史上最強の魔法使い
辺りが薄明くなった頃、ナダルは警備から戻りパーティの三人を眠りから覚ます。4人は身支度を済ませると、マーネイトに向けて歩き始めた。
道中、サナがナダルに問いかける。
「ナダル様、警備中にモンスターいました?昨日は寝てる時すら音も気配もなかったんですよね」
「本当にどこにもいなかったな。アレスさんは見かけました?」
「いや、僕も見かけていない。昨日は誰もモンスターと戦わなかったようだな」
モンスターとここまで遭遇しないのは、かえって何か不気味さを感じる。このまま何も無い事が続けばいいのに、とリアンは考えながら歩いていた。
やがて日が完全に上り切った頃、勇者パーティは聖都マーネイトに到着した。
数多聞こえる人の声、朝1番にも関わらずのこの喧騒は繁栄の証と言えるだろう。街を進むにつれ大きくなっていくソレは、少人数で世界を回る冒険者達の耳には新鮮な物があった。
街の中腹あたりでアレスが指示を出す。
「さて、早速だがサナとリアンには買い出しを頼みたい。僕はナダルと共に精霊教会に挨拶へ
向かう。10時になったら中央広場へ集合してくれ」
「分かったわ。行きましょ、サナちゃん」
2人を見送り、アレスも荷物を持ち直す。
「ではナダル、僕達もいこう。今から精霊教司教に会いに行く。そこでなんだが、相手は司教と国王を兼ねていてな、立場上は庶民のナダルが王と会話すると失礼に当たるんだ・・・」
「えー!じゃあリアンさんが行った方がいいじゃないですか!リアンさんもアレスさんと同じ公爵家なんですから!」
「ナダルには最後に一仕事頼みたくてな、会話は全て僕が行うから、まぁほどほどに気楽にしていてくれ」
街を更に進むと、やがてだだっ広い広場に出る。広場の最奥に高い建物があり、その入口付近には沢山の近衛兵に守られる年老いた男性が立っていた。
アレスは老人の前に跪き、ナダルに真似するよう伝える。
「お初お目にかかります、ハーバー王。大皇国イザエラより参りました。勇者アレスでございます」
「よくぞ参られた勇者アレスよ、待ち詫びていたぞ。外で話すも癪だ、ついて参れ」
ハーバーに案内され建物に入る。建物は精霊教の大聖堂で、真正面の高い壁はそれぞれ4体の精霊を象った美しいステンドグラスでできていた。
地下に続く階段を下っていると、ハーバーは精霊教会の概要を語り出した。
「ここは地下施設で魔法研究をしていてな、貴殿らの目的の物もそこにある」
「逢魔の首飾りですね」
かつての勇者パーティが使っていた強力な力を秘める4つのアイテム。その1つが逢魔の首飾りだ。アレス達勇者パーティがマーネイトに立ち寄った1番の理由が、この逢魔の首飾りの回収である。既に3つは回収済のためここが最後だ。
「左様、国の防衛に魔法は必須故、魔法使いが持っていたとされる逢魔の首飾りは保有していたのだ」
「なるほど、マーネイト国民が安全に暮らせているのはやはり王の熱心な魔法研究と政治手腕の賜物でしょう、頭が下がります」
アレスの言葉にハーバーは微笑する。同時に不満もあるようで、ハーバーは続けて語った。
「国内はほとんど安全と言っていいが、貴族への租借地はそうもいかん。つい先日もある伯爵家の領地がモンスターに襲われ壊滅したと情報が入った」
「それは・・・ご愁傷さまです。しかし、我々が魔王を討伐した暁にはそのような事もなくなり、マーネイトはより盛況するでしょう。王よ、どうか御協力願います」
「無論だ、余は国民の為ならば手間を惜しむ事はしない」
「素晴らしいお心構えです」
地下部屋では、研究者達がそれぞれ研究を進めていた。正面通路の先に、黒いローブを羽織った顔の見えない人間が立っているのが見える。ハーバーを黒ローブを見ると、逢魔の首飾りを持ってくるよう命じた。
「奴は我が国の最高戦力、魔法使いリゼリアだ。」
「彼女が、史上最強と名高いあの・・・」
