9人目
ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。
「お帰りになられたのですか? 」
ああ、いましがたね。隆元、お前から話しかけてくるとは珍しいじゃないか。何か気にくわないところでもあるのかい?
「いえ。ただ、珍しい物をお引き取りになられたようで気になりまして」
目ざといね、隆元は。隠し事が出来そうにない。
「褒め言葉として受け取っておきます」
私もそのつもりで言ったのだよ。気を悪くしたのならすまない。
さて、隆元。お前の言う珍しい物とはきっとこのことだろう? 何だと思う?
「刀、でございますな」
その通りだよ。
ただ、本当に珍しい刀なんだ。
柄のところを見てごらん。龍が掘られているだろう? しかも、右手に赤い玉を持っている。これは意志の象徴。強い想いの表れとも解釈出来る。
「成る程。でも、私が珍しいと言ったのはそのことじゃありません」
ああ、知っているよ。この刀が欠けていて切れないことだろう? これでは商品にならないと言いたいのだろう。
「左様にございます」
確かにその通り。このままの状態では商品にもならないし、ましてや道具にもならない。
でもね、この刀はとても美しいんだよ。
「美しい? 」
そうだよ、隆元。
形在る物は美しい。まして、形のない神や妖精を美しいというのだから目に見えるこれらは尚更美しい。
物に込められた目的や想いによってそれらはさらに輝きを増す。
龍の柄は強い国を、右手に握りしめられた赤い玉は国民の命と幸せを示す。
この刀はただの人斬り包丁じゃない。“護るため”に作られた刀だ。
国、家族、友、そして何より戦場に出て戦う者の命を護る。長い年月その為だけに戦い続けてきた。
でも長い間の戦いですっかり疲れてしまったのさ。どんな人が打ち直そうとしても直らない。
戦いも一段落付いた今、この子は眠ることを選んだ。
いつか必要とされるようになるまで、ゆっくりとこのままの姿で時を超えようとしている。
「では、この刀は如何なさるのです? 」
納屋で休ませておこう。
いつか腕の良い職人がこの子の元に訪れるまでは。
もしかしたらこの子に導かれるのは私達の方かもしれないよ、隆元。
今回は店主と隆元の会話です。
次回で最終回の予定です。
最後まで楽しんで行っていただけば、と思っています。