人でなし(竹取物語)
彼女らの言う通り、それが罪だというのならば……あぁ、確かに私は罪を犯したのだ。
私たちは死を知らない。
それは即ち生を知らないということではないのか。
死んだような目をして、ただただ生かされ続けることは、果たして本当に幸せなことなのか。
そもそも永遠に生き続けられる享楽を手にしておきながら、こんなことを疑問に思ってしまったことが罪なのか。
わからない……何もわからない。
目の前には漠然とした疑問に対する答え<虚無>が鎮座している。
恐ろしくなった私は不死の薬を飲むことを辞めた。
忘却の羽衣を纏うことを辞めた。
けれどそれは許されない。この月面空間においてその叛逆だけは赦されてはいけなかった。
誰かが生に疑問を持ってしまえば、その楽園はやがて地獄へと変容してしまうことは想像に難くない。
「そんなに死がお望みならば、有限を知り恐怖なさい。
地上は命に限りあるものどもが、ひしめく地獄のような場所だと聞いてる。
その地獄でしばらく頭を冷やして来なさい」
故に見せしめとして、私は地に落とされた。
おぎゃあおぎゃあ、と私は声を上げる。
地上に落とされる前に不死の薬をたらふく飲まされた私は、副作用として赤子の年齢まで戻ってしまったようだ。
真っ暗で狭く息苦しい……ここは一体どこなのだろう。
これが地上……これが私を幽閉する監獄、そして地獄なのだろうか。
おぎゃあおぎゃあ……生命の限り私は産声を上げる。
――産声。
あぁ私は今、初めて生を感じている。この地に生まれ落ちた喜びで胸が満たされている。
生への衝動のままに泣き叫んでいるとやがて何者かの気配が近づいてきた。
小さからぬ衝撃が走ったかと思うと、暗闇の中に目を焼きつくすような光が溢れる。
痛い、痛い……光が痛い。ああ、日の光とはこんなにも痛いものであったのか。
覆いかぶさるように視界を埋める何者かの影と、目の覚めるような青い空、そして生まれて初めて目にする太陽。
燦燦と照り輝くそれは、目を突き刺すような痛みをもたらして、産声を上げながらも私はより激しく涙を流した。
世界に目が慣れてくると、私を見つけてくれた老人の様子を伺うことができた。
古びた色の服、背中に負った籠には小さく切られた竹が多数入っている。
さては竹取りだな、と私は思う。
歯すらない口では言葉を発することができず、私は呻き声を上げながら手を伸ばした。
そんな私の姿を見ても、彼は口を茫と開いたまま微動だにしない。
……竹の中から赤子が出てきたのだ。それもそうか。
私はことの成り行きをただ見守ることにした。
それからしばらく、彼は逃げ出すことも近づくこともせずに私を眺めていたかと思うと、やがてゆっくりと近づいてきた。
「よく見れば随分と綺麗な衣に包まれておる……お前さんは高貴な生まれの方なのか?」
老人の指先が私の頬に触れる。
……無感情な月の住人とは違い、心を溶かされるような暖かな感覚だ。
小さな手を精一杯伸ばして私は彼の指を捕まえた。
皺っぽくガサガサしているけれども暖かなその手の感触が私の胸を満たす。
「どうした? ……かわいそうに、ひとりなのか。俺のところに来るか?
