ってるわ。自然発生は最近見られなくなったからね……もちろん、研究が終わってしまったわけではない。手詰まりなのは確かだけど、灰色化と同じでブラックボックスがあまりにも多すぎるのよ、共感病については。ユリカゴの研究部では今でも必死の筈よ」
ミヤビは顔を上げ、天井を仰いだ。
「ま、あいつらが必死なのは自業自得か……」
ミヤビ、顔をこちらに向け、小さく微笑む。
「ねえ、さっきのあなたに話し掛けていたのよね? あなたって不思議ね。何ていうか、あなたになら何でも話せてしまえる気がするのよ。だからサナも、あなたの前だと素直になれるみたい。だからちょっとビックリしたわ。まさか、あんな風に思われていたなんてね……それに嫉妬もした。あの子をあそこまで無防備にしたの、あなたが初めてよ」
笑みが消え、こちらに向き直る対象ミヤビ。
「ねえ、お願い。出来るだけ、あの子のそばにいてあげて。サナは本当に特別なの。出来れば最後まで、最後の時まで見てあげて。それは私には出来ない……」
ミヤビ、姿勢を正し、まっすぐこちらを見据える。
「あなただから出来る事なのよ」
そう言った後、ミヤビは壁面の映像に目を向けた。
「サナがお風呂から出たみたい。今日は随分早いのね……ほら、行ってあげて。サナからお願いされているんでしょ?」
対象ミヤビ、こちらに笑顔を向けながら沈黙。
対象ミヤビより別対象への同行要請。拒否要素無し。対象サナの生体反応を検索……完了。
——傍観者機構 接続停止
管理番号_20160805 管理者名_若葉代理