クラシック・ミニと一緒-05
「!!」
最初のコーナーに飛び込んだら、ガイア氏が息をのんでいた。当然だろう。ノーマルミニとは段違いの進入速度なのだから。何個かコーナーをクリアしていくうちに、隣から小さなつぶやきが聞こえてきた。
「なんでこんなに、曲がるんだ?」
チラッと横を見ると、心底驚いているようだ。僕は小さく微笑み、少しだけペースを上げた。
“曲がる脚、いいでしょ? 欲しくなるよね? つけちゃう?”
悪魔の囁きが彼の心に届くように期待をこめながら……。
峠道を往復し、再びコンビニの駐車場へ。今度は僕がコーヒーをおごることにし、僕たちはイートインコーナーに腰を落ち着けていた。
「あれほど差が出るとは思っても見ませんでしたよ」
ガイア氏は興奮していた。うんうん。気持ちはわかるよ。
「なんちゃってクーパーSの、ウチのクルマじゃあ、ハナシになりませんなぁ……」
ガイア氏の声に自嘲の響きが混じった。
「本物のクーパーSなら、ここまで無様なことにはならないんでしょうねぇ……」
ん? このヒト、勘違いしてるのかな?
「脚周りも特別に仕立てられてますからね」
やっぱりだ。僕はやんわりと誤りを指摘する。
「クーパーの脚周りは、スタンダード仕様とほぼ同じですよ」
「ええっ?!」
声が裏返っていた。
「MK-Ⅲまでのクーパーは……」
僕はガイア氏の言わんとしている事を先回りして言った。
「脚周りが特別に仕立てられてるって言いたいんですよね?」
ガイア氏はうなずいていた。僕は小さく首を振った。
「クーパーの脚周りは、フロントブレーキがディスクになりましたが、アライメントはスタンダード仕様と全く変わっていないんですよ」
「えっ?」
あんぐり。勘違いしているミニ乗りって多いんだよね。
「クーパーモデルの立ち位置を勘違いしているヒトって多いんですけどね。あくまでコンペティションのベース車です」
僕はコーヒーに口をつけた。
「最強のクーパーと呼ばれた1275Sであっても、それは同じです。ツルシのまんまじゃあ、全然お話にならなかったって聞きましたよ」
「そうなんですか?」
僕は大きくうなずいた。
「その証拠に、シートもステアリングもスタンダード仕様と同じのがついてますからね。あと……」
僕は続けた。
「MK-Ⅲまでのクーパーモデルって、タコメーターもついてなかったし……」