俺のところには妻もいる。きっと寂しくはないだろさ」
語りかけてくる彼に、私は精一杯の笑顔で応えた。
それからの日々は慌ただしく、そして幸せに流れていった。
「輝夜姫」
育ての父、竹取りを生業とする讃岐造は私に新しい名前を付けてくれた。
夜闇の中でさえ輝きを失わない願いを込めたのだという。
彼とその妻が一生懸命考えてくれたその名前に、私の胸には嬉しさが溢れ、名前に負けないよう生きることを心に決めた。
私を拾ってから、造の人生は大きく変わったようだ。
竹を取りに行くと上質の織物や、見事な金細工が竹林に落ちているのだという。
その日暮らしの竹細工屋はやがて様々な珍しいものを扱う商館となり、徐々に暮らしは豪華なものとなっていった。
そしてもう一つ珍妙なできごとが彼ら夫妻を驚かせた。
……私の成長速度はどうやら普通の人間とは違ったものらしい。
本来十数年に渡って育っていくものが、ほんの数ヶ月で私は成人することとなってしまった。
驚きながらも夫婦は私の成長を喜び、そして心の底から祝ってくれた。
その頃には住居も都へと移り、何人も使用人のいるような立派な暮らしとなっていた。
「輝夜……お前もそろそろ結婚をしなければなるまい」
造の心配そうな声が御簾の外から聞こえてきた。
「私には恋や愛だのといった感情がわからないのです」
確かに私は造たちに恩義も感じているし愛してもいる。けれどそれは親から貰った愛への返しにすぎない。
そこにはどのような邪な感情も挟まってはいない。
「それに殿方は……『私』のことを理解して下さるのでしょうか」
数ヶ月で成人まで成長した私を、どれほど大切にしてくれるのだろう。
かつて生活していた村から逃げるように都会に出てきた造から、私がどう噂されていたか想像に易い。
もちろん金銭的に余裕が出てきたのももちろん理由の一つであろうが、先祖代々生きてきた土地を離れる理由とするにはつっかかりが残る。
……怖い。人でない私を、誰か愛してくれるのだろうか。
私は正しく愛することができるのだろうか。
……怖い。誰かに心と体を許してしまうことが罪に思えるほどに。
「そうは言っても、俺らの先は長くない。やがてお前一人を置いて死んでしまうことだろう」
心配そうにつぶやく造の顔には、最近ではより深く皺が刻まれるようになっていた。
死……そう、死だ。
私が憧れ、彼らが拒絶した「生」と「死」だ。
翁と呼ばれるほどの年齢になった彼にとっては、死は身近なものなのだろうか。
「そんなことを言わないで下さい。私はまだ生まれたての赤子なのですよ?
親の庇護がなければすぐに息絶えてしまいます」
造の吐く息が蓄積していくかのように私の肩にのしかかる。
「結婚すれば、それがよいものだとわかるだろうに……」
子を送り出すことは親の義務であるし、それも至極当然の営みなのだろう。
……そう、人にとっては。
「口先だけの愛など、信用に足りるものなのでしょうか」
「そうは言っても、人は一人では生きていけないのだよ……特にお前のように不自由なく生きてきた人間はな」
造の言葉が一際大きく私の心に影を与える。
そうだ、私は苦労をしていない。月においても、この地上においての生活でさえも。
私は地上に『囚われて』いるのだから。
「どうだ……お前の愛を求める者に逢うだけでも逢ってみないか?」
「父上がそう仰るのであれば……しかし、私にも条件がございます」
まさか私が首を縦に振るとは思っていなかったのであろう。御簾の外側で造が身を乗りだす音が響いた。
「なんだ、言ってみろ」
「私の結婚する殿方には、愛の証を持ってきていただきます」
「おう、いいぞ。それでお前が納得するのであれば、その条件を必ず相手に飲ませよう」
足取り軽く造が部屋を出ていく。
御簾の隙間から私を監視するかのように、ぎらぎら輝く月が陰を落としている。
(愛なんて不確かなものを試すために、私はさらに不確かなもので応えよう)
