11.ランクアップ
王都の夕暮れ、石畳の街路を行き交う人々の喧噪の中、冒険者ギルドの扉を押し開いた。
数日前に納品したゴブリンの素材――特に、上位種ゴブリンの証拠品が査定されたと聞き、呼び出されたのだ。
広いホールには、相変わらず粗野な笑い声や武具の金属音が響いている。受付に向かおうとすると、ギルドの奥から声がかかった。
「坊主、こっちだ。ギルド長がお待ちだぞ」
太い腕を組んだ壮年の職員に案内され、俺は奥の部屋へと通された。
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部屋の中には、書類の山を背にした中年の男が腰かけていた。
灰色の髪に鋭い目つき――ギルド長だろう。隣には、見慣れたマリーナさんの姿もある。
「お前がアレン・バルトシュタインだな?」
「は、はいっ。そうです」
緊張で背筋を伸ばす。
ギルド長は手元の書類を軽く叩きながら俺を見据えた。
「Fランク登録から日も浅い子供が、ホブゴブリンを含む巣一帯を殲滅し、素材を無傷で持ち帰った……これが本当かどうか、正直信じ難かった」
「ですが、納品された素材は一級品でした。状態もよく、戦闘での無駄がほとんどなかったと判断されます」
横からマリーナさんが穏やかに補足する。
「お、お役に立てて、よかったです」
マリーナさんがいるものの、強面に囲まれてた威圧感のせいでどもりながらなんとか言葉を出した。
ギルド長はふんと鼻を鳴らし、椅子に深く腰をかけ直した。
「Fランクの枠では収まらん。正式にEランクへと昇格させる」
「えっ……!」
俺の心臓が跳ねた。
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だが、ホールへ戻った瞬間に空気が変わった。
「はあ? ガキがEランクだと?」
「冗談も大概にしろよ。俺らが何年かけて上がってきたと思ってんだ」
酒臭い息を吐きながら、数人の冒険者がこちらを睨む。
あからさまに敵意を含んだ視線が刺さる。
(またか……けど、今回は証拠がある)
俺は胸の中で小さく息を整え、マリーナさんの方を見る。
「ご安心ください」
マリーナさんが静かに手を上げると、職員が木箱を運んできた。
蓋を開けると、中にはホブゴブリンの牙や棍棒が整然と並べられている。
「これがアレンくんが討伐した証拠品です。ギルドで鑑定済み」
冒険者たちが一瞬どよめき、やがてざわめきが静まっていく。
それでも納得いかないのか、腕組みした大男が俺に詰め寄った。
「おい坊主、どうやって倒した? まさか運良く仕留めただけじゃねえだろうな」
俺は思わず鑑定を発動する。
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【ガレス】
年齢:31歳
身長:184cm
体重:91kg
誕生日:夏の月・第2週・5日目
血液型:B型
職業:冒険者(Dランク)
学歴:なし
魔力量:12/12
攻撃力:41
防御力:39
俊敏:27
魅力:8
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(……父さんとの訓練で、身体強化を使えば余裕で勝てる)
俺は小さく息を吸い、真正面から彼を見上げた。
「運じゃありません。ちゃんと……戦って勝ったんです」
言葉だけでは足りないと感じ、俺は腰の剣を軽く抜き、正眼に構えた。
身体強化を発動させた瞬間、全身から力があふれる。
ガレスが目を細めたその時――ギルド長の低い声が響いた。
「もういいだろう」
場の空気が凍りつく。
ギルド長は立ち上がり、ホール全体を睨み渡した。
「実績と証拠は揃っている。文句があるなら同じ成果を持ってきてみろ」
冒険者たちは押し黙り、やがて視線を逸らす。
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張り詰めた空気がようやく緩むと、マリーナさんが微笑んで俺に言った。
「よく頑張りましたね、アレンくん。まだ小さいのに、立派です」
「……ありがとうございます。ぼく、もっと強くなります!」
胸を張って答えると、マリーナさんの笑みが少し柔らかくなる。
【創造ポイント:+1】
俺は心の中で大きく息を吐いた。
ギルドで認められた。冒険者としての道が、確かに広がった。
(学園と冒険者活動……どっちも全力でやってみせる。俺は必ず、この世界で強くなるんだ)