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年増令嬢と記憶喪失  作者: くきの助


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王立植物園

植物園は王立公園の中にある。

公園は下位貴族や平民の憩いの場で、公園内を公爵家の馬車が通れば目立つと言うもの。

エリック様が降り立った瞬間黄色い歓声が上がった。


エリック様は全く気にする様子もなく私をエスコートしながら植物園の入り口に向かうと、入り口前にセバスと一緒に待機していた職員に挨拶をし中に入った。


慣れたものなのね……


黄色い歓声など今更なのだろう。

慣れるほどに日常なのだ。



「ローズ!異国の花が置いてある場所はこっちだ!そこからまわろう。」


心なしか声がはしゃいでいる。


「気候が違うとこんなに色や形が変わるものかと、きっと驚くぞ!」


そう言いながら歩みが早くなっている。

思わずくすくす笑うと、エリック様が「ん?」と一言でどうして急に笑い出したのかを問うた。


「私も楽しみで、つい。」


はしゃいでいる姿を見て、とは言えない。


「そうか!」


エリック様は嬉しそうに破顔すると、歩みを遅くした。

少し急いていた事に気づいたらしい。


その様子にもつい口元が緩む。


公園や植物園に上位貴族があまり行かないのは、自分の庭で十分事が足りるからだ。

ここの植物も大抵は公爵家の庭にもあるだろう。


「見慣れた植物でも場所が違えば印象が違って見えますね。」


「まあ……そう言われると新鮮に見えるかな。」


まあ。本当にそう思っているとは思えないわ。


思わず吹き出すとエリック様は「そこで笑うなよ。」とわざとらしく拗ねた声を出した。


こんなたわいのない話も楽しいのは私もはしゃいでいるのかしら。

何もかも忘れてしまいそうになる。



「エリック?」


すると不意に声がかけられた。



「……と……ロー……ズ様……」


あ、と思う間にパッとエリック様の背中に隠されてしまった。


あれは……


「タイオス!先日は結婚式に参列していただいた事感謝する。しかしながら今日は何故にこんなところに。」


エリック様の仲の良いご友人のタイオス様……同じ派閥のフォックス侯爵令息の四男で、私の幼馴染のライマンの弟。


そうそうライマンは確か……


「兄が今日はここで仕事だというのに、忘れ物をしたようだったので届けにきたんだ。」


ライマンは卒業して王宮で働くことになった。

植物の研究がしたいとずっと院でも頑張っていたから思い通りのところで働くことが出来て喜んでいた。

植物の研究が主なら植物園が仕事の日があっても当然ね。


ライマンの幼馴染でありながら、年が離れていたせいか弟のタイオス様とは正直接点はなかった。

とはいえエリック様とは同級生なのだけれども。


ただ彼の事は少し苦手に感じている。

昔仕立て屋で若い格好を笑われた事が蘇る。

あの時に彼は居た。


だからといって挨拶もしないと言うのは。

そう思いエリック様の背中から出ようとするが、彼の手は思いの外強い力で背中にとどめられる。


(年上の妻が恥ずかしいから見せたくないのかしら……)


決して私を背中から出そうとしないエリック様にひとつのことが頭をよぎった。



「君と話したい気持ちもあるのだが、見ての通りデート中でね。ただ新婚早々デートなんて妻が恥ずかしがるからわざわざ休園日に来たんだ。だから今日は新婚夫婦に免じて会わなかった事にしてくれないか?」


「ははは……これはこれは無粋な事をしたな。では邪魔者は消えようじゃないか。また会おう。」


呆れたような乾いた笑い声を上げそう言ってタイオス様はあっさり去っていった。


「悪い、あれは君の幼馴染のライマンの弟。フォックス侯爵家四男のタイオスだ。あまり交流はなかったと言っていたが同じ派閥だから実際は俺にはわからん。悪いやつでは無いんだが、少々口が悪い。話さん方が安全だろ。」


私が記憶喪失だから気を遣ってくれたのね……

安堵と罪悪感が同時に訪れる。


すると耳元でボソっとエリック様の低い声が響く。



「悪ぶってるけど重度のブラコンなんだぜ。」



ビクッと体が震え思わず耳を抑えた。


エリック様が腰を屈めて私に耳打ちしたのだ。

思わず声の主を見ると彼は「意外だろ?」とヒヒッと笑った。


じわじわと顔が熱くなっていくのがわかる。

どうしたらいいの。

隠せそうにない。



「ん?あれは……」


エリック様はそういうとタイオス様が居たあたりに歩いて行くと何かを拾った。


「これ、届けものなんじゃないのか?」


紙が数枚落ちていたらしい。

エリック様はじっと紙に目を落とすと「やっぱりだ。」と言いながらキョロキョロとあたりを見回す。


けれども周りに人はいない。


「仕方ない。ちょっと行ってタイオスじゃないにしても誰かに事付けてくる。すぐ戻るからベンチに座っていて。」


そういうと後を追いかけるようにタイオス様の行った方向へエリック様も軽やかに走っていった。


私はそばにあったベンチに座ると両手で顔を抑える。


「よかった。こんなみっともない顔見せずに済んで……」


小さく呟いた。


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