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冒険者とは

ハフリールの迷宮第三層


放棄されて幾百年は経っていると思われる神殿、いや既に廃墟と称したほうが正しいと思えるほどに風化した物が都の街並みを彷彿とさせるほど所狭しに存在し、まるで迷宮のような造りとなっている。通称迷いの聖殿。


付けられた名前にそぐわず、そこには肉が腐り剥がれ落ちたゾンビや骨だけになっても動きまわるスケルトンなどの魔物が徘徊し、そこへ行く冒険者に襲い掛かる。


これらのアンデッドには急所は存在しない。


頭を落としても動き回り、四肢を切り裂いても這いずり動くことをやめようとしない。


奴らの動きを止めるには、魔法で全てを無に還すか、鈍器などで殴り続けてアンデッドを動かしている魔力を拡散させるしか対策はない。


アンデッドの動きは非常に緩慢であり、討伐の難易度的には低く設定されている。だが倒したとしても剥ぎ取れる素材で価値のある物は魔石以外になく、鼻を突く異臭に耐えてまでこの階層で狩りをする物好きな冒険者は少なかった。


大抵は四層のハフリール湿地か、五層の《死を招く紅い城》までの通り道としてしか用いられていない。


しかし、現在の迷いの聖殿には十名を越える冒険者が次の階層へと伸びる道から外れて列を成して歩いていた。


種族も歳も異なる異様な雰囲気を醸しだす彼らは冒険者ギルドから派遣された討伐隊だ。


彼らの首元に網目の小さな鎖で下げられたカードは鉄か銀の二色で統一されていた。その色は冒険者としての格を表し、下から錆、銅、鉄、銀、ミスリル、金に分けられ、一般的に鉄色からはギルドの保護から自立できる実力を持つとされる冒険者と認定されている。


それらから討伐隊の実力としては、中堅クラスの者たちを集めたのだと判明する。相応の実力を持つ集団ということもあり、建物の影から突然アンデッドが現れてもうろたえることなく各々の手によって処理されていた。


「よーし。もうすぐ目的地だ。お前ら覚悟は良いな?」


朽ちた神殿を抜け、先に新たな廃墟を視界に捉えると、集団の中程にいた厳つい男が声を上げる。


「覚悟など迷宮に入る前に皆が決めてきているさ、ガナウス。君の号令一つで動く準備は出来ている」


ガナウスと呼ばれた男に応えたのは、彼の半歩ほど後ろを歩く、ケープを羽織った線の細い金髪の男。


長く整えられた金髪の神を後頭部でまとめ、獣の尻尾のように下げる彼は振り向いたガナウスに不満げな顔を見せていた。


「まあ普通はそうなんだがなスヒール。今回はギルドから派遣された鉄の奴らも連れての討伐だ。身内だけでも大丈夫といってもこいつらを護るほどの余裕はないかもしれん。事前に覚悟が出来ているか確かめておいても無駄ではあるまい」


「ギルドから直接レイスの討伐を依頼されるのはこれで何度目でしょうね。ギルドの奴らは私たちを専属の討伐隊とでも思っているのでしょうか」


「そういうな。それだけレイスの討伐に対しては期待されていると言い換えることはできるだろ。それに狩れば落とす魔石だけでもこの人数で等分しても三日は飲み代に困らなねえくらいの相手なんだ。それに足してギルドからの依頼とくれば報奨金も出る。不味い話じゃねえだろ」


「そうやって貴方は何時も酒を基準にして物を考える。欲がもう少しあればミスリルランクにもなれるかもしれない腕は持っているのに」


「俺はギルドの管理化にある犬にはなりたくないもんでな。こうやって自由に冒険ができる銀ランクが一番性にあってんだよ」


がははっと豪快に笑い散らすガナウスにスヒールはわざと聞こえるように大きな溜息を吐いた。


そう返事をされるのは分かっていた。伊達に十年はパーティーに同行してはいない。彼の事は自分が一番良く理解しているという自負もある。だが、多少の不快を買いつつもついつい口に出してしまうのだ。


