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13.商品開発

ギルドでのあの日以来、俺の名は少しずつ広まっていった。

鮮度が命の《アイス・ホーンラビット》を納品したことが、思っていた以上に話題になったのだ。


それから間もなく、またしてもギルドに呼ばれる。


「アレン君、また指名依頼が来ているわ。今度は《アイスバード》の羽根よ。冷気を帯びていて鮮度を保ちにくいけれど……君なら可能かしら?」

受付のマリーナさんが優しい笑みを浮かべながら告げてくる。


「はいっ! がんばります!」

俺は胸を張って答えた。


結果は成功。収納魔法で温度や鮮度を調整する工夫を加えたことで、氷のように透き通った羽根をそのまま持ち帰ることができた。



数日後、また別の依頼。今度は《サンダーホーン・ディア》の角。これも雷属性を帯びていて、普通の袋に入れれば焦げたり割れたりするのだが……収納魔法で魔力を絶縁するように調整して無事に納品。


「……少年、ただの収納魔法じゃないな。工夫を重ねている」

依頼主である金獅子商会会頭バルドさんが、唸るように呟いた。


「えへへ……いっぱい考えて、やってみたらできちゃいました!」

子供っぽく笑って返すと、バルドさんはごつい手で俺の肩を叩いた。


「その発想力と実行力、大人顔負けだ。だが、まだ六つなんだよな……化け物かもしれんな」

「えっ……ひ、人間です!」


その場にいたマリーナさんがくすっと笑った。

顔が熱くなるのを必死で隠す。


こうして、俺は金獅子商会からの依頼をいくつも任されるようになった。

時には《フレイムウルフ》の毛皮を焦がさず持ち帰り、時には《ストーンリザード》の鱗を砕けずに納品。


その度にバルドさんからは「見事だ」と言われ、マリーナさんには「すごいですね、アレン君!」と言われて創造ポイントが加算された。



そんなある日、ギルド長から呼び出される。


「アレン・バルトシュタイン。君の実績は目覚ましい。ギルドとしても認めざるを得ん。よって、本日付けでDランクに昇格とする」


周囲にいた冒険者たちがざわめき立つ。

「まだガキだぞ……」

「いや、あの収納は本物だ」

「むしろ俺たちより役に立つかもな」


その視線を浴びながら、俺は深く頭を下げた。


「ありがとうございます! これからも、がんばります!」


ギルド長もマリーナさんも笑みを浮かべていた。



その日、金獅子商会の会頭バルドさんから、家族との食事に招かれた。

案内された商会邸宅は豪奢だが、威圧感よりも温かさを感じる造りで、扉をくぐると香ばしいパンの香りが広がっていた。


「おお、アレン坊。よく来てくれたな」

「おじゃまします、バルドさん」


俺がぺこりと頭を下げると、奥から落ち着いた雰囲気の女性が現れる。


「あなた、この子が……」

「うむ、エレオノーラ。この少年が例のアレンだ。まだ六歳だが、収納魔法の才を持っておる」


俺は慌てて背筋を伸ばし、両手をそろえてお辞儀した。

「は、はじめましてっ。アレン・バルトシュタインと申します」


女性は優しく微笑む。

「まあ……なんて礼儀正しい坊やでしょう。私はエレオノーラです。今日はあなたに会えるのを楽しみにしていましたのよ」


(……本当に優しそうな人だ。お母さんみたいな雰囲気だな)

胸の奥がじんわりと温かくなる。


そのとき、ぱたぱたと足音がして、明るい声が響いた。


「お父さま! もう来ているのですか?」


現れたのは、透き通るような金髪の少女。大きな瞳が俺に向けられ、ぱちぱちと瞬く。


「こちらが娘のリリアナだ」

「はじめまして! リリアナ・エストラーダと申します!」


少女はスカートの裾をつまんでお辞儀をした。

俺も慌てて真似をして頭を下げる。


「よ、よろしくおねがいしますっ! アレン・バルトシュタインです!」


リリアナはぱっと顔を明るくして、小さな声でくすっと笑った。

「まあ……お父さまの言ったとおり、本当にかわいらしい方ですわね」


「か、かわ……っ!」

頬が熱くなって言葉が詰まる。

その様子を見て、バルドさんが豪快に笑った。


「ははは! いいぞ、アレン坊。リリアナと仲良くしてやってくれ」


その夜は温かな食卓を囲み、商会の話や王都の出来事を聞きながら賑やかに過ごした。

エレオノーラ夫人は終始柔らかい笑みで世話を焼いてくれ、リリアナはきらきらした瞳で俺の話を聞き、何度も質問をしてくる。


(……こんなふうに人との縁が広がっていくんだな)


