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風の国、トバラ

 一行は森を進み続け、ついに森を抜ける。

目の前に見える小高い丘を駆け上がり、その頂上へと立つ。

 目下に広がる崖、その先で広がる岩肌の見える山。その坂道に人類は人の道を開き、安住の家を作った。

 風の国トバラ。改め、山岳都市トバラへと辿り着いたのだった。その土地を踏みしめ、森の出来事を振り返りながら苦労を吹き飛ばすようにナダルが叫ぶ。


「やっと着いたあああ!いやー長かった長かった」


「ここが風の国かぁ、それで、これからどうするの?」


「買い出しだな。その後は冒険者ギルドに行く」


 冒険者ギルドは80年ほど前にできた冒険者の集まりだ。現在の冒険者は全員このギルドに登録されている。

 昔はモンスター由来の問題発生、冒険者が解決、報酬の支払い。が依頼主と冒険者の間のみで行われていたが、ギルドがその仲介を行う事で問題解決と報酬の支払いを厳格化させ、問題解決の適任者を見つけやすくしたのだ。

 公爵貴族から今日の生活もままならないスラム育ちまで幅広い冒険者が誕生したのも、このギルドができてからだ。


「ナダル!私お手伝いするよ!」


「お?じゃあそうだな、買い物でもお願いしようかな、できるか?」


「まかせて!」


 ナダルが必要物資と伝えお金を渡すと、ユイレは自信満々に露天街へ歩いて行った。

 シルフがユイレについて行ったため、ナダルは1人でギルドに向かう事にした。


「上のギルドで待ってるからな!」


「はーい!」



 ギルドの建物に入ると、ナダルは注目を浴びた。基本的にギルドにいる人間は現地住みの冒険者が大半を占めるため、外部から来たナダルは珍しいのだろう。

 依頼のために受付にいる筋肉質の男に話しかける。


「すいません、依頼受けれます?」


「おう、ここまで来れたならまあ冒険者だろ。これだな」


 依頼一覧を眺める。その内の1つに目を停めた。


「ミラル鉱石の採掘とエレイフルまでの運搬・・・これ冒険者を便利屋かなんかと勘違いしてないか?」


「それか、この辺の冒険者はエレイフルまで行かないし、つい最近ミラル鉱の取れる山をモンスターに占領されたんだが、トバラの冒険者じゃ歯が立たなくて困ってんだ。そうだ、外部のアンタなら倒せるんじゃねえか?報酬の1割を前金として出すぜ」


「え、前金出んですか。じゃあ受注します」


「達成後に依頼主と確認が取れ次第残りの報酬は渡すから、また来てくれよな」


 前金で報酬の1割にあたる10万ゼラ、金払いが良い仕事だ。鉱山への視察の為の計画を練りながら窓際の席に座る。

 窓の外に広がる街は人の交通がよく見えるため、ユイレとシルフが居ないか探す。案の定見つかるはずも無く諦めて計画の続きを練っていると、その場に居た冒険者の数名がナダルに近づいて来る。


「なあアンタ、外部の人間か?」


「はぁ、まあそうですね、ハヤバラ大陸のリリア村って所の出です」


「リリア村ぁ!?」


 冒険者の目つきが鋭くなる。何か地雷を踏んだかと考えていると、ナダルの肩を冒険者が掴み叫んだ。


「リリア村出身ならよぉ!ナダルさんの事教えてくれぇ!」


「はぁ?」


 風の国トバラ。ここ最近になって冒険者が急増した国。

 その背景には、勇者パーティがあった。

 トバラの周辺はモンスターが多く、それ故の被害も他の国に比べて多い。そんな住民達の抵抗意識を強くするキッカケが、風魔法を操り勇者パーティで活躍するナダルだった。

 風の国の名の通り、風魔法と共に生きる住民達に取ってナダルはスーパーヒーローのようなもの。憧れは力になり、冒険者志願者が増えたのだった。


「小さい時とか、友人関係とか!何でもいい!教えてくれ!!てか、見た感じ歳も近いし遊んだことあるんじゃねえのか!?」


「ああちょっと待ってくれ・・・ある日の夜、一人の少年の住むリリア村は突然ペルーダの群れに襲われ崩壊した。少年の家族も、家族同然だった村人達も皆死に絶え、少年はただ一人生き残った」


