卒業式
「今すぐ避難しろ!」
それは皆が何が起きたのか分からずに放心している中で聞こえてきた。声のする方を全員が振り返る、そこにいたのは
「魔法師だ!Sランクの魔法師が助けに来たんだ!」
一人のクラスメイトがそう大きな声で言う。その言葉を聞いてクラス全員が喜びの声を上げる。魔法師を見て、助かったんだと安堵する者や、テレビで見たことがあると心に余裕が生まれる者、しかし当の本人は必死な顔で大きな声を上げた。
「早く逃げろ!!!」
2回目は違った。その場にいた生徒は只事では無いと再認識させられ、次は無言で全員が教室から逃げた。俺も皆に着いていくように急いで教室を後にした。
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Sランク魔法師はスコア:4.0以上の魔法師を意味する。
『スコア:』は人間や魔獣の魔力の強さを表した指標である。特殊な機械や魔法を使ってその強さを知ることができ、一般的な人のスコア:は約1.0とされていて、魔法師の場合
2.0〜がCランク
3.0〜がBランク
3.5〜がAランク
4.0〜がSランク
となっている。スコアは高ければ高いほど0.1の差が大きくなっていて、1.0と1.1にほとんど差は無いと言われているが3.9と4.0では圧倒的な壁があると言われている。
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あの事件から数ヶ月が経った。
事件による犠牲者は1人で、怪我人はその殆どが避難中の転倒などで軽傷者のみだったことから、世間では奇跡だと言われた。
その背景には魔法師の活躍があったからだろう。都心部という事もあり、近くにいた彼は警報の音が鳴ってすぐに駆けつけてくれたらしい。
クラスメイトの死から立ち直れず精神的な障害を負った者も少なくは無かったが、それでもあれだけスコア:の高い魔獣による被害を考えると、やはり奇跡だったのだろうと思う。
しかしその事件で世間が騒いでいる中、俺はあの日に使った謎の魔法が何なのかずっと不思議でたまらなかった。
「一体この魔法は何なんだ…」
手から無色のそれをフワフワさせながらぼうっとする。
『…さん!四条白さん!』
俺は名前を呼ばれていることに気づくと焦るように
「は、はいっ!」
と返事をする。今日は中学の卒業式だった。急いで壇上へ上がり卒業証書を受け取る。先生は分かりやすくこちらを睨んでいる。少ししてフっと笑うと
「卒業おめでとう」
と言った。
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卒業式が終わり、天川がこちらへ向かってきた
「お前、なんでずっと黙ってたんだよ」
天川が笑いながら言う。俺は正直に魔法のことを考えていたんだと言うと、天川は
「まさか本当に俺と同じ高校に来るとはなー その魔法のおかげで」
と揶揄うように言った。心の中で『その通りだな』
と思いつつも冗談ぽく
「実力だわ」
と答えた。
そして心の中で、これが夢では無いことを確認するかのように呟いた。
『俺は魔帝の付属高校である「イルファ魔法大学付属魔法第一高校」へと進学したのだ』と。