ナダルはリゼリアの背中を見つめる。身長は160cm前半ほど、そして僅かにアレスと似たような雰囲気を醸し出していた。
やがてリゼリアは黄色い宝石と鳥の羽のような物が付けられた首飾りを持ってきた。
アレスの所有する暁の剣に装飾された赤い宝石、それと同じ加工方が施された黄色い宝石を見て確信する、間違いなく逢魔の首飾りのそのものだ。
「これは貴殿らに引き渡そう。が、1つ条件がある」
アレスとナダルに緊張が走る。相手は王、延いては首飾りの保持者であり、首飾りを得るならば2人に否定という選択肢は無い。
それは例えどんな理不尽でも、呑まねばならぬ事を意味している。
「そこの魔法使いをリゼリアと交代させよ。リゼリアは特別な力を持っている、並の魔法使いでは到底実現不可能な事も実現可能だ、必ず貴殿らの役に立つであろう」
アレスはここで否定すれば首飾りは手に入らない事は分かっていた。しかし、ここまで協力してきた仲間を失う事は彼にとって耐え難い苦痛だった。
「王よ、お言葉ですがそれは了承しかねます。彼はリゼリアに負けず劣らずの立派な魔法使いです。それに彼が居なければ連携に支障が出る、リゼリアを入れて5人パーティにしては如何でしょう」
「勇者のアイテムは4つ、アイテムを持たぬ者はどう魔王に抵抗するのだ?」
「それはっ・・・」
アレスは言葉に詰まる。咄嗟に思い付いた案が完璧な訳もなく、アレスが返答を考えるうちにハーバーは溜息を付き話し始めた。
「貴殿らの言い分も分かる。そこでだ、そこの魔法使いにリゼリアとの決闘を申し込む」
ハーバーの言い分はつまりナダルとリゼリアを駒にした勇者パーティとマーネイト間の戦争。ナダルが勝てば勇者パーティはめでたく首飾りを確保、リゼリアが勝てばリゼリアは勇者パーティ加入となりナダルは追放される。
「中央広場で待つ、リゼリア、支度を」
リゼリアは静かに頷くと、一瞬にしてハーバーと共にその場から姿を消した。アレスとナダルも地上へ上がり、買い出しを終え広場で待っていたサナやリアンと合流する。
「すまない!面倒事になった!今からこの場でナダルとリゼリアの決闘が始まってしまう!」
「んなっ・・・!落ち着きなさいアレス、分かったわ、とりあえず一部始終を説明して」
アレスが決闘に発生するまでの流れと両者の要求を説明する。リアンは状況を飲み込み、ナダルの両肩をポンと叩いた。
「ごめんなさい、こんな事に巻き込んで。お願い、絶対に勝ってね。信じてるわ」
「任せてください!魔王ごとぶっ飛ばしてやりますよ!」
サナが不安げにナダルの服の裾を引っ張る。心配が限界に達したのか、目には涙が浮かんでいた。ナダルはサナの涙を拭い、落ち着くよう言い聞かせる。
「大丈夫だよ、ここで応援しててくれ。そうだ、これ持ってろよ」
ナダルは荷物から木の棒を取り出す。冒険者になる前に自分で作った魔法の杖である。落ちていた木の棒を荒削りしただけでなんの力も無いが、記念すべき初代として大切に保管していたナダルの宝物だ。
「俺の大切なものだからな、リゼリアに勝ったら返してくれよ?」
「分かりました、絶対勝ってくださいね!」
サナに微笑み、広場の方を向く。リゼリアは既に準備が出来ているようで、黒ローブを纏いナダルの方を向いていた。ナダルも杖を手に取りリゼリアの方へ向かう。
ナダルが対峙すると、リゼリアはローブを脱ぎ捨て顔を現す。
世にも珍しい紫色の髪と瞳、服装も紫を基調としたもので統一され、顔立ちの良さも相まって1種の芸術品の様にさえに見える。
リゼリアが杖を構え戦闘態勢を取り、ナダルも同じく構えると集まっていた野次馬達が熱狂し始める。熱狂のボルテージは、徐々に上がっていき、もう後戻りなどできないことをアレス達勇者パーティに嫌という程押し付けていた。
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