10.学園の日常
王立第二学園に通い始めて、ようやく日常のリズムが掴めてきた頃。
俺は教室の窓際に座り、春の日差しに照らされる校庭を眺めていた。
この学園は、下級貴族の子弟を中心に集めて教育する場で、貴族として必要な教養、戦場での立ち回り、そして魔法まで幅広く学べる。
ちなみに、王族や上級貴族の師弟が通う王立第一学園というものもあり、第二学園の成績優秀者が第一学園に編入するケースもあるそうだ。
た。
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「さて、今日は計算問題を扱うぞ」
教師が黒板に長い数式を書きつける。
掛け算と割り算が複雑に組み合わされた問題だ。
「この問題を解ける者は……カイン、やってみなさい」
呼ばれたのはカイン・ドルファス。
子爵家の三男で、いつも自信満々な態度を崩さない。
立ち上がったカインは、ちらりと教室の隅に座るセリーヌを見やった。
セリーヌ・アルジェント男爵令嬢。
金色の髪に澄んだ瞳、穏やかな物腰。
入学早々から男女を問わず人気を集めていた。
そして、カインが彼女に好意を寄せているのは誰の目にも明らかだった。
「答えは……二十四、です!」
カインが力強く答えると、クラスの一部から「おお!」と小さな歓声が上がる。
だが教師は冷ややかに首を振った。
「残念、不正解だ……アレン、お前ならどうだ?」
「はい」
俺は立ち上がり、黒板に目をやる。
前世の知識と、転生後に叩き込まれた計算力が自然と頭の中で答えを導き出す。
「正解は三十二です」
「うむ、正解だ」
教師が満足げに頷く。
「さすがだな、アレン」
教室にざわめきが広がる。
セリーヌがぱちぱちと手を叩き、柔らかく微笑んでくれた。
「すごいですわ、アレンさん」
「いえ、大したことではありませんよ」
俺が照れくさく返すと、女子生徒たちが口々に「かっこいい!」と囁き合う。
その一方で、カインの顔は怒りと羞恥で真っ赤になっていた。
机を握りしめ、爪が食い込むほど力を込めている。
(……なるほど。セリーヌにいいところを見せたかったのか。だが、あれじゃあ逆効果だな)
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■昼休みの嫉妬
昼休み。
カインが取り巻きと話しているのが耳に入った。
「なあ、セリーヌ嬢も見る目がないよな。あんな騎士爵野郎に笑いかけるなんて……」
「でも、答えは完璧でしたし……」
取り巻きが言い淀むと、カインは舌打ちし、俺に鋭い視線を投げた。
「次は武術だ……。俺の方が上だってことを証明してやる」
俺と視線が合うと、彼はふんと鼻を鳴らし、踵を返した。
(ああ、完全に意識されてるな。まあ、相手にするだけ無駄かもしれんが……)
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午後の武術の授業。
武器棚から木剣が配られ、教師が告げる。
「今日は模擬戦を行う。実戦を想定し、技術と度胸を鍛える」
そして、最初に呼ばれたのは俺とカインだった。
「アレン・バルトシュタイン。そして……カイン・ドルファス」
教室がざわつく。
「きた!」「あの二人がやるんだ!」
カインは木剣を肩に担ぎ、俺を睨みつける。
「ようやくだな。今度は俺の力を見せてやる……セリーヌ嬢の前で!」
セリーヌは少し不安げに俺を見ていた。
俺は木剣を構える前に、そっと鑑定を使った。
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【カイン・ドルファス】
年齢:6歳
身長:124cm
体重:26kg
誕生日:夏の月・第2週・5日目
血液型:B型
職業:学生(剣術科)
魔力量:9/9
攻撃力:14
防御力:11
俊敏:12
魅力:10
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(子供にしては悪くはないと思うが……俺からすれば相手にならないな)
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「始め!」
教師の号令とともに、カインが猛然と突っ込んできた。
「おおおっ!」
木剣が大上段から振り下ろされる。
だが軌道は単純で、力に任せた大振りだった。
俺は一歩横に避け、軽く木剣の柄で脇腹を叩く。
「ぐっ……!」
カインがたたらを踏み、そのまま崩れ落ちた。
「勝者、アレン!」
「きゃーっ!」
女子たちが一斉に歓声を上げる。
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一方のカインは、地面に手をついたまま顔を真っ赤にして吠えた。
「すごい!」「強すぎ!」
女子たちが口々に声を上げる。
「やっぱりアレンくんだわ!」
「かっこいい!」
「頼もしい……!」
一斉に俺を見つめる視線。
セリーヌも小さく目を見開き、ぱちぱちと拍手を送ってくれていた。
俺は木剣を下げて、照れくさそうに微笑む。
「まだまだです」
その瞬間――。
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【創造ポイント:+1】
【創造ポイント:+1】
【創造ポイント:+1】
【創造ポイント:+1】
【創造ポイント:+1】
【創造ポイント:+1】
【創造ポイント:+1】
【創造ポイント:+1】
視界の端に、怒涛の勢いで青い文字が流れ出す。
途切れることなく続く「+1」の列。
(……おいおい、こんなに? 女子そぼ全員分ってことか?)
数えきれないほどの【+1】が積み重なり、数十はくだらない。
胸の奥で力が渦を巻くように膨らんでいくのを感じた。
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一方のカインは地面に手をつき、顔を真っ赤にして震えていた。
「も、もう一度だ! 今のは不意打ちだ!」
「そこまで!」
教師が制止する。
カインは唇を噛みしめ、悔しさを押し殺すように立ち上がった。
だがセリーヌの視線は俺に注がれたままだ。
「アレンさん……本当に、すごいです」
彼女の柔らかな声が、さらに俺の心をくすぐる。
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(……やっぱり、この世界で無双していくのは悪くないな)
俺は胸の奥で湧き上がる熱を噛みしめながら、ひとり小さく笑った。