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File : Project G.O.D. 04

——傍観者機構 活動開始

——端末への接続……成功



 寝具に座る対象サナを確認。未確認音声、室内音響装置より発生。壁面に映像を確認。

 隔離フロア室内。映像を見つめるサナ。細める目。強く握りしめる手。

『——本日、午後五時二十八分、灰色化はついにオーストラリア大陸の半分を飲み込みました。北半球各国では灰色化難民受け入れ要請が更に加速し、政府はオーストラリアからの移住を大々的に受け入れると本日発表。ユリカゴでは既にオーストラリア人の星間船搭乗希望者を受け付けており、クレイドルオーストラリアからの引き継ぎを含め契約者の数は——』

『星間船エバンシア船団がたった今、最終調整を終え飛び立ちました。最大級の搭乗者数を誇る最新型へ懸念の声もありましたが、今回の運行成功を期に——』

『彼らは何も解っていない! 今世界中で未来を模索しているこの時期に、鎖国を強行などもってのほかだ!』

『しかし、現地での支持率が高いのは事実です。残留支持派から見ればこの問題も——』

『又も悲しい事件が起こりました。本日未明、こちらのマンションで匿われていた共感病患者による大量——』

 映像の消去を確認。対象サナ、俯きながら手首の端末を見る。

 対象サナの視線を感知。こちらに笑顔を見せている。

「おかえりなさい。もう用事はいいのですか?」

 サナ、再び手首の端末へ顔を向ける。

「もう少ししたら今日は終わる……今まで意識してこなかったわけではないですけど、何でかな、不思議と……」

 サナは口を閉ざし、目を細めながら端末を見続ける。

「……あと、百四十八時間」

 扉開閉音。対象サナ、扉に顔を向ける。対象ミヤビを視認。

「あら、早いわね二人とも。ただいま」

「おかえりなさい……先生?」

 サナの隣に座り、足を組む対象ミヤビは不思議そうにサナに顔を向けた。

「ん? 何?」

「いえ、何だか……その」

「まったく、サナには敵わないわね……ナオトさんと、ちょっとね」

「父さん、元気でした?」

「さてねぇ、とりあえず怒鳴りつける位には元気みたいよ」

「もしかして、また喧嘩したんですか?」

「あははは、犬猿の仲ってやつ?」

「……はぁ、前まではあんなに仲良かったのに。私はミヤビ先生が父さん押し倒して、最終的には無理矢理結婚までもっていくだろうときた、いえ、踏んでいたのですが」

「まあ、そのつもりだったけどさ……て、何言わすのよあんたわ」

「だってミヤビ先生、父さんの事好きですよね?」

「……そうよ悪い? 自分でも何であんな無愛想を好きになったんだかね」

「一応娘の前なんですから、少しぐらい媚売ったらどうですか?」

「娘の前だからこそ言ってるに決まってるでしょうが」

「あんなのでも私の大切な父親です」

「あの頑固で、意地っ張りで、無愛想なのが?」

「そうです。だけど、とってもとっても優しいです」

「……嫌になるぐらい知ってる。ナオトさんはさ、優しすぎるのよ。優しいくせに自分にはとことん厳しくて、いつまでも意地張って……で、私はそれを見てるのがもどかしいのかな」

 対象ミヤビ、サナの首に片手を添える。

 対象サナはミヤビの手に片手を添えた。

「父さんはまだ、怖いんだと思います。母さんが死んだ時もそうだったから」

「そう、だったわね……それよりもサナちゃーん」

 ミヤビ、伸ばした手をサナの首から顔に移し、頬を摘まむ。

「何するんですか」

「さっきは何を言いかけてたのかなぁ?」

 サナは頬を摘まれたまま、ミヤビから視線を逸らした。

「私がママになるの期待してた? ねえ期待してた?」

「……だれが期待なんかするもんですか」

「いいじゃない、私ユキナさんに似てるんでしょ? ナオトさんがびっくりするぐらいだし」

「顔だけです。後は全部正反対です。母さんは先生みたいに馬鹿でかくありません」

「よくもまあ、人のコンプレックスをズバッと」

「それにそんながさつじゃありません」

 ミヤビ、サナの顔から手を放す。

「それに関してはサナも良い勝負ね」

「私は色々と諦めてるだけです」

「やだやだ、達観しちゃってるつもり? 小娘のくせに」

 対象ミヤビはそう言いながら寝具に横たわる。

「小娘かどうかは関係ないと思いますけど」

 サナはミヤビと向き合うように寝具に倒れた。

「大ありよ大あり」

「じゃあ、いつからが小娘じゃないんですか」

 ミヤビは倒れたサナの顔にかかる前髪を手でそっとよけ、そのまま頬に手を添えた。

「そうねぇ……いっぱい笑って、いっぱい泣いて、いっぱい恋して。そんでもって子供産んで親になって、子供をちゃんと見守って、そして子供が死ぬ前に死ぬ。それでやっと一人前かな」