 トバラの冒険者達は聴き入る。ナダルは即席の自分語りを続けた。


「マーネイトで才能の壁に叩き落とされ、勇者パーティを追われた少年はたった今トバラのギルドで窓際の席に座り自分語りをしている、という訳だ、以上!」


 ナダルが自分語りを終えると、トバラの冒険者は黙り込んでしまった。

 数秒して、再びやかましい声で泣き叫び始め。共鳴するように周囲の冒険者も泣きだす。ギルドは男の鳴き声が響き渡る地獄へと進化した。

 男達は泣き止むと、今度はナダルに抱き着いて来る。


「ウワー!むさ苦しいわ!やめろー!」


「ナダルさぁん!俺はなぁ!俺はああ!!!」


 体格差も相まってむさ苦しい中、なんとか脱出しようともがくナダルと絶対に離す気配の無い冒険者によって更なる地獄が形成される。そこへユイレとシルフが、ナダルを探しにギルドへやって来た。


「ナダルー!お買い物終わったよ!・・・あれ?」


「お取り込み中みたいだねー。ちょっと待ってよっか」


「ちょ、いい加減に、離せコラァァァ!」


 ナダルはギルドから逃げるように離れ、ユイレ、シルフを捕まえると街の下側へ向かう。手持ち資金が前金により温まっていたため、トバラで夕食を取る事にした。


 トバラの名産はなんと言ってもイノシシ肉、これは他の大陸でもかなり有名だ。

 茜色の光が差し込む料理街を歩き、いい感じに空いている店を探して入店。2人は席に着き、メニューを見る。


「ん〜なんだこの、すぺありぶ?これにしよう」


「私イノシシチューにする」


「ボクは〜」


「俺のちょっと分けてやるからお前は注文すな」


 注文した料理が到着し、早速食べ始める。スペアリブはコショウの辛さとイノシシ肉がよく合っており、丸かじりというちょっとした派手さが旨さを引き立てていた。

はナダルとユイレは美味しく完食したが、シルフの口には合わなかったようでスペアリブを1口食べてやめてしまった。


「ご馳走様でした。美味かったな」


「うん、また来たい」


 ナダル少し腹を休めていると、なんだか窓の外が赤くなっている事に気付く。もう日は沈みきっている時間なので赤い光が発生するとは思えないが、なんだろうか。

 呑気に考えていると、冒険者の男が走って入店して来る。慌てた様子で、何かを伝えようとしていた。


「全員逃げろ!ミノタウロスが攻めて来やがったぁ!」


 冒険者のこの一言で、店内がパニックに陥る。店員も食事中の人間も全員店を飛び出し、残ったのはナダル達と冒険者のみになった。


「坊主!お前も妹担いで早く逃げな!大丈夫だ、俺たちが足止めしといてやるよ!」


「気遣いありがとう。こんなんでも一応冒険者なんだ、役に立たせてくれ」


 ナダルを冒険者は嗜めるする。信用もクソもない、自分より弱そうな冒険者がそんな事を言っても戦わせてはくれないだろう。

 そこでナダルはギルドでの出来事を思い出す、この国で「ナダル」はヒーロー的存在。自分が誰なのかを伝えれば戦いに参加させてくれるだろうと思い至った。


「バカ言っちゃいけねえよ坊主、ナダルさんは今頃ゴセ大陸でな」


「あれ、ナダルさんここにいたんッスね!探しましたよ!」


 ギルドにいた冒険者がやって来て、危険を伝えた冒険者を避難を急がせるよう指示。状況を説明しつつナダル達を現場に連れて行った。


「ナダルさんにはミノタウロスの対処をお願いします、俺らじゃ勝てねえんです。その分タウロス処理は任せてください、1匹たりとも通しませんよ!」


「分かりました。この上だな・・・ユイレ!あの辺に隠れてろ!」


 ナダルは現場へ急ぎ、さらに加速した。冒険者が唖然としているのも無視して坂を登り、タウロスの大群やミノタウロスを足止めする冒険者を見つける。


「こっから先には!」


「行かせねえ!!」


「ブモオオオッッ!」


 ミノタウロスは持っている巨大な戦斧で地面を抉り、壁を破壊し、冒険者を吹き飛ばすなどして暴れに暴れ回っている。

 家々には火がついて火事が起こっており、まばらに倒れている冒険者とタウロスの死体が争いの悲惨さを物語っていた。


「ひぃぃ・・・!!」


「あ、兄貴ィ!!」


 ミノタウロスが1人の冒険者にトドメを刺そうと戦斧を振り上げる。そこにナダルは飛び込み、ドロップキックでミノタウロスを弾き飛ばす。ミノタウロスは地面に倒れ、起き上がりながら状況を飲み込もうとしている。


「大丈夫か!?一旦下がってろ!」


「す、すまねえ、助かった!ここはこの人に任せて、一旦下がるぞ!」


 ナダルはミノタウロスと対峙する。ミノタウロスもナダルを新たな敵と見定め、その戦斧を構え直した。

ご読了ありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いします。

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