溺愛の始まり
エリック様がジッと私を監視するように見つめている中、私はスープを飲んでいた。
そもそもエリック様がこの部屋にいたのは私に食事をさせるのが目的だったようだった。
「もういらないのか?」
「いえ……。」
「パンは?」
「いただきます。」
このやり取り何度目かしら。
少しでもスープを飲む手を止める度、このやり取りが行われる。
そしてパンを食べる羽目になる。
いえ、良いのだけれど。
頭の傷も何もしなければ痛まない。
倦怠感はあるけれど体は元気なようでお腹も空いていた。
でもたくさんは食べられない。
「もういらないのか?」
「ええ……これ以上は食べられそうにありません。」
「そうか。」
そういうと私の前からスープの載ったお盆をひき侍女に渡すと、また私の側に座った。
「気分が悪くなったりしていないか?」
「はい。大丈夫です。」
「そうか。」
安心したように目を細めた。
別人格になってしまったように感じてしまうが、実はこれが本来のエリック様だ。
私や弟のアドニスには全く違った態度だったけれど、本当のところ彼は面倒見がいい。
これは学園でのエリック様の評価だ。
確かに彼はリーダー気質で面倒見がよく、事実下級生の人気は絶大で女性だけでなく男性からも慕われていた。
ただ、私には適用されなかっただけ。
それが今はどうだろう。
過保護なくらい面倒を見てくれる。
居心地が悪いくらいに。
「ローズ、他にも何かあったらすぐに俺に言って。」
頭に手を置くとスルと頭撫でられた、と思ったらこめかみに柔らかいものが触れた。
ちゅ
…………え?
目がこぼれそうなくらい見開かれたのが自分でもわかる。
勘違い?
でも今のは……
おそるおそるエリック様の方を見た。
私と目が合うとわかりやすく、しまったという顔をした。
(誰かと間違えた?)
そう考えるとしっくりくる。
「すまない、ローズ。驚かせた。」
慌てたように言う。
やはりね。
「でも俺たちは夫婦で、誓いのキスも初夜も済ませているんだ。これくらいは許してくれないか?」
そうだったかしら?!
初夜は済ませたというか、ただ過ぎただけというか……
エリック様は驚いた私の反応に困ったように微笑むと「駄目か?」と聞いて来た。
本当に私の記憶飛んだのかしら……
いいえ飛んだならまだいい。
私の記憶がすげ変わっている?
いいえそんな馬鹿な。
ダメと言うのも違う気がした。
結婚しているのは事実だもの…でも……
「ん?」
私の何か言いたそうな雰囲気にエリック様は伺うように私の顔を覗き込んだ。
ああ、自分に自信が持てなくなってきたわ……
コクリ
流されるように頷いてしまった。
「ありがとう、ローズ。」
ちゅ
またこめかみにそっと口付けされた。
頭には疑問符しか湧いてこない。
頭を抱えたくなる衝動を抑えるのがやっとだった。