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夢話堂  作者: 若葉 美咲
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一人目 雨宿り

 お久しぶりです。今日からまた少しずつ投稿を再開しようと思っています。

 改めてよろしくお願いします。


 いらっしゃいませ。


 お客様。おや? お客様ではないのですか。

 ああ。雨が降っていますね。すいません。気づけず。どうぞ、ゆっくりと雨宿りでもして下さい。

 そこに立っているのもなんですし、こちらにお座りになって下さい。少し古く見えるかもしれませんがいい椅子ですよ。いきなり壊れたりしません。あなたさんが椅子に優しくさえすれば。その椅子は人を見るんです。そんなに怯えなくても平気ですよ。いたずらが過ぎました。さあ、お座りください。

 今、お茶を出させますから。いいえ。気を使っているわけではないので、くつろいで下さい。おもてなしをするのが趣味なんですよ、私は。

 隆元りゅうげん。お客様にお茶を。

「かしこまりました」

 おや。驚かれました?

 彼は人間ですよ。ええ。私の大切な友人です。世界のいろんなことを知っている人で私もよく彼と話すんです。少しばかり影はうすいですが。でも、心の優しい人なんですよ?

「お客様、お茶を。コートをお預かりいたします」

 彼に任せておけば大丈夫。売ったりしませんよ。お客様からの大切なお預かりもの、大切に取り扱うに決まっています。

 ご心配にはおよびません。ただ、この雨の中いらっしゃったのですからところどころ濡れていらっしゃいますから、干しておきましょう。

 隆元。

「はい。分かっております」


 店内もご自由にご覧ください。今日みたいな日は買い物をするためにここを尋ねる人はほとんどいません。

 退屈でしょう。少しだけ、お話をしてもよろしいですか? ありがとうございます。話をすることが好きなものでして。


 それでは。

 まず、ここにあるもの達は自分の意志があります。信じられませんか? そうですね、信じにくいお話ですね。でも、あるんですよ、確かに。別に怖がらせている訳じゃありません。霊がついてるとかそういう訳じゃないのです。

 大切に使われた品や、職人が気持ちを込めて作った品には魂が宿るのです。

 一瞬、品を見たとき欲しいと思う時や、忘れられない品がありませんか? 【もの】だって同じなんです。一度見て忘れられない人がいるんです。そういう類の【もの】達が不思議とこの店に集まって来るんですよ。


 そうですね、例えばあなたの目の前にある羊の人形。パステル色の手の平サイズの羊。その人形は少し前呪いがかかっていると言われていたんです。その人形を持った人は度々悪いことに襲われたからです。でも、今は主の帰りをここで待っているんです。大人しく、静かにね。

 この人形は呪われていたわけではありません。ただ、魂が宿ったんですよ。自分を大事にしてくれた主の元へ帰ろうとしただけ。


 羊の一番最初の持ち主は女の子でした。

 まだ幼い女の子です。しかし、両親は多忙な方であったようで一人で居ることが多かったようです。

 ですから、女の子は両親が誕生日に贈ってくれた、その羊の人形を大層可愛がったと聞いています。

 でも、事故に巻き込まれた時に離れ離れになってしまった。二人とも生きているのに。女の子は今だ病院のベットの上でリハビリ中らしいです。

 ただ、女の子も羊も寂しかったのです。

 羊と女の子の気持ちは互いに共鳴した。だから、羊の持ち主になった人は羊に嫌われてしまった。

 でも、二人共に約束しました。この羊は女の子が取りに来るまで誰にも売らない、と。私は約束は守る証を置いてきました。

 そういう訳で今はこの羊は大人しく自分の主である女の子を待っているのです。


 おや、信じられないという顔をしていますよ?

 不思議だから、信じられないと?

 そうですね。無理に信じろとは言いません。信じるか、信じないかはあなた次第。どうぞ、ご自由にお捕えになって下さいませ。


 おや? またお客様のようですね。隆元。

「はい。ただいま」

 いらっしゃいませ。

 お嬢さん、お久しぶりです。退院おめでとうございます。

「羊…」

 はい。お持ちしていましたよ、お嬢さん。羊は約束通りにしてあります。こちらですよ。歩けますか。

 こちらで、間違いありませんね?

「わぁ、羊さん!! ありがとう! 」

 いえいえ。大丈夫ですよ。

 お代は結構です。私はただ、あるべきものをあるべきところへと返しただけですから。それはお嬢さんの物です。

 さあ、帰りは気を付けて帰るのですよ。


 そのように驚かないでください。これは単なる偶然ですよ。狙った訳ではありません。ただ、何となく話しておきたかったのです。

 ああ。雨も止んだみたいですね。


 何度も言うようですが信じるも信じないもあなた次第。

 雨が見せた夢かもしれませんよ?

 それにしても偶然とはいえ、あなたもここに引き寄せられたのですから、もしかしたらあなたを待っている想いのある道具が居るのかもしれませんよ。

 おや、もうお帰りになるのですか?

 少し残念ですが。隆元。お客様のコートを。

「はい、こちらに」


 お気をつけて。またのご来店をお持ちしております。


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