美味しい料理を堪能しながらそんなことを思い、不思議な充足感を抱いていた。。



リリアナとは、ホームパーティーでの初対面以来、何度かバルド商会の屋敷に遊びに行くようになった。

屋敷の庭は小さなバラ園になっていて、そこを歩くたびにリリアナは花を指さして嬉しそうに説明してくれる。


「このバラはね、香りがとても良いのですわ。摘んで布に挟んでおくと、長く香りが残るの」

「へえ……本当にいい匂いだ」


俺はバラの花びらをそっと指で撫でながら思った。

(けど……髪につけたらもっと良くなるんじゃないか? そういえばこの世界、石鹸はあるけどリンスとかシャンプーはないんだよな)


リリアナは俺の視線に気づいたのか、少し恥ずかしそうに髪を撫でた。

黄金色の髪は陽の光を受けてきらめいているが、石鹸で洗っただけだからか、少しきしみが残っているようにも見える。


「アレンさま?」

「え? あ、いや……リリアナの髪、きれいだなって思っただけ」

「っ……!」


リリアナは耳まで赤くして、慌てて視線を逸らした。


【創造ポイント:+1】


(……やっぱり増えた。やっぱり好感度と連動してるんだよな)


俺は花園を歩きながら、頭の中で考えを巡らせる。

(このバラの香りを抽出して石鹸に混ぜたら……いや、それじゃ髪がゴワゴワのままだ。油を加えてすすいだら柔らかくなる……そうだ! リンスやシャンプーを作れるじゃないか!)


その日の帰り際、俺は勇気を出してバルドさんに提案した。


「えっと……バルドさん。あの、ひとつ試したいことがあるんです」

「ん? どうしたアレン坊」

「髪を洗う……いや、きれいにして柔らかくするものを作れるかもしれないんです。試してみてもいいですか?」


バルドさんは一瞬きょとんとしたが、すぐに興味深そうに笑った。

「ほう……また面白いことを考えるな。いいぞ、やってみろ。材料や設備は貸してやる」


隣でリリアナが目を輝かせる。

「まあ! 本当にそんなものができるのですか?」

「……たぶん」


俺は少し照れながら答えた。

けれど心の中では確信していた。


(前世の知識と創造魔法を組み合わせれば、この世界にはない新しい価値を作れるはずだ)



冒険者としての活動が少し落ち着いた頃、俺は部屋にこもって試行錯誤を繰り返していた。

(この世界の石鹸は悪くないけど、髪を洗うには向いてないんだよな……きしむし、絡むし、匂いもいまいちだ)


前世で当たり前だったシャンプーとトリートメント。

それを作れば、きっと人々に喜ばれる。そう考えた俺は、母さんから譲ってもらった薬草や油を並べ、何度も調合を繰り返した。


最初はただの石鹸液と変わらず泡立たなかった。

次は油が多すぎて髪がべたついた。

(うーん……これじゃだめか。じゃあ、灰汁を弱めにして……ハーブの煎じ液を混ぜて……)


何度も失敗を重ね、やっと「これはいけるかも」という液ができた。

ラベンダーに似た香りのする草を煮出し、蜂蜜で保湿を加え、椿油を少量混ぜる。泡立ちもまずまずで、洗い流すと指通りが軽くなった。


「よし……これなら、試してもらえるかもしれない」


俺は小瓶に詰め、試作品を手の中に収めた。



数日後。

俺はバルドさんの屋敷を訪れた。

玄関で出迎えてくれたのは、商会長バルドさんと奥さんのエレーナさん、それに娘のリリアナ。


「よく来てくれたね、アレン君」

「おじゃまします」


食事のあと、俺は小瓶を取り出した。

「実は……試していただきたいものがあるんです」


琥珀色に透ける液体に、三人の視線が集まる。

「これは……?」

「髪をきれいにする液体です。まだ試作品ですが……」


興味を示したのはリリアナだった。

「わたしが使ってみたい!」

元気よく手を挙げた彼女に、母のエレーナさんが笑って頷いた。


洗面所にお湯を張り、リリアナが髪を濡らす。俺は試作品を泡立てて彼女の髪に馴染ませた。

ふわりとラベンダーの香りが広がり、リリアナが目を輝かせる。

「わあ、いい匂い……」


泡を流すと、髪のきしみが消えてさらさらと手触りが変わった。続けて蜂蜜と油を混ぜた液を塗ると、光を弾くように艶が出た。


「すごい! すごいよ、これ!」

リリアナが跳ねるように笑い、エレーナさんも驚いた顔で髪を撫でる。

「こんなもの、今まで見たことがないわ」


バルドさんは腕を組み、俺をじっと見つめた。

「……アレン君、これを作ったのは君か?」

「はい。俺が考えて、調合しました」


緊張しながら答えると、バルドさんはゆっくりと頷いた。

「これは必ず売れる。世の女性たちが放っておくはずがない」


「わたし、毎日これで洗いたい!」

リリアナがはしゃぎ、エレーナさんも笑顔で頷いた。

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