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夢話堂  作者: 若葉 美咲
6/10

五人目


 寒い冬ももう終わりを告げますね。一年と言うものは本当に短いものです。道具が生きて行く寿命と比べれば人生はあまりに短すぎる。それ故に美しい、とも言えますがね。

 もうすぐ春でございますから、色々物も必要になりますね。この店も忙しくなってくるのでしょうね。古きものがここに流れ着き、新しいものは旅立ちに心を躍らす。

 春は切なく、優しい。

 そういう季節ですからね。

 私も少しワクワクします。


 おや、お客様。

 気が付かずに申し訳ありません。

 いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件で?

 翼、でございますか?

 ……、探してみましょう。ここでは何ですから、どうぞ中へお入りください。外はまだ冷えますから。


 隆元。お客様だよ。お茶を。

「かしこまりました」


 さあ、お話を聞かせてください。

 貴方が何故、翼を望むのかを。何を恐れているかと言うことを含めて。

 ええ。私には貴方が怖がっているように思えます。いえ、もしかしたら怯えているのかもしれませんね。ずっと鞄を握り占め、下ばかり向いていますから。

 ああ、責めている訳ではありませんよ。ただ、その暗いものがどうもあなたを邪魔しているように見えましたので。

 感情は時に大事なもの、大切なことを隠してしまうことがあるのですよ。本当はそこにあるはずのものを見えなくしてしまうこともあるのです。喜びや、好奇心、悲しみや不安。皆、無ければ困る感情ですが、一つの感情に飲まれ過ぎると周りが見えなくなるのです。

 意識的に見ないようにしていると言った方が正しいのかもしれません。

 だから、私はお話を聞きたいのです。あなたの話を。そしたら世界の見方が変わるかもしれませんよ。



 成程。

 通っている高校の卒業ですか。おめでとうございます。そんな時期ですからね。

 そして、貴方は卒業を怖く感じている。

 確かに見ず知らずの世界へ足を踏み込むことになりますからね。何より、大人扱いされることに戸惑いが隠せていない。それで、勇気が欲しくて翼を欲しいと願うのですね。

 でも、残念ながら翼を貴方には売ることは出来ません。

 ああ、そんなに落ち込まないでください。代わりにこの白い紙を。

 確かに翼の代わりにすらならないものです。これを付けたとしても、空を自由に飛びまわることは出来ないし巨大な勇気を手に入れることも出来ないでしょう。

 しかし、その真っ白な紙をよく見てください。色もついていなければ、汚れもついておりません。これは、あなたの好きに塗っていいのです。これから、世界にたった一つしかない貴方だけの紙に自分の手で作り上げていくのです。

 貴方の未来と同じです。貴方が自分で作ってくのです。

 貴方の代わりは他の誰にもできませんし、誰かが貴方の未来を決定することは出来ません。

 でも、代わりに貴方には自分で道を歩いて行く足が、道を切り開いて行く手があります。


 翼の代わりにはならない?

 ええ。そうでしょう。

 もう一つ、私から貴方助言をしましょう。

 目を閉じて、大切な人々を思い浮かべてください。その人たちは貴方を応援してくれている人でしょう。そして、彼らもまた、自分で道を切り開いてきた者、切り開いていく者です。そして、貴方もこの試練を乗り越え、誰かを応援する立場になってゆく。

 貴方と何にも変わらない者です。そのことをどうか忘れないでください。

 貴方には沢山の人が付いているのですから。



 ご来店ありがとうございました。



 おや。

 この話は嘘か本当か、と言われましても。

 その判断は貴方様にお任せいたします。

 もし、興味が湧いたのならまたお越しください。


 この夢話堂。いつでも、開店しております。

 道具の想いに呼ばれたら、のお話ですが。

 どうぞ、道具は大事にして下さい。

 あなたが使っている道具にも魂が宿るかもしれませんよ?

 それでは、これにて。 


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