7.学園生活の始まり
王都の貴族街に白亜の尖塔を連ねる王立第二学園。
壮麗な石造りの講堂に、新入生たちが集められていた。
俺――アレン・バルトシュタインは、列の最後方で背筋を伸ばしていた。
母に抱きしめられ、父に背中を叩かれ、クラリスには泣きじゃくる姿で見送られてきた。
その光景がまだ胸に残っている。もう後戻りはできない。
ここで力を証明するのだ。
壇上に立つ学園長が、杖を軽く床に打ち鳴らした。
「諸君、よくぞここまで来た。王立第二学園は、諸君を一人前の王国貴族へと鍛え上げる場である。王国の繁栄のために、日々励みなさい」
入学式が終わり、振り分けられたクラスの教室へと向かう。扉を開いたとき、ぱっと手を振る少女が目に入った。
「アレン様!」
旅の途中で助けた少女――セリーヌ・ラングレーだ。男爵家の令嬢でありながら、屈託なく笑顔を向けてくる。
「セリーヌ嬢、同じクラスになったのですね」
「ええ! なんだか心強いですわ」
その一言だけで、周囲の生徒たちがひそひそと噂を始めた。
「ラングレー男爵家の令嬢と……」
「一緒にいるのは騎士爵の子息か?」
気にしても仕方ない。俺は淡々と席についた。
◇
最初の授業は座学。
歴史や法、読み書きの確認など基礎的な内容だった。
講師が生徒に次々と質問を投げかける。
答えられずに黙り込む者が多い中、俺は手を挙げて答え続けた。
「――正解だ。アレン・バルトシュタイン、よくできたな」
講師の口元がほころび、クラスがざわつく。
前世での知識と、この数年で必死に学んできた成果を組み合わせれば、この程度は難しくない。
「アレン様、本当に博識なのですね……」
隣の席からセリーヌが目を輝かせて囁いてきた。
「本を読むのが好きなだけですよ」
「ふふ、謙遜なさらなくても」
彼女の視線に、ほんの少しだけ胸が温かくなる。
座学が終わると、場所を移して魔法の授業が始まった。
訓練場に集められ、生徒たちは一人ずつ魔法を披露していく。
多くは火花を散らす程度。時折、直径数十センチほどの火球を出せる者がいれば周囲から拍手が起こった。
「次、アレン・バルトシュタイン」
俺の番だ。胸の奥で魔力を練り上げ、静かに呟く。
「――ファイアボール」
轟音と共に現れたのは直径一メートル近い火球。標的を一撃で粉砕し、砂塵が舞い上がる。
訓練場が静まり返った。
「ば、馬鹿な……」
「騎士爵の子弟が、あの規模の魔法を……?」
講師は口を開けたまま固まっていた。
「すごい……! 本当にすごいです、アレン様!」
セリーヌが駆け寄り、両手を胸の前で握りしめていた。
彼女の頬が紅潮しているのを見て、俺は視線を逸らす。
最後は武術の授業。剣、槍、弓から得意なものを選び、模擬戦を行うことになった。
俺は迷わず剣を手に取る。
「次の対戦は……アレン・バルトシュタインと、クラウス・ベーレン!」
名を呼ばれたのは子爵家の三男らしい。
鍛えた体躯で、周囲から期待の声が飛んでいる。
「始め!」
木剣が交差した瞬間、俺は身体強化を発動した。
視界が研ぎ澄まされ、世界が遅く見える。
一歩踏み込み、クラウスの木剣をはじき飛ばし、次の瞬間には喉元に突きつけていた。
「勝者、アレン・バルトシュタイン!」
どよめきが起こる。
「魔法だけじゃないのか……」
「強すぎる……」
クラウス自身も信じられないといった顔で俺を見ていた。
俺は深く息を吐き、木剣を下ろす。
◇
こうして初日の授業は終わった。
帰り支度をしていると、セリーヌがそっと近づいて袖をつかむ。
「アレン様……わたくし、これからもご一緒に頑張りたいのです」
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」
夕暮れの光が教室に差し込み、彼女の横顔を赤く染めていた。
【創造ポイント:+1】
「……っ」
不意に視界に走ったシステム文字に、俺は小さく息を呑む。
(やはり……クラリスのときと同じ。セリーヌ嬢の“好感”が、俺の力に変わっている……?)
気づかれないように笑顔を作り、セリーヌに頷いて見せる。
「一緒に、強くなりましょう」
「はい!」
彼女の声が明るく響いた瞬間、俺の胸の奥に新たな熱が芽生えていた。
この力をどう使うのか――それは、これからの学園生活の中で試されていくのだろう。