小さく、私の唇の端に笑みが浮かぶ。
それはどこか黒い、けれども悪戯を思いついたかのような無邪気さでもって私の心を独占した。
『仏の御石の鉢』
『蓬莱の玉の枝』
『火鼠の皮衣』
『龍の首の珠』
『燕の子安貝』
高貴な身分の殿方は、しかしながら誰もがその愛の証を持ってくることができなかった。
当たり前だ。私の愛と同じで、そのようなもの在りはしないのだから。
偽物の愛で私を騙そうとした者、騙されて偽物を掴まされた者、果敢にも難題に挑戦し重症を負う者、そして命を落とした者。
そこには様々な愛の形があり、私の心に全く感傷をもたらさないわけでもなかったが、同情は少なくとも愛ではない。
全ての挑戦者が脱落したが、造の表情は不思議なことに明るかった。
「父上、どうしたのですか? 最近嬉しそうですね」
「それがな……」
嬉々として造が言うには、ついには帝の耳にまで私の噂が届いてしまったのだという。
「どうだ? 帝に宮仕えするというのは。帝も是非ともお前に逢いたいと言っているらしいぞ」
造にしてみればこれ以上の相手はいないだろう。
けれど、帝の逢ってみたいという言葉はまるで……。
「珍妙な私を見てみたいということでしょうか? 帝の周りにはそれは美しい女性がたくさんいらっしゃることでしょう。
私はすぐに見飽きられてしまうに決まっております」
珍しいものも、見慣れてしまえばただの日常だ。
それなのに、きっと帝のもとには毎日のように珍しいものが届くのだろう。
私はきっとそこでは、愛され続けることはない。
「実はこの間勅使が来てな、お前を格別の扱いで迎えると仰ってくれたんだ」
格別の扱いとは、造に対しての格別な恩恵(位)であって、私に対してのものではない。
もちろん、それは育ての恩に報いることにはなるのだろうけど……。
「いいえ、私は決して帝にお仕えすることはないでしょう。もしも無理にというのであれば、宮中に参内したその日に自ら命を絶ちます」
「どうしてそれほど……」
「むしろどうしてお会いしたこともない帝が、私を愛して下さる保証があるのです?」
「それは……」
それきり、私は口を閉ざした。
仮に帝が訪れてくださったとしても、お会いするつもりもないのだけれど……。
愛が欲しいと言いながら、私は愛の全てを否定する。
形を欲しながらも、形となってしまうことを恐れている。
それは私が人と違うことに起因しているのだろうか。
それとも、私そのものが愛する心を持っていないからなのだろうか。
永遠の愛というものに憧れていながらも、永遠という言葉が私の胸を刺す。
それは私が否定した言葉ではなかっただろうか。
刹那の愛も永遠の愛も否定する私は、何者にも生まれ変わることができない。
結局のところ月においても地上においても、私は異端児でしかないのだ。
満月がギラギラと輝く。
あぁ……ここが牢獄なのだと思い知らされる。
それから幾日かが経って、帝から文が届いた。
どうやら偶然近くを通った際に、偶然私の姿をお見かけしたらしい。
……まったく、偶然にも程がある。最近考えに耽る時間が増えてしまったので、油断していたのだろうか。
油断というよりは、どうでも良くなってしまったと言うのが正しいのかもしれない。
帝の文はよくある求婚のそれだった。
無視することもできないので、丁重に文を返す。
すると、すぐに返答が届くので、また返す。
そうこう繰り返していくうちに少しだけそのやりとりを楽しく感じられてしまう。
憂鬱な日々の中での楽しみにすらなってしまった。
憂鬱……そう、この先のことを考えると憂鬱で、地上に対する興味を失ってしまいそうだ。
月が私に語りかける。
……罪が許される期日を。
それは私が全ての感情を失って、また昔のように月で永遠を過ごす日々が始まることに他ならない。
未練がないと言えば嘘になってしまうが、私は人のように生きることができないのだと知った。