「……じゃあ、先生だって小娘じゃないですか」

「残念だけど私はレディなのよ」

「違いがさっぱり解りません」

「現状にあらがおうとして結局何も出来ずにいるから、だからレディ。小娘に戻れるわけでもなく、一人前にもなれない中途半端なやつなのよ、私は」

「……先生?」

「なに?」

「先生は、ミヤビ先生はそんなことないですよ。私なんかとは違って全然……」

「そう、ありがと、サナ」

 ミヤビはサナの頭を撫で、寝具から起きあがった。

「どうしたんです?」

「せっかくだから写真撮っときましょ。サナの晴れ姿なんだし」

「嫌ですよ、恥かしい」

「だーめ、三脚とか取って来るから待っててね」

 ミヤビ、出入口扉へ。扉開閉音。ミヤビを視界から消失。

「はぁ、今のうちに着替えとこうかな。でもそんなことしたら後が怖いか」

 サナは体を起こして、出入口の方向へ顔を向けた。

「ミヤビ先生、父さんの事優しすぎるって言ましたけど、ミヤビ先生だってそうですよね。私だって先生の優しさが解らない程、馬鹿ではないつもりです。昔から私や父さんの事気遣ってくれますし、それに解ってるんです。私の為に、無理してああいう風に接してくれてる事」

 サナは両手を寝具に添え、俯いた。

「いつだったか忘れましたけど、私がまだ自由に施設内を出入り出来てた時に見たんです。何というか、空っぽというか、感情も何も無いような、そんな顔して煙草を吸ってました」

 サナはシーツを握りしめ、さらに顔を俯かせる。

「私が言うのもあれですけど、なんか今にも死んじゃいそうなくらい凄く危うい感じで。私、正直その時のミヤビ先生が怖かった……あれがたぶん、ミヤビ先生の本当の顔なんでしょうね。研究員のワカバさんから無理言って教えてもらいました。私の前以外ではいつもそうだって」

 対象サナは顔を上げ、少しだけ微笑んだ。

「勿論、だからといって先生の事が嫌いになったわけではありませんよ? 何ていうのか、こんな私でも凄く感謝しているんです」

 対象、再び顔を落とし、灰色になった手を見つめる。

「ただ、私が死んだ後はどうなってしまうのか考えると、怖いんです……私生きたい。あの人の支えになれているのなら、もっともっと生きていたい。ミヤビ先生から、たとえ作りものでも笑顔を奪いたくない。おかしいですよね、こんな風に考えるのって……解っています、自惚れている事ぐらい。でも、そうでも思わないと……私」

