3.転生した!
「……アレン様! どうか、ご無事で……!」
小さな手でシーツを握りしめながら、クラリスが震える声で呼びかける。
母エリナは濡れ布を絞り、額に当てながら必死に祈るような表情を見せていた。
父ガルドは腕を組み、低い声で言う。
「子どもは熱を出して強くなるものだ。だが油断はできん、医師を呼べ」
寝台の上で荒い息をつくアレンの瞳には、断片的な映像が次々と映し出されていた。
――満員電車。
――白い蛍光灯に照らされたオフィス。
――同僚の女性の笑顔。
――轟音と共に迫るトラックのライト。
そして、あのふざけた口調の女神――いや、閻魔大王。
(俺は転生したんだ。ここから、やり直すんだ。)
夜が明ける。
アレンの熱はすっかり引き、目を覚ますと、クラリスが泣きながら手を握った。
「アレン様……本当によかったです……!」
母が抱きしめ、父はほっと息をついた。
だが、少年の瞳の奥では、三歳の幼子とは思えぬ冷静さが輝いていた。
「……これからが本番だな」
小さな口元に浮かぶ笑みを、誰も気づくことはなかった。
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「アレン、まだ体が本調子じゃないのだから……今日はゆっくり休みなさい」
母エリナが柔らかく微笑みながら、スープを差し出してくる。
彼女は若くしてアレンを産んだらしく、まだ二十代前半で、美しい。
栗色の髪に澄んだ瞳。優しげな声に、自然と安心させられる。
父がめっちゃ羨ましい。
「うん、わかったよ、母上」
アレンは幼子らしく答えながらも、心の中では苦笑していた。
(……母ちゃん美人すぎ。もっと早く前世で記憶が戻ってたら、授乳を全力で堪能できたのに……)
だが、そんな不埒な思考を顔に出すわけにもいかない。
母の前では、三歳らしくスプーンでスープをすする少年を演じる。
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その夜。
俺は生まれて初めて、意識的に「力」を試してみようと決めていた。
両親もクラリスも寝静まった後、月明かりが差し込む部屋で一人布団の上に起き上がる。
「……鑑定」
声にした瞬間、視界に淡い光の板のようなものが浮かび上がった。
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【アレン・カストル】
年齢:3歳
性別:男
誕生日:春の月・第1週・3日目
血液型:O型(相当)
身長:93cm
体重:14kg
学歴:未就学
職業:カストル家嫡男
称号:転生者
――基本能力――
HP:42/42
MP:18/18
攻撃力:5
防御力:6
魅力:5
――所持スキル――
・鑑定 ユニークスキル
・創造魔法 ユニークスキル
――特殊項目――
・創造ポイント所持数:12
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「……おお。まじか」
幼児らしからぬ低い声が漏れる。
この世界の自分の状態が、数値として丸裸になっていた。
しかも「創造ポイント」なる項目まで。
分からないことは多いが、早速魔法を使ってみよう。
火は危ないから、水ならいいかな?
「ウォーターボール!!」
試してみるが、空気が震えるだけで何も起きない。
魔法はまだ使えないらしい。
「創造魔法なら……」
よく考えたら、水がたくさん出て水浸しになったら言い訳に困るし、ここは、光がよさそうだな。
「光を灯す魔法を創造する!」
そう言うと、ゴッ、と胸の奥が熱くなり、頭の中に言葉が刻まれた。
【創造ポイントを5消費して光魔法〈ライト〉を創造しました】
「よしっ!」
手をかざすと、そこに小さな光が浮かんだ。
ろうそくほどの明かり。それでも、闇に包まれた部屋を確かに照らしていた。
「すげぇ……!」
何度も光を灯しては消し、また灯す。
そんなことを繰り返していると、やがて視界が揺れる。
「……はぁ、もうダメか」
布団に倒れ込むと同時に、意識は暗闇へと沈んだ。
⸻
翌朝。
起き抜けに再び「鑑定」を唱えると、数値が変わっていることに気づいた。
【アレン・カストル】
MP:20/20(+2)
「やっぱり……魔法を使えばMPが伸びるんだ」
――鑑定と創造魔法は、間違いなく自分の武器になる。
俺は、小さな拳を握りしめた。




