暗いな、圧倒的に暗いぞ!
昔は女の人に選択権がなかったそうですが、ひどい話ですよね、今はだいぶましになりましたがそれでもまだまだ……といったところです、みんな性別:秀吉になればいいのに。
「むぅ……」
姉さんはいつの間にか消えてしまいました。
「はぁ」
姉さんのさっきの物憂げな横顔素敵でした……ヨハン様とはどういったご関係なんでしょうか、気になりますわ。
「お姉さま……」
あ~かわいい、無表情な顔が無理して微笑もうとしているのを眺めるのは最高ですわ。
最近では添い寝もしてくれるお姉さま、御淑やかにご成長なされたお胸は10歳にしてすでに母を感じさせるに十分な柔らかさですわ。
ウェヒヒ、おっと心の中だからと言って変な笑い方は禁止ですわ。
「こんばんわ、アイリ様」
「久方ぶりで―――」
お姉さまの所に行きたいのにこの有象無象どもが邪魔ですわ、はぁ、いつになったお姉さまの所に行けるのかしら。
一目散にパーティー会場を抜け出した私は誰も使っていない来客用の応接間のソファーに寝転がる、ここでパーティーが終わるまでサボるのだ。
「ふぅ、疲れた……」
今日の服装は走りにくかったので仕方がなく早走りで動かないといけなかったので足が痛い。
「くぅ、情けない」
長すぎるスカート部分を捲りあげて少し固くなっている足を揉む。
「白い、白いぞ!圧倒的なまでに!」
モミモミ
「もみじモミモミ」
モミモミ
「ひゃっはーもやしは死ねぇ!」
ごめん、自分で言って悲しくなった。
「………」
もはや言うこともなく無言で足をさすったり揉んだりする。
「むぅ……」
ふにゃっふにゃっやぞ~!ふにゃっふにゃ!
足を伸ばして汗ばんだ太ももを外気にさらそうとして―――
ガタンッ
「だれだっ!?」
目の前のショーケースが動いた、え、なにそれ怖いんだけど。
「ニャー」
「何だネコか……」
「………」
沈黙が部屋を支配する……
「だれかあああ!くせm」
「ま、まて!俺だ!ヨハンだ!」
「へ、変態いいいいい!!へんtもがっ!」
叫んだらいきなり口を押えられた。
「だ、誰が変態だ!少し黙れっ」
「もがもがっ!」
体全体で拒否していたはずみでと自分は変態とともにソファに座ってしまった、もちろん自分は変態の膝と膝の間にすっぽりとはまっている。
「イリス……俺だヨハンだ、手を離しても騒ぐなよ?」
コクコクとうなずく自分に満足したようで、手を離す。
「なんであんなところにいたのよ!」
「お前がいきなり入ってくるからだろ!?」
「責任転嫁よ!ならなんで隠れたのよ!」
「うっ」
「それにさっきまで私のこと覗いてたんでしょ!この変態!ロリコン!死ね!」
「おいこら!他国の王子に向かって死ねとは何だ!死ねとは!」
「ううっ、こんな変態にあんなシーンを見られたなんて死にたい、もうお嫁にいけない」
お嫁になんか行きたくないけどな。
「よ、嫁なら……」
「ん?なんか言った?」
「べつになんでもねーし」
「あっそ、っていうかさっさと離しなさいよ!」
いつまで手を腹に回してんだ!このロリコンが!
「す、すまん……」
「まったく、そもそもどうしてパーティーの主席がこんなところにいるの?」
しかも明かりも付けず……
「はっ、もしや閨の相手を待っていたとか!?」
「どうしてそうなるんだ!?」
まあそんなわけないよね。
「冗談ですよ、からかっただけです」
「どうしておまえは、……くそっ」
頭を抱えてソファに座り込む王子、馬鹿ですね、魔王に殺されて死ねばいいのに。
あー、そういえばこいつ勇者メンバーの一人でしたね、魔王ガチで泣くんじゃない?
「で、ヨハン様はどうしてこんなところに?」
「お前を探しに来たんだよ」
「ふーん」
妹か誰かに頼まれたの?余計なお世話ね。
「何だよその眼は、ちょっと驚かせてやろうと思ったらお前がいきなりあんなことを……」
「別に私の足を見たところで何も感じないでしょこんな不細工な足」
白く弱弱しい足、すぐに折れてしまいそうなこの足は多分見た目通り力を入れれば折れてしまうだろう。
「お前は……どうしてっ」
「きゃわっ!?」
手を引っ張られてソファに押し倒される。
薄暗い中ヨハンの氷のように透き通った青い瞳が黒く、どこまでも暗い私を映す。
「やめてよ……」
「どうしてだ……俺はお前のことが」
綺麗な顔を歪ませ言葉を紡ぐ。
「やめろ!」
やめてくれ、俺は、俺はそんな言葉聞きたくない。
「どうして俺を拒絶するんだ、なんで!」
「……なんでか?そんなの決まってるだろお前がアイリの婚約者だからだ!」
これはアイリが生まれた時に決まったことだ、当然だ、全てをもって生まれたアイリと何も持たずに生まれた私、これは当然なんだ。
憎い、自分が、罪悪感と嫌悪感が自分を攻め立てる、未来を知っている俺は知りながら何もしない。
死ぬことに安息を求めるとしたら、それまでの道のりは長く険しい、故に私は地獄に生きている。
誰か助けてくれ、人として生きるのはもう辛すぎる。俺に力があれば、もっと力があれば悩むことなんて必要なかったのに。