だからもういい。これ以上は……もういいのだ。
そんな折、帝が屋敷を訪ねてきた。
またしても間の悪いことに、造から用事を頼まれた私は、その時御簾から出てしまっていた。
はち合わせるようにして私たちは出逢う。
すぐに袖で顔を隠したが、もう手遅れだろう。
彼の手が、振り上げた私の手を優しく握りしめた。
父や母とはまた違った、若い男の手の感触。
「いけません」
震える声で私は彼に告げる。
胸は期待と不安、そして絶望で溢れ返っていて、うまく声を出せたかどうか定かではない。
「己はずっと帝として一人で生きてきた。
だから、一人で生きているお前のことを愛せると思った。そしてそれは今確信に変わった」
手を引かれると、自然と私は彼の胸に納まる。
国の頂点であるにしては酷く華奢な両手が、私を包み込んだ。
……あぁ、そうか。この人も『ひとり』なのだ。
人以上の扱いを受け、同等のものは何ら周りに存在しない異質な存在。
私たちはとても似通っていた。
「いけません」
理解された喜びが胸の内に溢れるが、私が出す声は拒絶だ。
彼の胸を手で押して、そっと距離を取る。
「どうしてだ。己はお前のためになんでもしてあげられる」
なんにも知らなければ、もしかしたら私は幸せになれたのかもしれない。
けれどもう、それも叶わぬ夢なのだ。
「ごめんなさい。私はもう……」
「輝夜!!」
再び帝が私との間の距離を詰め、今度は力任せに抱きしめる。
けれどそれも一瞬。
私の身体が影のように形を失うと、唖然とした彼の顔が絶望の色に染まっていった。
「私はあなたと同じ……けれど人間ではありません。だから、無理なのです」
嘆くか怒るかすると思っていたが、帝は寂しそうにただ「そうか」と笑った。
心は裂けるように痛んでいたが、それでも私は彼の言葉をどこか嬉しく感じられた。
それからの年月は大人しいものであった。
帝と文を交わし、たまに御簾を隔てて歌を詠みあったり、父も母もそれは嬉しそうにしていた。
……けれども満月が私に告げる、月に還る期日が迫っていると。
きっともうこれ以上隠すことはできないだろう。
次の満月の夜に、月からの迎えが来てしまう。
両親にそのことを告げると、想像以上に嘆き、そして憤っていた。
造に至っては「お前は俺たちの子だ。なにがあっても守ってみせる」と言ってくれ、帝に取り計らい警護の兵まで用意してくれた。
けれども……きっと月に住む彼らには人の持つ武器など、意味の無いものに等しいことだろう。
これが人の情、これが親の持つ愛なのか。
痛々しいほどに真摯な感情に、私の心の奥底がズキズキと疼いた。
そうしてその日がやってきた。
造の屋敷につめかけた兵はおよそ二千。
数多の人間が詰め寄せるそこには、ネズミの侵入すらも許さぬ要塞が出来上がっていた。
「そんなもの意味が無いのに……」
そう言う私の言葉に耳を貸すものは誰ひとりとしていない。
誰もがそれが堅牢な牢獄だと信じていた。
傍に控える造も、年老いた身に武者装束を纏い息まいている。
月が登る。
今宵は綺麗な十五の夜。
たいそう美しく、そして心をこんなにも沈ませる。
育ててくれた父と母が私の手を握る。
この優しさに触れることができるのも、今宵で最期。
悪意に満ちた月が更に登る。
兵たちは緊張を募らせていき、私の胸にも等しくそれは募っていった。
焦れる心は過信を生み、それはいつか綻びとなる。
もっとも、兵の統率に綻びがなかったところで結果は変わらないのだろうけど。
月が中天にさしかかる。
すると不思議なことが起きた。
輝く満月はより一層の光を湛え、辺りに昼間のような明るさをもたらした。
その光に包まれると、ほとんどの兵たちは武器を落とし、茫然と立ちすくんでしまったのだ。
辛うじて己を保ち、武器を構える者たちもそのほとんどが動くことすらままならない。
――来た。
誰もがそう確信したが、同時に誰の心にも恐怖が満ち満ちていた。