自分の口から話す言葉が本心でないはずがないが、嫌味の様な口調になってしまうのは彼が自分には持ち得ない才能を所持していることに対して密かに嫉妬しているからだろう。


「本当に、貴方って人は・・・・・・」


「ごちゃごちゃと気を楽にして話すのも終わりだスヒール。目的の場所はすぐ近くだ。フレイルはサベクと二人で裏へと回れ。お前は鉄の奴らを率いてサイドから指揮を執れ」


「私のサポート無しで大丈夫ですか?」


「オレの腕はミスリルランクでも通用するって言ってた奴の口から出る台詞じゃねえな」


不適な笑みを返すガナウスだが、急に目を見開き、レイスの存在が確認されている廃墟の方へと向き直る。


「ちっ。今日はナタリーの奴はいなかったんだったな」


「・・・・・・嫌な報告なら聞きたくはないですが」


「微かだが斬撃の音を拾った。俺たちが目指している場所からだ。てめえら走れ!誰かが既に戦ってやがる」


自ら大声を上げて命令を下すと、身の丈190セントルを超える大男はその場にいた誰よりも早く駆け出した。


スヒールがそれに反応して無意識のうちに魔力を展開しながら身体に風を纏った時には既にガナウスの姿は目的の廃墟を目前とした場所まで遠ざかっている。


レイスは討伐隊が結成されるほどに強力な存在とされる魔物である。魔力によって動く不死という点では他のアンデッドと変わらないが、得物とする大鎌を木の棒のように軽々と振り回し、魔法をも行使する奴を倒すのであれば、それなりの徒党を組まなければ相応の危険が付き纏う。


それに足して、レイスのような一定の条件化で発生する特異種と俗に呼ばれる魔物は、自身より下級の魔物を取り巻きにしていたり、召還して戦わせる特性を持ち、なおかつ特異種には相対する相手に状態異常を引き起こす能力を持っている者も多い。


だからこそ、レイスを含めた特異種の討伐には対策を講じた上で万全を期した状態で挑むのが定石である。


もし今レイスと戦っている相手がパーティならば、もう少し辺りがざわめいていたり、相応の戦闘音という物がなるはずである。また迷宮の二層から一直線にこの場所へと進んできたが、他のパーティの足跡や痕跡は残されてはいなかった。


これらの要素から考えられるのは、何かしらの理由で三層を彷徨っていた、あるいは迷い込んだ冒険者が運悪くレイスのいる廃墟へと近づいてしまい、自らの意思に反して戦闘が起こってしまったケース。


そして、このようなミスをやらかすのは実力と経験を持たない低ランクの冒険者。


スヒールは奥歯を強く噛締め、魔法を行使する。


全ての詠唱を破棄。代償に魔力は多く吸い取られ、多少の眩暈が生じたが、気にしてはいられない。


《ウィンドマント》


魔力で生み出したかぜを纏い、通常では考えられない速度で動くことが出来る魔法。


スヒールは一足のうちに連れていた全ての冒険者を追い越し、廃墟の奥へと姿を消したガナウスを追う。


一度の跳躍で数十メルトル。細かな距離の調整は行えない分、速度を求めた。


三足目で廃墟の目前にまで迫り、ウィンドマントへと流す魔力を調整して速度を落とすと中への進入を試みる。


ひび割れた石畳に彼の靴底が踏み入れると、内部に亀裂が走る感触が足の裏へと伝わる。今にも崩れそうな廃墟だ。入り口に扉こそなかったが、真正面には今では無意味の長物となった神を描く描画が飾られた額縁が掛かる壁に遮られ、やむなくスヒールはウィンドマントの効力を消して速度を落とす。


左右に抜けられる通路がある。どちらも到着点は同じだろう。自分の利き足である右足に力を込めて勢いをつけるために左の通路を選択すると、地を揺るがすほどの方向と同時に建物の一部が崩れた破砕音が響いた。



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