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8月15日  作者: きつね
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6月23日

初投稿になります。

太平洋戦争時の日本を再現するために、『鬼畜米英』、などの古い差別的な表現が含まれます。他にも再現の為に沖縄弁や、今の日本語には使われない言葉や、酷い言葉が含まれるやもしれませんがご了承下さい。

 6月23日午後

 ―――牛島司令官が割腹かっぷくなされた―――

 そう耳に入った。誰が言ったかも分からないが。

 洞窟の中でかの鬼畜米英のキャタピラ音がしないか、足音がしないか、耳をすませながら、寒気もないのに音を立てて震えていた。腰にテーピングされた破片手榴弾が静かな洞窟では五月蠅かった。

 「うし…じま司令官が?」

 違う誰かがそう漏らした。恐らく金城かねしろだろう。彼は、血色こそ悪いが――全員そうだが――比較的冷静だった。

 重い口を開けようと、私はカラカラだった喉に生唾を与える。余計にカラカラになった。

 「じゃあ ワッター(俺たち)はどうするんだ」私は耐えて、舌を回した。

 私たちは基地として、そして隠れ家としてこの洞窟で待機してきた。待機といっても指令はとうぶん与えて貰っておらず、食料や武器の補給も無くただ生命を維持するために、そしてかの鬼畜米英に殺されないためにただ山の如く動かなかった。他の部隊は近隣の住民を襲って食料を奪ったり、自決を無理強いさせたりしているらしいが、この部隊ではそんな愚行はしていない。…今のところは。

 「喜久川きくかわァ」

 神里かみさとだった。呻き声で自分の名前を呼ばれて、私は洞窟の最深部で横たわる影に首を回した。破片手榴弾が五月蠅かった。私は彼に、『しゃべるな。傷口が広がるぞ』とだけ言い放ち、また生唾を喉に与える。また一段カラカラになった。

 「確かなのか、その情報」

 金城が淡泊に伝えに来た兵に聞いた。その兵は腰に破片手榴弾だけを巻き付けてほぼ下着だった。サーベルも付けていないあたり、状況からも、敬語はもう不要と感じた。

 「ああ、早朝に摩文仁まぶに洞窟の司令部壕で長と共に東方を拝して『天皇陛下万歳』と三唱し、割腹されたらしい」

 「つまり、ワッター(俺たち)は…放浪者?」神里がまた口を開いた。金魚の様に口をパクパクさせながら、必死に絞る言葉は滑舌が悪かった。

 降伏しちまえ、と彼は続けて言った。叫びたかったんだろうが、叫びに足らぬ声量だった。

 「だが、鬼畜米英は捕虜を無残に殺し、男はキンタマを抜かれ、女は死ぬまで働かされると聞くぞ」

 金城の方から小さい言葉が聞こえてきた。彼も、冷静ではいられなくなっているようだ。


 気づいたら、洞窟は五月蠅かった。それぞれの破片手榴弾が泣いているように。かたかたと。


 「ワン(俺)はもう行くぞ、牛島司令官が亡くなったのならもうここにいる意味はない」

 その兵が私たちの手榴弾の音を聞いて怒ったように去った。

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