唯一の魔法
「なぁ、お前達卒業したらどうすんの?」
生徒の1人が問う。
「私はどこでもいいけど、回復魔法得意だし医療系の高校かなー」
「もちろん俺は魔法科だな!俺は魔帝の付属校目指してっから!」
「俺は推薦」
「ずりぃー!」
クラスの中でそんな会話が飛び交っている。あと数ヶ月もすれば冬が終わり、春が来る。中学3年生の俺達はあと少しすれば卒業して高校へと進学する。
進学すると本格的に魔法の授業が始まり、魔法を使ったスポーツや、実際の魔法師と同じように魔獣との戦闘訓練を行うなど様々なイベントが待っている。皆があと少しで始まる高校生活に胸を躍らせソワソワしている。
しかしそんな中、俺は一人憂鬱で仕方がなかった。
「いいなぁ…」
クラスに響く皆の声を聞きながら、ふとそう呟く。
※※※※※※
四条 白は日本でも有数の魔法一家である四条家の生まれである。
しかし白は普通の中学生と同じように魔法を扱えるもののその才能は平凡で、殆ど全員が優秀な四条家の中では恥晒しと言われている。
ずっと努力をして、四条家の一員として認められる様に頑張り続けた。それでも神は彼を救うことはしなかった。
「高校どうしようかな…」
少しずつ卒業が近づく中、ただ一人夢を諦めた白は考えることすら嫌になって何も決めずに時間だけが過ぎてしまっていた。
※※※※※※
「どうしたんだよ、シケた顔して」
学校で唯一友人と呼べる天川 聖斗が微笑しながらそう問いかける。
「いや、高校どうしようかなって」
本心を答える。正直自分で考えるのも嫌になっているし、いっそのこと天川が決めてくれればいいなんて思っていた。
すると天川は冗談ぽく
「お前も俺と同じところ来いよ」
と言った。
天川は学年でもトップの成績を誇り、推薦で魔帝の付属校への進学が決まっている。
魔帝は日本の中でも頭を抜けて難関と言われている5つの魔法大学の事を指している。
そんな天川にからかわれた俺は呆れながら
「じゃあそうするわ」
なんて冗談を言う。
そうして天川のたわいの無い話を続けながら、心のどこかで天川を妬み、自分の才能の無さと不甲斐なさに腹を立てる自分がいた。
そんな中警報が鳴った
『魔獣警報です。渋谷駅周辺でスコア:3.8の魔獣が発生しました。近くにいる人は直ちに避難してください。繰り返しますー』
警報を聞いてクラスが騒ぎ出す。近くで発生した魔獣がこちらに向かってくる事を心配する生徒達が窓に駆け寄り渋谷駅の方を見る。俺もそれにつられふと窓の方を見る。その瞬間だった-
大きな爆発音と共に空が真っ白な光に包まれる。いきなりの光に目が眩み、目を瞑る。何が起きたか分からない。俺は目を開ける。それと同時にクラスメイトの女子の悲鳴が聞こえた。
「きゃああああっ、ハルトが、ハルトがっ…」
そこには下半身を抉られ上半身だけが残ったクラスメイトの横たわっている姿があった。教室にはまるでビームが貫通したかのような丸い穴が空き、女子生徒の悲鳴が教室に響き渡る。
なにが起きたのか分からず放心状態の者、恐怖でしゃがみ込み泣き出す者、焦りと不安で教室から逃げ出す者、混乱の中、教室に残っている生徒の全員が横たわるクラスメイトを見ている中、ふと外を見た俺だけがあることに気づいた。
「外に…」
思ったことが口に出た。
窓からドラゴンの様な見た目をした魔獣がこちらへ向かってきているのが見えたのだ。
俺の言葉を聞いて横たわるクラスメイトを見ていた皆が窓の外を見る。皆が窓の外の魔獣に気づくと同時に魔獣は口を発光させ咆哮し、先程起きた爆発と同じ光に包まれる。
俺は目を瞑りながら咄嗟に光に手を伸ばす
今度は爆発音が聞こえず少し時間が経っても何も起き無かった。不思議に思って俺は目をゆっくりと開ける。
すると教室の窓側の壁が無くなっていたにも関わらず、俺の伸ばした手から後ろ側が無事であることに気がついた。
俺を含め皆何が起きたのか分からない中、天川が俺を驚いた様な目で見ながらこう言った
「白い…魔法…?」