やりなおし
何かを振り払うようにエリック様が頭を振る。
そうしてひとつ息を吐くと決心したように私に顔を合わせた。
「俺は……ローズがローズなら何歳でも構わない。年上でも年下でもどちらでもいいんだ。今更信じてもらえないかもしれないけど、それでも言わせてほしい。」
私は黙って目の前のエリック様を見つめることしか出来ない。
私が何も言わないことを確認したように軽く頷くとまた口を開いた。
「俺は初恋しか知らない。そして俺の初恋はローズ、君だ。君なんだ……」
私……?
私の目はこぼれそうなくらい見開かれている。きっと。
「他の令嬢の事なんて考えられない。いつだって君のことだけだ。」
到底鵜呑みにできない自分がいる。
でも……エリック様の言葉は真摯だ。
混乱している私を見て、何かが折れてしまったようにまた目が逸らされてしまう。
「馬鹿みたいに君に追いつくことだけを考えていて……でも君は年上でなんでも出来て完璧で……でも俺は5つも年下で……だから……その……」
言いながらどんどん顔を背けて行く。
「だから……結局…………不貞腐れてただけなんだ……俺……」
「えっ」
思わず声を出して驚いてしまった。
ごめん……
消え入りそうな声でエリック様が謝る。
顔はすっかり背けられどんな顔をしているのかこちらからは全くわからない。
でも不貞腐れてただけって……
不貞腐れて何年もそっぽ向いていたなんて……
ふふ
こんな時だというのに笑い声が口から漏れた。
だって……
今度はエリック様が驚く番だった。
笑い出した私に背けていた顔が戻ってくる。
酷く驚いた顔に思わず肩の手を振りほどくと彼の胸に飛び込んだ。
彼の体が固まる。
「私たちは両思いという事でよろしいでしょうか?」
そう聞くとまた間の抜けた声が聞こえる。
それでも無意識のように私の体に彼の手がまわり抱き寄せられる。
ふふふ
笑いがあふれて止まらない。
だって可愛いわ。
顔を埋めた胸を逞しいと感じながらこんな事を思うなんて矛盾している。
でも仕方ないわ。
こんなにも可愛らしいのだもの。
「ローズ。両思いって言った……よな?ローズも俺を……」
私は彼の胸から顔を離し見上げる。
「ええ、私もエリック様と全く同じ気持ちです。」
「そんなにも?!」
エリック様は瞠目した。
「……そうですよ?」
私の返事はこれでいいのかしら……
少し予想外のエリック様の返事に不安になる。
エリック様はそうか……そんなに……と呟きながらまたぎゅっと私を抱き寄せると言った。
「ローズ、俺やり直したいんだ……。」
何を?とは聞かない。
きっと
同じ事を考えている。
エリック様はそっと立ち上がり私も立たせると服についた土を払ってくれる。
そして向かい合って立つと厳かに言った。
「病める時も健やかなる時も、悲しい時も楽しい時もいつでも俺と一緒に居て、離れている時でも俺の事いつも思っていてくれ。命が尽きても君を愛し続けるから君もそうしてほしい。誓いの口付けをもってそれを承諾とする。」
厳かなのは最初だけだった。
途中からはペラペラと捲し立てるとあっという間に口が塞がれた。
ああ、よかったわ。
塞いでくれないと吹き出してしまうところだった。
繰り返す口付けに、拗れに拗れていた私達の関係がホロホロと解けていく。
愛しい……
重ね合う唇に何故か涙が溢れる。
本当に……幸せだわ……
本当に……
……
………
「は……エリック様……も……んっ……」
何度も終わらない口付けに息が苦しくなって離しても離してもらえない。
全速力で走った後なのだけど……
さっきも立ち眩みしたのだけど……
ああ……
もう駄目だわ……
「え?ローズ?!」
かくんと力が抜けた私に驚いた声を上げた。
「……少し……息を……」
言い終わる前に抱き上げられると、「大変だ!」と言いながらとてつもない勢いで屋敷に戻る。
少し休憩させて欲しかっただけなのだけれど、の声はまったく無視され医者を呼ばれた。
ベッドに押し込まれ、エリック様の変わらない過保護に呆れたような安堵するような不思議な気持ちのままクスクスと笑いが止まらない。
本当に本当に私、幸せだわ。