 サナはそう言って両手で自身の体を抱きしめた。

 扉開閉音。対象サナ、素早く両手を下ろす。

「ただいまっ……あれ、どしたん?」

 対象ミヤビを視認。ミヤビ、両手に荷物を抱え立ち尽くしている。

 サナはミヤビに顔を向け、笑顔を見せる。

「いえ、なんでもありません」

「そう? じゃあ、さっさと撮っちゃいましょ」

 荷物を寝具横に下ろし、機材を組み立て始めるミヤビ。

 サナはこちらに顔を向け人差し指を口に付けた。

「さっきのは秘密ですよ」

「んん? なになに? 二人でコソコソと」

「先生には内緒です」 

 サナをじっと見つめながら三脚を組み立てるミヤビ。

「は、早く撮りましょうよ、ミヤビ先生」

「まあ良いけどねぇ、サナには後でじっっっくりと体に聞いてあげるから」

「なっ、なにを——」

「純なサナちゃんには解らないだろうけど、世の中には自白剤ってのがあってね。最近のは凄いわよー、ちょっと誘導するだけで簡単に吐くから」

 ミヤビ、三脚とカメラを固定しサナに近づく。

「あっ、あのっ、それはそれでとても駄目な気がします。ていうか駄目です!」

 腰に両手を当て、サナに顔を近づけるミヤビ。

「ふふふ、共感病専門医ってのは結構色んな機関に融通が利くのよ? だから自白剤くらい研究目的で取り寄せれば簡単簡単」

「あ、あの……ミヤビ先生ぇ? 目がヤバイです目が——」

 ミヤビ、サナが話し終える前にサナに飛びつく。

「きゃあああああっ!!」

 カメラの撮影音発生。

「へ?」

「あっははははっ! 今のサナの顔最高よっ!」

 サナから離れ、サナの横で笑いこけるミヤビ。

「……また、やられた」

「くっふっふっふっ、ごめんごめんっ。普通に撮ったって面白くないでしょ?」

「こういうのは普通に撮るべきです!」

「いいじゃんいいじゃん……解った、次はちゃんと撮るからさ」

 ミヤビ、サナの隣に腰かける。

「いいです、もう好きなだけ玩具にしてください」

 ミヤビから顔を逸らすサナ。

「ごめんってばサナ。ほら、怒ったら綺麗な顔が台無しよ?」

 無言のまま俯くサナ。

「サナ? ホントにごめん……もうしないからさ」

 対象サナ、ミヤビの呼びかけに答えず沈黙。

「ねえ、サナ? 怒ってるの?」

 顔を覗こうとするミヤビ。さらに顔を逸らすサナ。

「あ、あのね、サナ……これは、そのね」

「ぷっ……」

「え?」

 サナは体を震わせながら笑いだした。

「あははっ、やっぱり駄目ですっ。私には出来ませんっ」

「……さーなー!」

 サナを引き寄せて抱きしめるミヤビ。

「やっ! 先生くすぐったいですっ!」

「大人をからかうんじゃなーい!」

「子供だからってからかわれて良い訳ないでーす」

「いーのっ、子供をからかうのは大人の嗜みよ!」

「それはミヤビ先生だけです!」

「じゃあ、サナをからかうのは私の嗜みって事で」

「嫌な趣味ー」

「人の趣味をどうこう言われる筋合いは無いわね」

「その趣味の対象の意見ぐらいは聞いてください」

「却下よ」

「ええー」

「そんな事より……ここらへんかな、ほら笑って、いくよー」

 カメラ撮影音を数回確認。

「よしよし、綺麗に撮れてると良いわね」

 ミヤビ、サナから離れて機材を片付ける。

「よしと……私は一旦研究室に寄ってそのまま部屋に戻るけど、何かあった時はいつでも遠慮せずに呼ぶのよ」

「わかりました。先生が寝ている時間を見計らって呼ぶことにします」

 ミヤビ、目を細めサナを見つめる。

「今、無償にサナをエロく撮りたくなった、動画で」

「冗談です、やめてください」

「そりゃ残念。ナオトさんにあげれば喜びそうなのに」

「喜びませんよ。それにそんな事したら、また怒られますよ?」

「でしょうね、目に浮かぶわ」

「あ、あの、今日撮ったのもあげないでくださいね?」

 サナは顔を赤らめながら、膝の上で手を合わせ、指を小さく動かしている。

「何でよ」

「だってだって、恥ずかしいじゃないですか」

「うーんそうねぇ……私の気分しだいってことで」

「え、ちょっと! ミヤビ先生!?」

「じゃあ二人ともまたね」

 手を振り、足早に出入口扉に向かうミヤビ。視界から対象ミヤビを消失。

 うなだれながら、ため息をつく対象サナ。

「はぁ、何でいつもこうなるのかな。ミヤビ先生と居ると何だか調子が狂ってしまって……でもいいか、嫌な事も何もかも、先生といると忘れられるから……でも、忘れてしまうのは怖いですよね、やっぱり」

 サナは手首の端末を見てこちらに顔を向けた。

「そろそろお風呂入ってきますね。もう少ししたら消灯時間ですし。私、お風呂長いんで、少し時間かかると思いますけど、もしよければ待っていてください」

 サナ、室内扉に向い歩いていく。扉開閉音。対象サナを視界から消失。

 周囲に生体反応及び動作反応無し。



——傍観者機構 接続停止





管理番号_20160805 管理者名_若葉代理

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