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恋愛小説短編集

幼馴染が暴走気味なんで落ち着かせたい

「私、悠斗のことが好きかもしれない」


「は?」


 下校中、開口一番幼馴染の小森彩音こもりあやねから突然の告白を受けた俺こと沢口悠斗さわぐちゆうとはその一言を発することしかできなかった。

 しかし俺は知っている、この幼馴染は物事を勘違いした状態で事を進める癖があることを。


「なんだよ、藪から棒に。とりあえず落ち着けよ」


「これでも落ち着いているんだけどなー」


 普通逆じゃない? 告白するシーンって告白側はもっとこう――慌てるものじゃないのか?

 とにかく彩音の本心を探るべく相手の動向をうかがう。

 うん、いつもの美人な幼馴染だ。若干色素の薄いセミロングの髪に吸い込まれるような虹彩を持つ瞳。

 小さいころから可愛いとは思っていたが、彼女が大人になるにつれてこうも美形な顔つきになるとは思いもしなかった。

 彩音は驚きを隠せない俺の表情を見て『してやったり』といわんばかりの笑み。

 おいばかやめろ。笑うと余計に可愛くなるんだよ。告白直後という状況整理もできていない中で空気に流されてしまうのはよくない。


「だって悠斗、私に優しくしてくれるじゃない? それも一回や二回じゃなくて今までずっとだよ? もしかして私、悠斗のことを好きになりだしているかも? って勘違いか本心か分からない状態が続くのも無理がないってかさ」


「その優しく――の部分がよく分からないんだよな。普通にしているだけじゃん」


 幼馴染の友達に優しくするのは普通だろとは思う。

 しかし今の会話で分かったこともある。これは本当の告白ではないことだ。彩音自身その気持ちが恋心かどうなのか判別出来ていないらしい。


「優しくしてるって具体的になんだよ。今後は気を付けるから教えてほしい」


 彼女は笑みを絶やさず俺と同じ歩幅で歩く。


「ふふっ。何それ。これからは優しくしませんって宣言?」


「そんなんじゃないけど――後学のために?」


 彩音はその優しさというものが何のことを指すのか教えてくれた。

 例えば俺が今車道側を歩いているのもそうだし、歩幅を合わせてくれているのもそうだという。

 小学生だったころ男子のイジメから守ったことや、『悠斗お前女子と遊んでんのかよー』とからかわれても疎遠にならなかったこともそうらしい。

 男子のイジメの件はあれだな。おそらく好きな子にするやつだろう。

 中学に上がってからも適切な距離を保ちつつ接していたのも優しさの一つだという。

 そういえばあったなそんなこと。その頃の俺は若干中二病をこじらせていてメンタルが風紀委員風になりかけていた。

 つかず離れずという距離感は確かにあった。

 そう考えると俺は悪い意味での優男でもあるのかもしれない。

 俺が彩音の近くに居過ぎたせいで、彼女が本来送るべきだった青春を潰してきたのかもしれない。


「私、悠斗といて後悔したことないからね? そこだけは勘違いしないでほしいな」


 まるで思考を読まれたかのような一言を彩音が発した。

 俺自身は彩音のことをどう思っているのだろうか。彼女は容姿端麗で頭脳明晰、運動もそれなりにできるし、性格もいい。

 料理も上手いがこれは努力で勝ち取ったものだということを俺は知っている。彩音の自作の弁当が失敗作だらけだったときはよくおかずを交換したものだ。

 あれ? スペック高くね? 欠点は球技が苦手という点くらいだ。

 それは高校生になった今男子どもが噂する美少女の一人になっているのも頷ける。


「で、悠斗は私のことをどう思っているの? もし私の気持ちが恋心だとしても、一方通行なのは嫌だし」


「美人で凄い幼馴染。以上。今の段階だと気持ちについては俺もよくわからん」


 彩音は『そっか……』とつぶやきながら下を向き、歩を進める。

 しかし彼女は意を決してこんな話を持ち掛けてきたっていうのに、何も伝えずに話を切り上げて終わらすのはよくないな。


「本当に彩音のことを凄いと思っているぞ。料理は上手いし、勉強会も毎回助かってる。ありがとう」


「――うん、どういたしまして」


 彼女は顔を上げ、前を向いて歩きだした。


「俺も彩音のことを少なくとも友達以上だと思っている」


 これは本心だ。

 もし他の人が相手なら彩音相手にしていることと同じことをするだろうか? いや、しない。

 彼女の表情がまるで花がぱっと開いたかのように明るくなった。


「じゃあさ! ――その、お試しでちょっと付き合ってみたりするのとか、どうかな?」


 その問いに対する答えはもう決まっていた。


「いや、駄目だ。――ごめん、言い方が悪かった。付き合うならきちんと付き合いたい。中途半端は嫌だからもう少し時間をくれないか?」


「プラス十点」


 何の加点だよ、それ。


「悠斗に対する好感度ポイントね。今ので増えちゃった」


 さらっと心を読むし。

 なんだかんだで十年以上幼馴染をしているだけのことはある。

 近々イベントもあるし誘ってみるか。


「そういえばそろそろ夏祭りが行われるだろ。一緒に行かないか?」


「何それ、デートのお誘い?」


 ここで及び腰になれば男が廃るってもんだ。

 いいぜ、言ってやるよ。


「ああ、そうだよ。返事は予定とか」


「――行く!」


 めっちゃ食いつくな。もう少し落ち着いてほしい、暴走気味なんだよ。

 間違いなくこれはデートのお誘いだな。お試し恋人を断っておいて何やってんだかという気持ちもあるが、彩音は俺らの関係を一歩進めたいと努力したのだ。それを無碍に扱うようなやつにはなりたくない。


「今回は現地集合にするか? そっちのほうがデートっぽいだろう?」


「いいね! その案に乗った!」


 ――夏が始まる。

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