6.王都へ
夜明けの光が差し込む屋敷の前庭。
荷を積んだ馬車が一台、出発を待っていた。
「アレン」
父ガルドが短く名を呼んだ。
「お前ももう五つ。ここから先は自らの力を示していかねばならん。鍛錬を怠るな」
「はい、父上」
声を張り、まっすぐに返す。
母エリナはその横で微笑んだ。
「あなたは辺境とはいえ、騎士爵家の嫡男です。王都でも恥ずかしくないように、凛と振る舞いなさい」
「心得ております、母上」
そして――。
「アレン様ぁ……」
クラリスが泣きながら駆け寄ってきた。
まだ子どもらしい顔立ちだが、その頬を涙が濡らしていた。
「絶対に……絶対に戻ってきてくださいね……!」
「……うん、クラリスも元気でね」
握られた手が熱く震えている。
その温もりを胸に刻み、俺は馬車へと乗り込んだ。
◇ ◇ ◇
街道を進む馬車の中、外を眺めながら思う。
(これから先は、俺一人で道を切り開かなくてはならない……)
そんな時だった。
「きゃあああっ!」
「魔獣だ! 誰か助けて!」
前方から悲鳴が響いた。
御者が馬を止めると、街道脇で旅の一行が巨大な狼型の魔獣――シャドウウルフに襲われていた。
「行くしかないな」
俺は飛び降り、剣を抜く。
魔力を巡らせ、【身体強化】を発動。視界が鮮明になり、全身に力が漲る。
「ファイアボール!」
掌に生んだ火球を叩きつけ、狼の足を焼く。
怯んだ隙を突いて地を蹴り、一閃で喉を切り裂いた。
黒煙を上げて、魔獣は崩れ落ちた。
「おお、助かった……!」
旅人の男たちが口々に礼を述べる。その後ろから、一人の少女が姿を現した。
「……あなたが、助けてくださったのですね」
透き通るような金髪に整った顔立ち。
品のある仕草でドレスの裾をつまみ、深々と頭を下げる。
「私はセリーヌ・ローレント。ローレント男爵家の娘です」
その名に思わず息を呑んだ。
ローレント家――母から王国貴族については教わっている。
王都近郊に領地を持ち、古くから続く男爵家だ。
「初めまして。バルトシュタイン男爵家の嫡男、アレンと申します。王立第二学園を受験するために王都に向かっておりましたところ、お困りのようでしたので、微力を尽くしました。……このたびは、お怪我がなくて何よりでございます」
丁寧に礼をすると、セリーヌは目を丸くし、それから花が咲いたように笑った。
「まあ、騎士の家の方だったのですね! 実は私も、王立第二学園を受験するため王都へ向かっていたのです」
「そうでございましたか。奇遇にございますね」
それからは自然と道連れとなった。
馬車に揺られながら、セリーヌは王都や学園の話を楽しげに語る。
その姿に、辺境育ちの俺はただ新鮮さを覚えるばかりだった。
◇ ◇ ◇
王都に着いた瞬間、圧倒される。
高くそびえる城壁、石畳を行き交う人々、広大な宮城と白亜の塔。
セリーヌも同じように目を輝かせていた。
「これが……王都……」
「壮観にございますね」
それから、セリーヌは王都にある邸宅へ、俺は予約していた宿へ向かった。
◇ ◇ ◇
試験の日。
剣術、魔法、学科。
剣術では、父との訓練で鍛えた力を【身体強化】でさらに高め、模擬戦相手を圧倒した。
魔法試験では、【ファイアボール】【ウォーターボール】を自在に操り、試験官を唸らせる。
学科試験も、母から学んだ知識と前世の記憶で難なくこなした。
「これで落ちることはあるまい……」
◇ ◇ ◇
数日後、広場で合格発表が行われた。
群衆の中から必死に自分の名を探す。
――あった。「アレン・バルトシュタイン」
「よし……!」
思わず拳を握る。
「アレン様!」
振り返ると、セリーヌが駆け寄ってきた。
「わたくしも合格いたしましたわ!」
「おめでとうございます、セリーヌ様。ご一緒できること、光栄にございます」
彼女はぱっと笑い、手を差し出した。
「これから同じ学園で学べるのですね。どうか仲良くしてくださいませ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
小さな手を握り返す。
(ここから俺の新しい日々が始まる――)
これからの生活を想像し、期待に心を躍らせながら、実家に合格を知らせる手紙を書いた。




