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ぼくは殿さま

作者: 雉白書屋

「おいおい上田、また遅刻か。早く席に着きなさい」


「あ、はい、すみません、先生……」


 今日も遅刻。昨日も遅刻。その前も多分遅刻。遅刻続きで先生も呆れるだけでもう、ぼくの事を怒らなくなった。……のはいいんだけど


「うぃー、遅刻の上田」

「サボり魔だ」

「サボリマン!」

「殿さま上田」

「殿さま?」

「ああいうのを殿さま出勤って言うんだよ」

「殿さま! 上さまー!」

「ははははは!」


 からかわれても言い返せない。そうだよ、確かにぼくは遅刻した。でも、眠いんだから仕方ないじゃないか。むしろ、みんながちゃんと時間通りちゃんと来ているほうが不思議だ。

 ぼくって他の人よりも、たくさん眠らなきゃダメな体質なのかな?

 まあ、だとしても遅刻していい理由にはならないって言われるんだろうけど……。

 よし、今日は早寝して明日こそは!



 と思っていたのにまた遅刻。あーあ、教室に入るの嫌だなぁ……。


「あ、殿さま来た!」

「馬鹿! いらっしゃっただ!」

「おいでになっただろ!」

「どうでもいいよ! 伏せろ!」


 嫌だなぁ……いや、本当に嫌だな。みんなして机に突っ伏して、新しいからかいかた?

 でもこれはさすがに……。


「ねえ、先生! さすがにこれ、ひどいんじゃないで……え? 先生まで」


「は、はい? どうかなさいましたか、お殿さま!」


「え、あの……」


「な、何か、ごごごご御所望でも……?」


「え、あの、じゃあ、みんなに普通にするように言ってもらえませんか?」


「は、ははぁ! 聞いたなみんな! 普通にするんだ! ほら! 普通だ普通!

顔を引き締めるな! シャツもズボンにしまうな! 普通の小学生らしくしろ!」


 え、ええ……? みんな変だ。おかしいよ。

 でも変なのは態度だけじゃない。ぼくの机、ピカピカに磨き上げられている……。

 ここまでするかな? 先生は、ぼくの願い通り普通に授業を進めているけどチラチラと、ぼくを見るあの目。本気で恐れているような感じ。

 一体、どういうつもりなんだろう? ただの遊び? それとも、ぼくを戸惑わせて反省させようと?


 と思ったけど多分違う。だって他のクラスや先生たちも、ぼくの事を殿さまって呼ぶんだ。

 まさか廊下を歩くだけでみんなが土下座するとは思わなかった。こんなの遊びでするはずがない。……ということはそうか、ふふふっなるほどね……。


 給食の時間。ぼくはみんなに命令し、デザートのプリンを集めさせた。

 絶景、絶景。クラスの人数分だけあって素晴らしい光景だ。

 でもさすがに食べきれないので可愛い子から順に渡していく。


「だーるーまーさんがこーろば……ない! 不屈の意思!」

「あ~プリキュッキュキュ!」

「これ? シンプルチンコです」


 それから面白いやつ。一発芸大会を開き、ぼくを笑わせた人から順にプリンを渡す。

 普段、意地悪してくる奴らには渡さない。それどころか床に座らせ、そこで給食を食べるように命令した。

 なんて、ちょっと調子に乗っちゃったかな? でもいいよね。面白いやつも可愛い子もテレビに出れたんだろうから。

 そう、これはドッキリ番組だ。

 だから番組が面白くなるために、こうして調子に乗ったように見せた方がいいんだよね。うん、ぼくって健気だなぁ……あ、そうだ。


「もう肩は揉まなくていいよ、さ、どいてどいて」


「はい、殿! おや、どちらまで!」


「ああ、ぼくは眠い。保健室で寝ることにする。構わないだろう?」


「は、ははぁ! でも、授業は、先生になんと」


「んー? 『殿』と『先生』どちらが偉いかは馬鹿でもわかるよねぇ? 文句言われようがないさ。ま、気になるなら適当に頼むよ」


「ははぁ! では、某が手を打っておきまする!」


「うむ、ええと、くるしゅうない」


 ……ふぅ、お殿さまも結構、疲れるなぁ。

 さてと、お、ラッキー。保健の先生は留守か。まあ、いたところでぼくに文句は言えないだろうけどね。

 今も撮られてるのかな? カメラどこだろう?

 ふふん、鼾かいた振りでもしようか。面白いやつをね。

 ああ……眠い……眠い……あ、起きたら……全部……夢……とかじゃなかったら……いいなぁ……。




 ……今、何時? 時計は、あ。まあ、ちょうどいいか。帰りのホームルームの時間だ。

 別にサボったってもう文句言われないよね。ぼくは殿さまだもの。

 なんてね。そろそろネタばらしの時間かな?


 ぼくは保健室を出て、伸びをしながらゆっくりと教室に向かった。

 さて、ドアの向こうで、ぼくを待つのはドッキリ大成功の看板……。


 ……ぼく?


「ははっ君、どうしたの? クラス間違えているよ?」


「え、あ、あの先生。ぼくの席に……その、ぼくが……」


「ん?」


 指さすぼくを、みんなが不思議そうに見る。

 そして、そのぼくそっくりの『ぼく』はこっちを向いてニッコリ微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかのオチ [一言] ひええー 怖いですね ミニドラマになりそうなテンポの良さでした
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