エピローグ 女心は難しい
華やかなパーティーが開かれた。
ローズと結婚して初めてのパーティーに参加している。
主催はフォックス侯爵家とラグンドク伯爵家。
なんとライマン殿とリリーとの婚約披露パーティーだ。
ライマン殿はとっくに次の恋をしていたのだ。
リリーもアドニス殿に長らく熱を上げていたが、俺の学園卒業を期に諦めたらしい。
まあ……確かに脈はまったく無かったな……少しばかり責任を感じるが。
ライマン殿は継ぐ爵位はなかったがこれで伯爵家に婿入りが決まった。
リリーはまだ学園生だが卒業後は院に上がってまだ勉強をするらしい。
だから結婚はまだ先になりそうだと言うことで先に婚約披露パーティーだそうだ。
一通り挨拶を終えたところで、ローズは同じ派閥の面々に囲まれてしまった。
そしてふいに声をかけられた。
オウル侯爵家に嫁入りしたフローラ夫人だ。
俺と同じ派閥で尚且つ、ローズの学園時代の同級生だ。
そう思いにこやかに挨拶をした。
すると夫人はもじもじと照れ臭そうに言いにくそうに口を開けたり閉めたりしている。
「どうかされましたか?」
疑問を率直に口に出すと意を決したように俺に言った。
「もしお時間がありましたら、私をローズ様に紹介していただけませんでしょうか。」
「おや?夫人はローズと同級生ではございませんでしたか?」
夫人は「よくご存知で!」と少し驚いてみせると少し言いにくそうに声も小さくなった。
「ええ、確かに同級生ではあるのですが……優秀なローズ様とはなかなか同じクラスにもならず……派閥が違う事もあり……なかなかきっかけもなく……」
歯切れも悪く話し続ける。
学園は成績別にクラスが分かれる。
「実は恥ずかしながら同い年といえど、私ローズ様にずっと憧れていましたのよ。そうしてエリック様とご結婚なさった今!私と同じ派閥のエリック様なら紹介していただけると思いましたの!」
自然と顔が緩む。
ローズが褒められるとやっぱり嬉しい。
「ええ、ええ、勿論かまいませんとも!」
快く返事をする。
「あら、何が勿論なのかしら?」
ふわりと耳心地のいい声がした。
「まあ!ローズ様!」
夫人が歓喜の声を上げた。
夫人の声が小さかった為聞き取ろうと必死になっているうちにローズが戻っていた事に気付かなかったようだった。
「ローズ、戻っていたのか。ちょうど君の話をしていたんだ。」
「まあ、フローラ夫人と?」
「ローズ様!私を覚えて……?!」
感動に打ち震える夫人に「あら当然ですわ。私たち同級生ではないですか!」
とローズが返すと夫人は嬉しそうに顔を赤らめた。
一通り話し終えたところで夫人とも別れる。
ローズも懐かしそうに学園の話に花を咲かせていた。
同級生との会合に力を貸せたようで俺も少しばかり満足だ。
ローズ……と声をかけようとしたらローズの方から話しかけてきた。
「よく私とフローラ夫人が同級生だとご存知でしたね。」
「え?ああ、まあね……」
曖昧に濁しながら返事をする。
俺が「ローズと同級生だ」と言った事を夫人に聞いたらしい。
実はローズと婚約を結んだ瞬間からローズの同級生にどんなヤツがいるのか気になって学園、院に至るまで全員把握済みだ。
だがそんな事は流石に言わない方がいいだろうな。
「でも彼女の他にも私の同級生は居りましてよ?」
ああ、すべて把握してる。
「同じ派閥だしな。だから頼まれたんだ、フローラ夫人にローズを紹介して欲しいって。学園時代は話す機会が無かったようだったからね。」
なんとか話を逸らす。
「あら!流石はエリック様!お優しいわ!いえ面倒見が良いというべきかしら!」
うん?
なんだその過剰な褒めっぷりは……
顔はニコニコ朗らかなのに、薄ら寒いのは何故だ。
怒ってる?
まったく心当たりはないがローズが怒るなんて……
ということは気付かぬうちに俺が何やら粗相をしたのだろう。
「済まない……ローズの同級生なのに何か失礼をしてしまったのだろうか。」
「まあ、一体何を。まるで私が怒っているみたいではないですか。ただ年上嫌いが治って良かったと思うばかりですわ。」
「年上嫌いが治った?」
「ええ、ええ、随分親密そうに、楽しそうに話されていたので、すっかり治ってしまわれたのでしょう!」
ローズはずっと笑っているというのに纏う空気はひんやりしたままだ。
何が言いたいのかもよくわからない。
こんなローズは珍しいな……
俺が少し目を丸くするとローズは誤魔化すようにフイと目を逸らし、話を終わりにする。
思わずローズをまじまじと見つめてしまう。
ふと一つの可能性が頭に湧き上がる。
フローラ夫人はもじもじと恥ずかしそうに声が小さくなって、俺は小さくなった夫人の声を聞くために少し距離が近かったかもしれない。
傍目には親密に見える……かも……。
でもまさか……
いやでも……
いやでも!
「…‥なんですの……?」
じっと無言で見つめる俺を上目遣いでローズが見る。
そばをトレイにワインを乗せた給仕が通る。
俺は素早くワインを取ると煽るようにワインを飲み干した。
「なんという飲み方を!」
ローズが驚いて顔色を変える。
「酩酊したい。」
「ええ?!」
「ははは!!」
いきなり笑い出した俺にローズはぎょっとする。
だってこれを笑わずしていられようか。
俺のやっていた事は的外れで無駄だったって事を今思い知ったのだから。
(年下のリリーは良くっても……年上は許せないって事か!!)
「ふふふ、くっくっく!」
「いけないわ……エリック様、今日はもう失礼いたしましょう。」
すっかり青ざめたローズが心配気に言う。
そうだな!俺もそうしたい。
「エリック様、歩けますか。すぐ馬車を呼んでもらいますから休憩室に……」
気遣わしげに俺を見上げるローズから目が離せず、ニヤニヤが止まらない。
早く2人きりにならないと嬉しくて今すぐ抱きしめてしまいそうだ。
「やきもち可愛い!」って叫びながら。




