fire flower
僕が静かに見上げる大きな黒い画用紙に、綺麗で、切ない花が咲いては散るを繰り返している。
なぁ、華陽。どこかでお前も同じものを見ているのかな。近くで…遠くで…。
八月の第二週の土曜日。
毎年、花火大会が開かれる日。ひぐらしが声を枯らしてないてる中、辛くなることは分かり切ってるのに開く一冊のアルバム。僕も声を枯らして素直になけたらいいのに。
アルバムを開けば、真っ先に目を奪われるのは、浴衣を着て照れ臭そうに微笑む彼女の一枚の写真。この他にも、写真の中の彼女はずっと笑っている。この裏には、泣いてる顔、怒っている顔、時々見せた何処かを見つめて寂しそうは顔、たくさんの表情があった。どの彼女も好きだった。
「ねぇ、夏樹?華陽の名前の由来知ってる?花火みたいに輝ける一瞬を精一杯輝けってことだったんだって。パパとママはずっと華陽の病気のこと分かってたんだよね。」
いつか僕に話してくれたこの話。僕は、はなびが消えてしまうことはわかっていた。
二年前の八月の第二週の土曜日。
「夏樹!…どうかな?」
淡い桃色に白い桜が舞っている浴衣を着た彼女に見とれて僕は言葉が出なかった。
「似合ってる。可愛いよ。」と言ってあげたかった。彼女に伝わるうちに。
大輪の花が夜空に咲く。どこか寂しげな顔で見上げる彼女の右手は、ぎゅっと強く、僕の左手を握っていた。
「綺麗だったね。またいつか夏樹と来れますように。」
くしゃっとした笑顔ぇ言う彼女の可愛さに気を取られ、「またいつか」という言葉は、僕の頭を通り越していた。
「また来年」ではなかった。
八月の第二週の日曜日。陽炎が嘲笑う真夏日。陽炎を踏みつけて僕は走る。
ーずっと、ずっと大切にしていた花火玉に、火がつけられてしまった。
「…っ華陽!」
早い鼓動、苦しい呼吸、流れ落ちる汗。そんなことはどうだっていい。
「な…つき…」
くしゃっと笑った彼女。
静かに一瞬の輝きを手に…瞼を閉じた。
黒い夜空に消えて行った。