煌々と輝く月の中から黒い影が浮かび上がる。
何十もの人々が列を組み、降りてきているのだ。
ごくり、と造が息をのむ音が聞こえた。
影は更に降りてきて、やがて顔を認識できるほどまで近づいてきた。
天女と見まがうほどの美しい女官たち。
きらびやかな成り立ちをしてはいるが、その表情は恐ろしい程に何も浮かんではいない。
「姫、いらっしゃい」
隊列の先頭に立っていた女官が私に声をかけた。
「私はもう少しここに居たい」
懇願するように私は彼女に告げる。
すると女の顔にしかめたような表情が宿る……それは侮蔑だろうか。
「ここは不浄な場所です。これ以上長いすれば心が穢れてしまうことでしょう」
当たり前のことのように彼女が地上を『不浄』と言う。
確かに月に比べればここは不浄以外の何ものでもないだろう。けれど、私は知ってしまった。
ここに住む者たちの想い、感情、そして生きていくということを。
「何をしているのです。早く来なさい」
苛立つように彼女が言う。
あまり怒らせると、周囲に被害が及んでしまうかもしれない。
それほどまでに彼女らは地上の人間のことをなんとも思ってはいない。
「彼女は俺たちの娘だ」
造が必死に声を上げ、震えながら槍を構えた。
この中で喋り、また動けるものがいることに驚いたのか、女官の眉がぴくりと上がる。
「しかし讃岐造よ。お前は誰のおかげでここまで立派な家に住んでいるのだと思う?」
それはきっと造も気付いていたのだろう。彼は暗く切なげな表情を浮かべた。
「わかっておろう? 姫を養い始めてから、お前らが不自由しないように工面してやっていたのが誰だったか。
もう言わなくても気付いておろう? 姫を養っていたのはお前だったかもしれないが、お前を養っていたのは私たちだったのだ」
けれど造は未だその槍を下ろさない。
「だからなんだ。ずっと面倒も見ずに今更親の顔をするとでも言うのか? 輝夜は俺たちの娘だ。
連れていくというのなら、俺を殺してからにしろ」
「そうか」とぽつりとつぶやくと、女官が造に近づいていく。
あぁ、このままでは彼女は本当に造を殺害してしまうことだろう。
「造……いいえ、お父様。もうよいのです」
「かぐや?」
振り向いた造の顔が絶望に染まっている。
「私はあなたがたの娘で幸せでした。だから、末長くお幸せにお過ごしください。それが私からの最期の願いです」
私の言葉を聞いた造が手にしていた武器を地に落とした。
もう彼の中に敵意は残っていなかった。
女官は冷たい目をして彼の様子を眺めると、すぐに私を見つめ「行くぞ」と急かした。
「少しお待ちください。文を残したいのです」
燦燦と輝く月明かりを頼りに、私は文を書き記す。
それは他愛のない挨拶で始まり、別れの言葉を記したいつも通りの手紙。
けれどいつもと違い、私はそこに期待と嘘を混ぜ込んだ。
「もう良いか?」
待たされて心が急いているのか、女官が他の女官2名に命じて羽衣と壺を持って来させた。
「さぁ、忘却の羽衣と不死の薬だ」
これが最期。私で居られる最期の時間だ。
不死の薬を口に含み、残りを紙に包んで造に持たせる。
「これは不老長寿の薬です。帝の分も包んでございます」
お世話になりました。造を抱きしめてそう伝えると、私は忘却の羽衣を身に纏う。
あぁ、意識が薄れていく。
記憶の零れていく恐怖と快楽に身をゆだねながら、私は必死に思いを手繰り寄せる。
――人でない私を愛してくれた両親。
――人でない私を愛してくれた帝。
もしも叶うのなら、永遠の先で再び見えることもあるでしょう。
それを祈ってしまったことが人としての私の弱さ。
あぁ、なんだ。私も立派に人として生きていたのだ。
ならばもう大丈夫。満たされたまま、私は絶望の牢獄に入っていける。
造が必死に呼びかける声が遠くで聞こえている。
むせび泣く声が遥か彼方で聞こえている。
あぁ、あれは誰だったかしら。