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夢話堂  作者: 若葉 美咲
7/10

六人目


 いらっしゃいませ。ようこそ、夢話堂ゆめわどうへ。

 こちらに来られるのは初めてですよね。今日はどのような物をお求めになっていらしたのですか?

 おや、たまたまこの店が目に留まったから見に来て下さったのですか。ありがとうございます。

 どうぞ、ゆっくり眺めて行ってください。この店にある物は皆、素晴らしい物ばかりです。何か質問がありましたらどうぞお気軽にお声をかけてください。


 はい、何でしょう?

 そちらの作品でございますか?

 深い訳があってこちらの店に置いてあるものでございます。約束の方が取りに来るまでですが。

 ええ、それは貴方のおっしゃる通り贋作です。目利きなのですね。

 すり替えている訳でも、代わりの物を置いている訳でもございません。それを持っておいてくれ、と頼まれたのですよ。道具がひとを呼ぶこの店ならもしかしたら出会えるかもしれないと言い残して。

 この作品の本物をお探しになっているのですか。それは、がっかりさせてしまって申し訳ありません。


 何の力になれなかった変わり、と言っては何ですが、一つ、話をしてもよろしいでしょうか?

 ありがとうございます。では。

 この作品を家を飛び出して行った孫に届けて欲しいとお願いされたのです。お孫様はこの作品の下で産まれ、この作品がに見守られ育ったそうです。

 お孫様もまた、この作品が大好きで、大きくなったらこの作品を頂戴ね、約束だよ、とよく言ったそうです。ここにこの作品を届けてきた方もかわいい孫の頼み。二つ返事で了承したそうです。

 ところが、些細な親子喧嘩で孫はおじい様が止める言葉も聞かずに飛び出して行ってしまったそうです。

 何年も連絡が取れないままでしたが、おじい様はお孫様を探し回ったそうです。そして、そのお孫様をついに見つけたそうです。

 何故、直接手渡さなかったか———。ええ。私も疑問に思って尋ねましたよ。

 それは、あまりにお孫様が立派になってしまっていたからです。おじい様が声をかけていいような存在ではないと直感的に分かってしまったと言っておられました。

 それでも偽名を使い接触したそうです。それとなく、この作品の話を持ち出した時、少しも反応なさらなかったらしいです。約束は忘れ去られてしまったと考えた訳です。

 それでも、作品を捨てるのはあまりに忍びない。

 もし、この子に魂が宿っているのなら、きっと孫を自ら呼び出すはずだと、そう、願いをかけてここに置いて行かれたのです。

 確かにこれは贋作でございます。誰かの素晴らしい作品を誰かがそっくりになるように真似た物です。ええ、いけないことですよ。

 でも、この贋作を作った人の時間もそれを素晴らしいと思い飾っていた人の時間も何にも代えがたい大切な時間。その時間を生きてきたこの作品は最早、贋作ではありません。この作品しか見てきていないかけがえのない時間が本物にしたんです。もっと言うのなら、この世界に一つしかないものとなったのです。

 屁理屈かもしれません。しかし、道具とはそういう物ではありませんか? 使い込まれた道具達に同じものなど二つとしてあり得ないんですよ。

 時と想いを重ねれば人もものも変わるということですよ。


 私はその時間や想いに触れるのが好きなんですよ。

 話すことも好きですがね。

 おや、もう行かれるのですか。ええ。この話を聞いた時、私も久しぶりに実家に帰りたくなりました。はい、お気をつけて。

 探している、この作品。貴方にとっての本物が見つかるように心から祈っております。


 ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。


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